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クラウドストーミングは時としてイノベーションに結びつく優秀なアイデアを得られるだけでなく、イノベーションにまつわるコンフリクトを解決する可能性がある

第39回 クラウドストーミングでオープンイノベーション(2014.06.04)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆クラウドソーシング

クラウドソーシングという調達方法が普及してきた。クラウドソーシングは、wired誌のコントリビューティング・エディターだったジェフ・ハウが2006年に提唱した概念で、

特定の仕事を成し遂げるために組織が不特定多数の人々と協働すること

を意味しており、どちらかというとスキル的(労働力)な調達を意味することが多かったが、やがて、クラウドファンディング(資本)、コンピュータ資源、データなど、多くのものが調達の対象になるようになった。

※詳しく知りたい人は、ジェフ・ハウの著書を読むことをお勧めする

ジェフ ハウ(中島 由華訳)「クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす」、早川書房(2009)


◆アイデアを調達するクラウドストーミング

その中で、アイデアや技術を調達しようというのがクラウドストーミングである。オープンイノベーションには不可欠だといってもいい手法である。

概念的にはクラウドソーシングの一種であるが(厳密な意味で労働力とアイデアを分けることはできない)、労働力、モノ、金を調達するのと、アイデアを調達するのは根本的に違う部分がある。それは、アイデアがインタンジブルなアセットだからだ。

アイデアを調達しようと思えば、可視化をしなくてはならない。たとえば、機械を調達しようとすれば設計図で可視化できる。可視化の方法がきまっている。ところが、ソフトウエアを調達しようとすると、可視化の方法が決まっていない。そこで、調達したいソフトウエアの説明や調達条件をまとめRFP(Request For Proposal)という形で可視化する習慣がある。

アイデアの可視化というのは非常に難しい。そこで、どのような問題として求めるか、どのような体制で求めるかなど、いくつもの工夫が必要になってくる。


◆クラウドストーミングで金脈を掘り当てた!

これらがクラウドストーミングの課題であるが、実際にクラウドストーミングはどのような形で行われているのだろうか?クラウドストーミングの方法を体系化した、

ショーン・エイブラハムソン、ピーター・ライダー、バスティアン・ウンターベルグ(須川綾子訳)「クラウドストーミング 組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方」

に豊富に成功例が紹介されているので、この中から一つ紹介しておこう。

カナダの金鉱山会社ゴールドコープは保有する持つ鉱山の地質データをデジタル化し、公開し、金の鉱脈を掘り当てるように呼びかけ、575万5000ドルの賞金を懸けた。

これに対して、科学者、地質学者、技術者、軍事関係者、学生、コンサルタントなどさまざまな職種の人たちが、50か国で1400人以上が参加した。

参加者が予想した地点は110か所に上り、その中の半数は社内では一度も注目されていない地点で、なんとその80%以上から大量の金が出たそうだ。

その結果、鉱脈の探査期間が2〜3年短縮されたと見積もられている。すばらしい成果である。

アイデアを調達することによって、このようなイノベーションの成果が得られる可能性がある。


◆クラウドストーミングでイノベーションを仕掛ける

クラウドストーミングは時としてイノベーションに結びつく優秀なアイデアを得られるだけでなく、イノベーションにまつわるコンフリクトを解決する可能性がある。企業にはイノベーションの重要性は理解するが、当面の業績の向上を優先するという価値観を持つところが多い。

問題はたいていの場合、リソースの活用方法にある。イノベーションを可能にする優秀なAクラス人材は当面の収益を確保する業務に当てたい。結果として、イノベーションにはBクラスの人材しか当てられない。そのため、イノベーションがうまく行かず、いつのまにか片隅に追いやられる。

念のために言っておくが、BクラスよりAクラスの方がいいアイデアを出すといっているわけでない。むしろ、逆かもしれない。ここで言っているのは、イノベーションの成功には組織のサポートが必要で、それについてはAクラス人材の方が間違いなく有利だということだ。

そこで、アイデアを調達するということを考えてみてほしい。Aクラスの人材が当面の収益業務とイノベーションを両立することができるようになるだろう。

このような目的のクラウドソーシングをうまくやったのが、日用雑貨のP&Gである。P&Gは業績に苦しんでいたときに、名経営者として知られるアラン・ラフリーはコスト低減に徹底的に取り組み、一方で重要性の低いイノベーションを外注するという常識はずれの策をとって立て直しに成功した。外注したイノベーションの割合は50%に上る。

こういうことができるのだ。日本の企業も、業績のためにイノベーションができないという悩みを抱えている企業が多い。そんな企業がクラウドストーミングに取り組んでみる価値があるだろう。

【参考文献】
ショーン・エイブラハムソン、ピーター・ライダー、バスティアン・ウンターベルグ(須川綾子訳)「クラウドストーミング 組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方」、阪急コミュニケーションズ(2014)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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