第20話 イノベーションの風土づくり(2)〜イノベーションの雰囲気をつくる(2013.08.02)
◆深刻な雰囲気の中でイノベーションは生まれない
ラテラル・シンキングで有名なポール・スローンの言葉にこんな言葉がある。
深刻な雰囲気の中でイノベーションは生まれない
日本企業でイノベーションが生まれない理由を一言で説明すればこの言葉に集約されるのではないか。イノベーションを目指す企業にとってよいお手本であるグーグルがメディアで紹介されるのを見るたびにこの言葉を思い出す。
制度やイノベーションマネジメントにも15%ルールを初め、学ぶことはたくさんあるが、注目すべきは
社内移動用の電動キックボードやセグウェイ、料理人が各国の料理を提供する無料食堂、フィットネスジムやサウナを完備したキャンパス、定期的に開催されるローラーホッケーのイベントなど充実した福利厚生サービス、猫以外のペットを持ち込み可能なオフィスやおもちゃなど遊び道具を持ち込める仕事部屋、ラバライトやゴムボールがあちらこちらに置かれた独特な企業文化(WikipediaのGoogleより)
といった社風だ。
◆2つのオフィスの経験から
ちょっと想像してみてほしい。しーんと水を打ったように静まり返ったオフィスで、失敗してもいいよといって新しいことに取り組むときにどれだけ自由な発想をできるか。机に座りっぱなしで立つのにも人の目を気にするようなところで、ものを考えることができるのか。
僕は後ろから上司が見張っているようなレイアウトのオフィスと、ブースに仕切られたオフィスで、ブースから出れば、ゲームや運動に興じることのできるオフィ
スの両方で働いた経験がある。それぞれに長所があると思うが、ものを考えることにおいては圧倒的に後者の方が生産性が高い。
もちろん、環境が生産性を高める直接的な要因になっているわけではない。そのような環境から生まれる雰囲気や風土が生産性を高めている。
◆組み合わせを引き起こすオフィス
両方に長所があると言ったが、ルーチンワークをするには前者の方がいい。後者のオフィスでソフトウエアの受注開発をしている人たちがいたが、生産性が悪いと
思ってみていた。なぜそうなるのかと考えたことがあるのだが(これは当時、論文に書いたことがある)、スティーブ・ジョブスを初め、多くの人が言っている
ように創造とは組み合わせなのだ。一見、関係がないものを組み合わせることができる。その距離が遠ければ遠いほど、創造性が高い。
この組み合わせを引き起こすには、統制のとれたオフィスは邪魔だ。人が自由に動け、自由に行動することのできる環境ができて初めて、組み合わせが生まれる。机の上で考えていても無駄だ。
こ の主張をしたときに、日本のオフィスは米国と違ってパーティションがなく、自由に周囲の人と話ができるし、ワイガヤのようなスペースもあると言った人がい た。僕は会社にいたときに、全然違う部門に雑談をしにいって、こっぴどく怒られたことがある。そのときはその上司の考え方の問題だろうと思って気にもしな かったが、会社を辞めていろいろは企業の内部を見る機会ができると、特殊なものではないことがよく分かった。部門の壁を超えることは難しい。ある知人が 言っていたが、社外より社内の方が遠いとか。
◆危機感からは何も生まれない
日本の企業の多くが真面目な顔をして仕事をしているのは、アリバイ作りだと思う。失敗しないように一生懸命やっているという雰囲気を醸し出している。そうして初めて、失敗の責任を取られない風土ができるのだ。
上に述べた2つのオフィスの後者には見学者が絶えなかった。当時、管理職だったので見学者のアテンドをすることもあったが、良く出る質問に、クライアントに
見せられるのかいう質問があった。納品先に工場を見せるような感覚で言っているのだろうが、若気の至りで、「クライアントに人を売っているわけでも、時間
を売っているわけでもなく、成果は出せるので見せることはできる」といったようなストレートな回答をして呆れられていた。
要するに静寂なオフィスと整理整頓された工場は一緒なのだ。まあ、日本的な価値感として分からなくはない。そう思っている会社はぜひ結果を出して、自らの主張が正しいということを世の中に訴えてほしいと思う。
ただ、静寂なのはいいかもしれないが、深刻なのはよくない。キャッチアップでは深刻さは危機感ともいい、推進力になる。しかし、新しいことをやるのに危機感 は要らない。逆に、危機感を持って新しいことをやってもうまく行かない。会社の存続をかけた新商品開発プロジェクトなど、めったにうまく行かない。
特に行き詰りによる危機を乗り越える方法は危機感をあおることではない。危機感から解放して、自由に発想できるようにすることである。
◆インプロ(寸劇)
その一つの方法として、密かに注目しているのが、インプロ(寸劇)だ。環境を変えるとなるとおおごとで、現実にはなかなか難しい。その中で、たとえば、ミーティングだけ自由にやるといった工夫が必要だろう。
ワールドカフェのように、ミーティングの場の環境だけを変えてやるという方法もあるが、ロールプレイや寸劇で打ち合わせをやるというのも効果的である。特に、手垢のついているロールプレイに比べると、インプロは目新しいせいか、結構、効果がある。
これはこれで奥が深い世界のようだが、ゲームストーミングの手法として簡単なやり方があるので、興味がある人は勉強してみてほしい。とりあえず、PM養成マ
ガジンの10周年のときに、野村さんにファシリテーションしてもらったワークショップで使われていたので、様子を紹介しよう!
【10周年】第1回「ゲームストーミングを活用したプロジェクト活性手法」の様子
Dave Gray、Sunni Brown、James Macanufo
「ゲームストーミング ―会議、チーム、プロジェクトを成功へと導く87のゲーム」、オライリージャパン(2011)
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3.コンセプチュアルなマネジメントの目標
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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