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競争を控え、自分のポジションを守ることを目的とした守りのイノベーションも状況により必要だが、勝つためのイノベーションをどこかで仕掛けないと、じり貧となってしまう

第18回 攻めのイノベーション、守りのイノベーション(2013.08.27)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆「何のためにイノベーションをするのか」

イノベーションに対するもっとも重要な問いは「何のためにイノベーションをするのか」にあるように思う。この問いに対するもっともラディカルな答えは、新しいものを追求するのは、組織や人間の本能であるというものだろう。だが、この本能をむき出しにしてイノベーションを行っている企業はジョブズが存命のころのアップルとか、そんなにたくさんはない。やはり、イノベーションに取り組む企業には目的がある。

一言でいえば戦略を実行するためであるが、具体的な目的はさまざまである。それをあえて分けるとすれば、競合に勝つこと(攻め)、負けないようにすること(守り)の2つに分けて考えることができる。


◆攻めのイノベーション

攻めのイノベーションは市場を変える製品やアイデアを生み出すことを目指す。そのためには、自らの組織を変えることもいとわないラディカルなイノベーションを行う。

この20年くらいで勝つためのイノベーションでもっとも成功した企業のひとつはアマゾンであろう。アマゾンは、設立当時不可能だと考えられていた本1冊を出荷するというビジネスモデルを見事に実現し、本1冊から販売できるようにした。

アマゾンが日本に上陸し、成長しているころ、ちょうどある物流企業の仕事の手伝いをしていたが、多くの物流企業はアマゾンの要求は困難なものが多く、物流業者が対応できないと見ていた。しかし、それを乗り越え、今では、当日に届けるという神業すらできるようになっている。

アマゾンの要求を実現することによって、物流業者の能力を上がっているように見えるのでWin-Winの関係なのだろう。


◆守りのイノベーション

イノベーションというと勝つためと思うかもしれないが、いつもそう都合よくはいかない。日本でいえばバブルの後の失われた20年のような不透明な時期は攻めのイノベーションは仕掛けにくいし、あまり有効ではないことが多い。

また、強力な競合がいる場合には、負けないためのイノベーションで流れが変わるのを待つことがある。

このような場合には、守りのイノベーションに取り組む。守りのイノベーションは基本的には競争を控え、自分のポジションを守ることを目的とする。

守りのイノベーションでは、競合のあらゆる動きに対応しなくてはならないので、投資は分散し、それぞれの製品において迅速に対応し、想定できる範囲でしかリスクをとらない。
そのため、コストを削減するとか、ラインナップを拡充するとかいった戦略ととることが多い。イノベーションのタイプとしてはインクリメンタルイノベーションが多くなる。

たとえば、スマートフォンでは基本的に日本のメーカは負けないイノベーションを行っている。その背景には、いま、神がかり的なアップルもそのうち、神通力を失うだという読みがある。競合が弱ってきたら、そこで勝つためのイノベーションを仕掛けるのだ。


◆守りイノベーションのリスク

守りイノベーションにはリスクもある。アップルは勝つためのイノベーションを続け、iPadを投入してきた。やがて、ウェアラブルとか、テレビに進出することが予想される。このように競合が攻めのイノベーションを連続して仕掛けてくると、追従できなくなり、競合が失敗しない限り逆転は難しくなる。これが一つ目だ。

もう一つは、新しい強力な競合が出てくる可能性があることだ。スマートフォンの例でいえば、サムスンがそうだ。日本市場で負けないイノベーションをしているうちに、サムスンが出てきて、世界市場ではアップルと並ぶ位置まで来てしまった。幸か不幸か、日本市場では振るわずシェアを食われていないが、アップルの様子を見ているうちに、世界市場のようにサムスンにシェアをとられても不思議ではなかった。これも守りのイノベーションのリスクである。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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