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イノベーションにおいて、ソリューションが顧客のニーズを満たし、自社の戦略に合致することが必要。技術者が生活者(ニーズ)を観察するときに難しいのは、技術というフィルターを通す傾向があり、おおさげにいえば、技術的に解決しない生活者のニーズは目に入らない

第30回 続・技術とイノベーション(2014.04.02)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆はじめに

前回、イノベーションと技術の基本的な関係について述べた。その中で、従来のように「技術ありき」からイノベーションを始めるのではなく、生活者の観察により目的ありきからコモディティ化された技術によるイノベーションを目指すことが望ましいことを指摘した。ただし、そこでその中で技術開発が必要であれば行うという姿勢が重要であることにも触れた。

今回は、この議論をもう少し深めてみたい。

技術者が生活者(ニーズ)を観察するときに難しいのは、技術というフィルターを通す傾向があることだ。おおさげにいえば、技術的に解決しない生活者のニーズは目に入らないといってもよい。この点において、技術的な視点を持たない人はニーズを直視することができるともいえる。

では、技術的な視点を持たない方がよいのかというと否である。ここで問題になるのは、ニーズと「課題」の関係である。


◆ニーズと課題

生活者ニーズに注目したイノベーションのプロセスは以下のようなものになる。

まず、生活者の観察からニーズを見出す。そこから課題を見つけ、理解し、ソリューションを考案し、実現していく。重要なことは必ずしもニーズに応えるのがソリューションではないということだ。これは課題というものの由来による。

課題に必要なのは、その解決に財務的なインパクトがあること、ソリューションが見つけられそうなことであるが、その上で、

課題とソリューションが顧客と経営陣に受け入れらること

が必要である。言い換えると

ソリューションが顧客のニーズを満たし、自社の戦略に合致すること

が必要である。


◆課題を定義する視点

そのためには、課題を顧客視点からのみ定義するのでは不十分である。一般的にいえば、課題のソリューションを自社の技術を活かして優位性を築くことができる市場機会があって初めて戦略に合致する。

「シリアル・イノベーター」という本を書いたアビー・グリフィンは、ブレークスルーイノベーションを起こすためには、課題の深い理解だが不可欠だとしたうえで、課題を理解するためには

・顧客視点
・技術的観点
・市場機会
・競合のポジション

の4つの視点から課題に関する情報を統合する必要があると指摘している。


◆顧客と技術の行き来が重要

特に、顧客と技術の行き来というのがポイントになる。具体的には

・顧客ニーズをどのような技術で実現するのか
・自社にはその技術があるのか
・他社にはその技術があるのか
・自社技術で市場で優位性を持つ製品が実現できるか
・自社技術で実現できる顧客の潜在的ニーズはないか

といったところを考えていく必要がある。そうして、深い顧客理解をもとに、他社より優位性のある製品を開発していくことが戦略を実行する方法である。


◆技術のコンセプトの重要性

以上の中でもう一つ触れておきたいことがある。前回の最後に顧客ニーズのコンセプトを広くすることが重要だという話をしたが、同じように技術についてもコンセプトを明確にする必要がある。

コモディティ化された自社技術で市場での優位性を持つためには、当該分野の技術では競合にすぐに模倣されてしまう可能性が高い。もちろん、そこを顧客に対する深い理解で差別化することは重要だが、同じくら重要なことはコンセプトを手繰って、他の分野でつかわれているコモディティ技術を探し出すことである。

このような発想をできるようにするには、日常的に技術のコンセプトについて考える習慣をつけておくことが重要だろう。


【参考文献】
アビー・グリフィン、レイモンド・L・プライス、ブルース・A・ボジャック(市川文子、田村大、東方雅美訳)
シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀」、プレジデント社 (2014/3/29)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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