第22話 イノベーティブリーダーの質問力(5)〜イノベーションにとってもっとも重要な質問(2013.11.01)
◆イノベーションにとってもっとも重要な質問は?
一昔前ならイノベーションは、
「この技術で何ができるか」
「この技術がもたらすインパクトは何か」
といった質問から始まっていた。技術が主役だったわけだが、今はイノベーションの主役は技術ではない。では、技術に変わる主役は何か。顧客であり、ユーザーである。その意味で、イノベーションにとってもっとも重要な質問は「誰」という質問だ。
ここで言っているユーザーとは、顧客だけはなく
顧客、見込み客、ブランドのファン、パートナー、従業員、インフルエンサー
など自分たちとの交流を持つ人すべてを指している。これはアーロン・シャピロによる定義である。
アーロン・シャピロ(萩原 雅之監訳、梶原 健司、伊藤 富雄訳)
「USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略」、翔泳社(2013)
◆質問の対象を分ける
質問の方法はいろいろあるが、もっともシンプルな方法は、ユーザーを
【1】購入している人(顧客)
【2】将来購入する可能性のある人(見込み客、ファン)
【3】購入できるが、購入していない人(見込み客、ファン、など)
の3つに分けて考えることである。
◆リードユーザーを発見する質問
まず、【1】から考えてみよう。【1】からイノベーションのヒントを得るということは、リードユーザーとして機能してもらうということで、まず、考えられる質問は
(1)私には思いもよらなかった方法で製品を使っているのは誰か。それはどういう使い方か。
という質問である。この質問から以下のようなアイデアが得られる可能性がある。
・顧客の問題に対する思い込みがないか
・顧客に用途など一切の制約なしに製品を提供する方法はないか
・製品の使い方を観察する方法はないか
などだ。
◆マスキングテープの事例
この質問からイノベーションが起こった代表的な例に、マスキングテープを日用品に使った例がある。マスキングテープは建設現場などで塗装を行うときに色を塗らない部分を保護するために使われるテープである。塗装が終わればはがさなくてはならないため、目立つような色には目立つものが使われていることが特徴だ。
これに目をつけて別の用途を考えた消費者がいた。カフェをやっている女性が、カフェで顧客が購入した本や小物を紙の袋にいれて、マスキングテープで留めるようにした。顧客の中には、購入し、お茶を飲みながら開封し、また片づけて持ち帰るという人もおり、きれいに剥がし、再び張ることができる点でも便利だった。他にも店内にポップなどを張ったりするにも色の豊富さを活かして楽しさが演出できた。
このような人が集まり、「Masking Tape Guide Book」という本をつくり、マスキングテープのメーカに送ったが、どの会社も無視する中で興味を持った会社がかも井という会社だった。そして、かも井は雑貨としてのマスキング事業を始め、20億の市場を独占している。このあたりから、テレビなどでも話題として取り上げられているので、ご存じの方も多いと思う。
雑貨用のマスキングテープの20億の市場は、顧客ニーズの思い込みを捨てたことによって生まれたわけだ。まさに、質問の威力である。
※かも井の事例は以下の本を参考にしています。
小川 進「ユーザーイノベーション: 消費者から始まるものづくりの未来」、
東洋経済新報社(2013)
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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