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模倣とはとにかく真似をすることだが、ベストプラクティスは本質や原理を真似ている。模倣がダメではなく、本質を模倣すれば新しいコンセプトが生まれてくる可能性が高い

第23回 模倣からイノベーションを生み出す(2014.01.08)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆模倣はタブー、、、か?


最近、気にかかっていることがある。それは、日本人は模倣が嫌いだという話である。模倣はタブーだと言い切る人さえいる。

確かにこの4〜5年、中国の模倣事件の報道を見ているとボロクソに叩いているし、スティーブ・ジョブズが存命の頃、会社の全財産を投げ打ってでも「コピーキャット」(サムスン)を潰すという啖呵に拍手喝采をしていた人も少なくない。

模倣をすることは法律に違反するかどうかという明確なようで曖昧な一線があるが、この一線を越えない模倣は本当によくないことか。これが今回のテーマだ。


◆キャットコピー、猿真似、、、

まず、言葉の問題から入ろう。ジョブズのいうコピーキャットという言葉はそっくりそのまま、マネをすることを意味する。何で、catなんだって話もあるが、米国人に聞いた話ではスラングで相手を見下げた表現には cat をつけるとのこと。何でネコがそこまで嫌われるのかは知らないが、模倣するというのは見下げた行為だということだ。

ちなみに、日本語でいえば「猿真似」という言葉が近いと思うが、こちらは分かりやすい。人間と似ていて若干知能レベルが低いサルが真似をするってことだ。

ところが、模倣という行為が高尚な行為とみられているケースもある。たとえば、ベストプラクティスの活用だ。ベストプラクティスは真似るべき実践として位置付けられる。ベストがつかなくてもそうなのだが、真似る、模倣することがそんなに悪いことではないと考えている節がある。


◆ベストプラクティスと模倣

では、模倣とベストプラクティスはどう違うのか。言葉だけの問題だといえなくもないが、本質的な違いもあるようにも思える。

ひとつは、体系的かどうかだ。日本語に「いいとこどり」という言葉があるが、大体失敗する。中小企業で多いが、社長がどこかの講演会で注目企業の社長の話を聞いてきた。これはいいと思って、自社にも導入してみるが、うまくいかないどころか、混乱を引き起こしてしまった。模倣するとこういうケースが多い。

製品でも競合の機能のいいとこどりをしていることが、ガラパゴスを生んでいるといっても過言ではないだろう。

ベストプラクティスを適用するという場合には、適用条件を明確にして、どのような範囲にどのような組み合わせで導入すれば目的としている効果が得られるかを考えて導入する。これもいいとこどりには違いないが、上の方法とは雲泥の差がある。

模倣と言う言葉の言霊にはこういった考えて真似るというニュアンスがないことは確かだ。その辺がアレルギー反応を生んでいるのかもしれない。

もう一つは、模倣というのはとにかく真似をしようと言うことだが、ベストプラクティスは本質や原理を真似ようということだ。

ここに話の本質があるように思える。


◆本質の模倣はイノベーションを生む

製品をそのまま模倣しても効果がない。しかし、もう少し抽象的なレベル、たとえば、ビジネスモデルで模倣することには問題がないというより、模倣すべきである。特に、異なる環境(業界)の模倣をしたビジネスモデルを自分達の分野に適用することはイノベーションのチャンスにつながる。

たとえば、トヨタの生産方式の中核を占める「かんばん方式」は元々アメリカのスーパー・マーケットの在庫補充システムにヒントを得てつくられたものであることは有名な話である。これは在庫補充システムの少なくなったら補充し、欠品を出さないというコンセプト(本質)を模倣したものである。

昨年、ブレークしたJINS眼鏡は、社長の田中氏がファーストリテイリングの柳井会長との面談の機会があり、表面的な模倣では限界があることに気づき、「メガネはファッション。洋服のように簡単に着替えられるアイテム」というコンセプトを深め、ユニクロを模倣して、

「メガネをかけるすべての人によく見える×よく魅せるメガネを、市場最低・最適価格で、新機能・新デザインを継続的に提供する」

という事業コンセプトに改め、安かろう悪かろうのイメージを払拭し、今の成功をおさめたというエピソードがある。


◆キャッチアップではないので模倣はできないというウソ

ここでもう一度考えてみたいことは、いま、多くの人が信じている

キャッチアップの時代は模倣で通用したが、先頭に立ったのでもう真似るべきことはない

という話だ。

もちろん、高度成長期の日本がやってきたことでもあるが、中国や韓国の企業のように、製品そのもののコピーをするようなことは今の日本には求められていない。独創的なアイデアというか、世界の人の生活を変化させるような新しいコンセプトを生み出すことが期待されている。

しかし、だから模倣ではダメだというのは論理の飛躍である。本質を模倣すれば新しいコンセプトが生まれてくる可能性が高い。むしろ、どれだけいろいろなものの本質を模倣し、人類の蓄積してきた知恵を成長させていくかが問われている。


◆山寨文化が意味すること

ただし、この模倣には難しい点があることに留意しておく必要がある。日本人が非難する中国人の模倣の感覚には、

「他人が考えたのと同じ物を作ったり、作り方を真似しても、『物』自体を盗んだのではない。何が悪いのか?」

という感覚(文化)がある。この文化は、山寨文化と言われる。山寨とは、山寨はこっそりいろいろな物を作れる、人里離れた山の中にある要塞のことである。詳しく知りたい人は、こちらの本を読んでみてほしい。

阿甘(生島大嗣監修、解説、徐航明/永井麻生子訳)「中国モノマネ工場」、日経BP社(2011)

山寨文化が意味することは、模倣をする場合の抽象度の設定とは非常に難しいということだ。この議論は本質とは何かという議論にも通じるが、極めて感覚的なものだといえる。ここをよく考えなくてはならない。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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