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トヨタのビジョン指向型問題解決は、ビジョン自体を定義し、実現していくもので、現在からの制約がなく、イノベーションそのものであり、プリウスがここから生まれている

第49回 改善の延長線上にイノベーションがあるトヨタの発想(2014.08.20)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆トヨタの問題解決

前回イノベーティブリーダーとは何かという話題の中で、ソリューションとイノベーションは違うという趣旨のことを述べたところ、ちょっとした反論(?)があった。それは、どこに境界があるのかという疑問だった。

その方がメールで述べていたのは、「トヨタの問題解決」という本の中に書かれていたことを引用されていたので、この本に書かれていることを紹介しつつ、僕の見解を述べたい。

トヨタの問題解決に何が書いてあるかというと、トヨタでは問題解決は2通りあると考えられており、

・現実に起こっている問題に対する発生型問題解決
・目標設定を上げたときに起こる問題に対する設定型問題解決

の2つがある。これらの対応責任は現場にあるのだが、これ以外に主に工場長などの幹部が責任を持つ問題に「ビジョン指向型問題解決」というのがあるそうだ。


◆ビジョン指向型

ビジョンとは

・経済情勢
・業界情勢
・日本の状況

などを踏まえて、

・自社はどうあるべきか
・自部門はどうあるべきか

を落とし込んでいき、それをあるべき姿として問題解決を行う活動である。活動そのものも半年くらいかけて行うという。

そしてこのような活動から生まれてきたのが「プリウス」だというから、かなり機能しているといえる。

さて、冒頭に述べた方の指摘は、ビジョン指向型問題解決というのはソリューションではないのかというものだ。

トヨタの問題解決を読むと「ビジョン指向型」がイノベーションを生むと書いてあるし、プリウスは素晴らしいイノベーションだと思う。


◆トヨタのイノベーションシステム

トヨタの問題解決の考え方はトヨタらしいというか、日本らしいというか、

問題とはあるべき姿と現実のギャップである

と定義した上で、あるべき姿には、今、あるべき姿、短中期でのあるべき姿、長期的にあるべき姿があり、それそぞれの問題解決を、発生型、設定型、ビジョン指向型として、ワンスキームで扱うようになっている。

つまり、ビジョン指向型というのは問題解決という名称になっているが、ビジョン自体を定義し、実現していくもので、現在からの制約がないのだ。言い換えると、過去のコンテクストに縛られることがなく、自由に絵を描ける。これは前回述べたイノベーションそのものである。

それにしても、イノベーションを起こすシステムを、問題解決のシステムの延長線上に位置づけて構築し、なおかつ成果を出してしまうトヨタという会社は凄い会社である。

◆ヒットもホームランも同じフォームで狙う

このすごみは、発生型の問題解決にある。問題が起こったらラインを止めてでも解決する。思い付きの問題解決ではなく、決まったプロセスでやっていく。その延長線上に、改善目標を上げて、どんどん問題を作り、解決し、成長していく。

ここでトヨタ流の問題解決の行動習慣が身につくわけだが、その行動習慣を身につけ、然るべき立場になれば、同じ行動でイノベーションが起こるという仕組みがあるわけだ。言い換えると、改善の延長線上にイノベーションがあるわけだ。

普通は改善の延長線上にイノベーションがあると言っている企業は、ヒットの延長線上にホームランがあるようなイメージである。いいところに当たればホームランが出るという発想だ。

トヨタは全く違う。ホームランはホームランとして狙う。しかし、打撃フォームは常に一緒なのだ。

こんなイノベーションマネジメントのシステムは世界に例を見ないのではないだろうか?

もっとも書籍にはイノベーションと書いているが、一般の企業のようにうわっすべりなイメージでイノベーションという言葉を使っている幹部などいないのだろう。プリウスの開発も日常の業務の延長線上にあるわけだ。

トヨタ、恐るべしである。


【参考資料】
(株)OJTソリューションズ「トヨタの問題解決」、KADOKAWA/中経出版(2014)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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