第17回 「借りる」をやめる(2013.08.20)
◆借りてきて安くつくる
今回はちょっと視点を変えた議論をしてみたい。
イノベーションの実行を阻んでいると思えるものの一つに「借りる」文化がある。「思考の整理学」で有名な外山 滋比古先生が「思考力」(さくら舎、2013)という本の中で、こんな指摘をされている。ちょっと長くなるが引用させて戴く。
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新しいものをつくる力がないので、よそのものを借りてきて安くつくる、中国や韓国がいまやっていることを日本はやってきた。(中略)。いま、日本が困っているのは、借りるものがなくなってきたことだ。借りたものをつくるにしても、効率が悪いから、国内には工場ができない。つまり、日本において「借りる」限界がきたのである。このへんで自前の仕事がどこまでできるか、真剣に考えなければいけないのに、依然として、どこかによい技術があればそれを導入する(借りる)ことばかり考えている。
(p73-74)
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いわゆるコピーキャット論である。
◆コピーキャットへの反論
このような意見に対して反論をする人もいる。
反論として多いのは、役割の違いだというものだ。つまり、コンセプトやドミナントデザインを欧米が考え、日本人はそれを進化させることで貢献しているというものだ。実際にそのような形で開発された製品が欧米でも利用されていることも多いので、この指摘もその意味では正しい。
ただ、これまでにやってきたことがコピーキャットではないとしても、今までのやり方に限界がきていることだけは間違いない。
◆もっと気になること
もっと気になるのは、製品コンセプトやアーキテクチャー、技術だけではなくて、考える方法論においても「借りる」をやっていることである。例えば、最近イノベーションの仕掛けでデザイン思考やフューチャーセッションいうのが注目されるようになっている。いずれもみんなで考えることを実現する素晴らしい方法だと思う。ただし、これも借り物である。
ここは意見の分かれるところだと思うが、借り物のプロセスで本当に新しいアイデアが生まれてくるのかという問題がある。たとえば、日本には昔から、「ワイガヤ」という文化がある。異業種交流会というのがある。こういうものを発展させればフューチャーセッションと本質は同じで、少し違った日本に適した仕掛けや仕組みができていくであろう。
ここが実は大きな問題で、グローバル化は製品、あるいは製品コンセプトで必要なものだが、プロセスが必要だとは思えない。よく外国人と一緒に仕事をするためには自分たちのプロセスをグローバル標準に合せなくてはならないという議論があるがこれはナンセンスというものだろう。
たとえば、トヨタ生産方式にしても、スクラムにしても日本で生まれたものが海外に受け入れられ、発展していっている。最新のマネジメントの考え方は日本の考え方を取り入れたものが多い。よいものを作り、売込んでいけば、それがグローバル化への近道である。そのためには、製品や技術だけではなく、プロセスにおいても、借り物を捨て、新しいコンセプトを生み出していく必要があるわけだ。
◆本当に失敗できるのか?
この問題の深刻さは、借りる習慣によって新しいものを創り出す力を失っているかもしれないことだ。イノベーションの議論をすると、二言目には失敗できないという話しになる。確かに多くの組織においてそのような風土があるのは間違いないが、では、失敗してもいいよと言われると、本当に失敗できるのかという疑問が生じる。
失敗するというのが意外と難しい。失敗してもいいよと言う意味は、100%不可能なものをやってもいいという意味ではない。ビジネスでいえば、10%くらいしか成功しないというあたりが限界だろう。10%失敗する確率があることを探すことは簡単だ。過去にやってきたことにひと手間かけるような企画をすればよい。借りてくるというやり方も大抵このあたりだ。
ところが90%の確率で失敗するとなると、相当に新しい要素が含まれていなくてはならない。確率的にいえば、成功確率50%の要素を3つ組み合わせると、ほぼ10%の成功確率になるが、ひとつの製品なり、システムの中にそんな要素を3つ考えるというのは相当に難しい。
本当に失敗をしようと思ったら、まず、外山先生の言われるように「借りる」をやめ、自分の頭でコンセプトから考えることだ。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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