第41回 セレンディピティから生まれるイノベーション(2014.06.18)
◆セレンディピティとは
セレンディピティという言葉がある。簡単にいえば、偶然のひらめき。もう少し丁寧にいえば何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つけることである。
厳密にいえば、セレンディピティは現象ではなく、能力である。上の説明が能力だとどうなるか。
ふとした偶然をきっかけにひらめきを得て、幸運をつかみ取る能力
となるわけだ。なんだか神が下りてくるみたいな話になって、本当にそんな能力があるのかという話になる。
◆シンクロニシティ
話は変わるが、シンクロニシティという概念がある。同時性のような意味だ。セレンディピティという言葉を聞くと、シンクロニシティを連想する。
「ティッピング・ポイント」(ある一定の閾値を越すと一気に全体にいきわたる状態になる閾値)で知られるマルコム・グラッドウェルによると、主要な科学的発見のうち、重複型に当てはまるものが148件あったとしている。
有名なところでは、ニュートンとライプニッツは、別々に微積分を発見した。チャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ウォレスは独立に進化を発見した。エネルギー保存の法則は、これは1847年に、ジュール、トムソン、コールディング、ヘルムホルツの4人が独立に考案した。こんな事例がたくさんあるらしい。
こうなると何かシンクロシティのメカニズムがあると考えるのが普通だろう。そして、それはセレンディピティと関係があるに違いないと思えてしまう。
◆セレンディピティによるイノベーション
> セレンディピティは、そのメカニズムは解明されていないが、何かメカニズムはあり、イノベーターは暗黙知としてセレンディピティという能力を持っていると考えている人もいる。
日本でお馴染みの商品がセレンディピティで生み出されたイノベーションのベスト3は、3Mのポストイットか、コカ・コーラ、ポテトチップスではないかと思う。
ポストイットは、1969年に3Mの研究員スペンサー・シルバーが偶然に作った非常に弱い接着剤を、別の研究員が本に紙を貼ることができないかと提案したことをきっかけにポストイットが誕生した。弱い接着剤を生み出したという偶然と、本に貼るというひらめきが生み出したイノベーションだ。
コカコーラはもともとワインとコカを混ぜたうつ病や神経衰弱症に効果のある調合薬として作られていた。1885年にジョージ州で禁酒法が施行されると、炭酸水とコカを混ぜたソーダとして販売されるようになり、コカ・コーラが生まれた。ワインが使えないという偶然と、ソーダを使うというひらめきが生んだイノベーションだ。
ポテトチップスは、もっと薄くて、カリカリしたフライドポテトが食べたいと傲慢な客に要求された米国ニューヨーク州のレストランのシェフが怒ってジャガイモを薄く切り、じっくり固くなるまで揚げたことから生まれたという説がある。客がカリカリのフライドポテトを要求したことが偶然であり、薄切りを固くなるまで揚げるというひらめきが生み出したイノベーションである。
ポストイットはニーズ、コカ・コーラは法律、ポテトチップスは顧客要求がきっかけになって偶然生まれたイノベーションだということになる。
◆セレンディピティのメカニズム
このようにセレンディピティが生み出すイノベーションは強烈なものが多い。問題はメカニズムだが、脳科学者の茂木健一郎さんはセレンディピティには3つのAがあるという。
一つ目は「Action」(行動)、二つ目は「Awareness」(変化)、三つめは「Acceptance 」(受容すること)で、行動する中で、変化に気づき、新しい価値観を受け入れる。この3つのAのサイクルが回ったときにセレンディピティによるイノベーションが生まれやすくなると指摘している。ただし、脳科学的なメカニズムはまだわからないそうで、いわば彼の直観ということなのだろう。
しかし、こういう風に説明されると能力としてのセレンディピティという能力が持てるような気になる。
もう少しヒントが欲しい人には、伊藤穣一さんのMITでの講義ノートがお勧めだ。かなり、このサイクルの実行の具体論に踏み込んでいる。
伊藤 穰一(狩野 綾子訳)「「ひらめき」を生む技術 (角川EPUB選書)」、KADOKAWA/角川学芸出版(2013)
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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