第29回 技術とイノベーション(2014.03.26)
◆イノベーションは技術革新ではない
この数年、ビジネスモデルイノベーションへの関心が高まって、イノベーションと技術の関係について、多少極論ともいるような議論がなされるようになってきた。今回は、技術とイノベーションの関係について改めて考えてみたい。
日本語では、イノベーションという言葉を技術革新と訳してしまったために、イノベーションというと技術革新のことだという批判がある。これは正しい。
企業が行う不断のイノベーションが経済を変動させるという理論を構築したヨーゼフ・シュンペーターは、1912年に刊行した「経済発展の理論」で、イノベーションを新結合と呼んでいた。そして、新結合は、経済活動において旧方式から飛躍して新方式を導入することであるとした。この本の中で、シュンペーターはイノベーションとして以下の5つの種類があることを示している。
・新しい財の生産
・新しい生産方式の導入
・新しい販売先の開拓
・新しい仕入先の獲得
・新しい組織の実現
技術に限定したものではない。ただし、時代背景を考えると新方式には新技術が絡んでくると考えてよい。イノベーションと技術革新としたのもそのあたりの背景があると想像でき、今いわれている技術革新だけがイノベーションではないというのとは多少ニュアンスが異なる。
今の時代のイノベーションは、コモディティ化された技術、あるいは部品でこれまでにはなかった新しいものを作り出すことをイメージした議論だからだ。
◆今までの日本企業の追い求めてきたものは実現方法のイノベーション
今まで、キャッチアップの時代には、日本の企業はひたすらより性能のよい実現方法のイノベーションを追い求めてきた。その典型が自動車である。自動車によって日本の産業力は大きく向上した。シュンペーターの種類でいえば、広い意味での生産方法である。
ところが今、求められているイノベーションは製品そのもののイノベーションである。自動車そのもののイノベーションが求められている。実は今までもそのようなイノベーションがなかったわけではない。その代表がウォークマンである。
ウォークマンを可能にしたのはソニーの小型化技術であるが、技術があってウォークマンができたわけではない。移動中に音楽が聴きたいという生活者の欲求があって、それから生まれたものだ。日本発のイノベーションとしてイノベーション史に名を刻んでいるものはこのタイプのイノベーションである。
◆今、求められているもの
> 今、求められているのも生活を変えるイノベーションである。なぜ、日本ではiPhoneが作れないかという問いがあるが、この答えの一つは間違いなく、生活者を観念的にしか理解していないからだ。
生活者を見ずに、技術をみて、できそうなものを作ってきた。今、求められているのはその逆である。生活者を見て何が必要かを考え、コンセプトを作る。ここにデザイン思考やその中でとくに観察が重視されている理由である。
そして、それを実現するために必要な技術を探し出し、使う。このときにコモディティ化された技術であればあるほどアイデアで勝負でき、コストを下げることができ好ましい。
◆目的のもとに新しい技術を開発しても構わない
ただし、このことは新しい技術の開発を妨げるものではない。目的ははっきりしているのだから、開発も積極的に行うべきである。ここで見過ごせないのは、技術がないから製品開発をあきらめているケースが結構あることだ。もちろん、技術開発から始めたときのコストがビジネスとして採算が取れないものである可能性があれば、見送るという判断がないわけでない。
ここで問題になるのはイノベーションのライフサイクルをどうみるかだ。イノベーションというのは一発勝負ではない。コンセプトができたときに、本当にコンセプトが実現できるのは、第二世代、第三世代ということも珍しくない。たとえば、iPhoneというコンセプトが完成したのはおそらくS4ではないかと思われる。
【イノベーション戦略ノート:025】イノベーションのシナリオ
そのように考えると技術開発のコストもイノベーションのライフサイクルで考えるべきだ。すると、ずいぶんとハードルは低くなる。
◆コンセプトを広く考える
もう一つの問題は、コンセプトをできるだけ広く考えることだ。言い換えるとコンセプトとデザインする際の抽象度を上げる。たとえば、iPhoneでいえば、iTuneそのものはiPodで生まれたイノベーションである。iPodは音楽だったわけだが、iTuneのコンセプトはコンテンツの販売で、そこには映像も、アプリも含まれる。ゆえに、iPhoneでは、iTuneはアプリを販売するというイノベーションができた。
このようにコンセプトの幅があると、あるイノベーションで開発した技術が別のイノベーションで活かせる可能性が高くなる。ここはイノベーションと技術との関係で考えておく必要がある。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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