第18話 イノベーティブリーダーの質問力(1)(2013.09.26)
◆イノベーションにおける質問の重要性
第8話から8回、イノベーションリーダーの「思考法」というシリーズをお届けした。
イノベーティブ・リーダーが必要なスキルの第2弾は
「質問力」
である。
イノベーションにおける質問(問い)の重要性はさまざまな識者が指摘している。もっとも分かりやすいのは、「前提や常識は正しいのか」という質問だと思うが、何人かのイノベーションに関する識者はもっと体系的にこの問題を捉えている。
◆発見力としての質問力
イノベーションのジレンマでおなじみのクレイトン・クリステンセン先生は、このシリーズの最後となる「イノベーションのDNA」の中で、イノベーターに重要な資質である「発見力」を構成する要素の2番目に質問力を挙げ、質問が創造的な洞察を生み出す可能性があることを指摘している。
そして質問を変えれば世界を変えることができると言い切っている。その例として、ジョブズの有名な質問を挙げている。ジョブズはアップルに復帰した時に
「金が問題でなければ、何をする」
という問いかけをしたと言われる。まあ、ジョブズの一生を見ると、常にこの質問は自問していたのではないかと思うが、この質問のインパクトは強力である。実際にこの質問により、iPodやiTune、iPhone、iPadを創出したわけだ。
このジョブズの質問が生きていれば、アップルは今後もイノベーティブな企業であり続けるだろう。
このような、破壊的イノベーションの効果のある抽象度の高いいくつかの質問を提示するとともに、質問力を高めるヒントを示している。
これらについては、この連載の中でも取り上げたい。
クレイトン・クリステンセン、ジェフリー・ダイアー、ハル・グレガーセン(櫻井 祐子訳)
「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」、翔泳社(2012)
◆キラークエスチョン
もう一つ例を挙げよう。ニューヨークでイノベーション関連の調査や教育を手掛ける会社を経営するリサ・ボデルは、イノベーションにはキラークエスチョンがあると指摘している。キラークエスチョンとは未来に目を向けた挑発的とも思えるような質問である。
たとえば、「今年の利益率はいくらか」といった質問では未来に目が向けられることはない。ところが、「来年とりくみたいことを3つあげろ」と質問すると、嫌でも未来に目が向く。このような質問のことだ。彼女が気に入っている質問の一つは
結局われわれは何のビジネスをしているのだろうか
という質問だそうだ。この質問は企業が常に自分たちの価値を見直し、イノベーションを生み出していくのに、非常に効果的な質問である。
リサ・ボデル(穂坂 かほり訳)
「会社をつぶせ―ゾンビ組織を考える組織に変えるイノベーション革命」、マグロウヒル・エディケーション(2013)
◆FIRE
フィル・マッキニーも、「Beyond the Obvious」で質問の効用について述べ、FIRE (Focus, Ideation, Rank,
Execution) という質問の方法論を提唱している。これは、前提を訊いたり、5年間使われている顧客の購買基準を訊くと言ったものだ。
この本はもうすぐ、翻訳が出版される。
フィル・マッキニー(小坂恵理訳)
「キラー・クエスチョン 常識の壁を超え、イノベーションを生み出す質問のシステム」、阪急コミュニケーションズ(2013)
このようにイノベーションにとって質問は極めて重要な意味を持っている。質問は必ずしも対話やグループセッションの中で発せられるだけではない。自問をすることも非常に有効な方法である。
自問を考える場合には、クリティカルシンキングと呼ばれる思考法とセットにして身につけると効果的である。
◆質問と何を組み合わせるか
次回以降は、イノベーティブ・リーダーが身につけるべき質問力について、上に述べたような指摘を紹介しながら、具体的に考えてみたい。ただし、クリステンセンが指摘しているように、質問はイノベーションにとって必要条件であっても十分条件ではない。
たとえば、フューチャーセッションはイノベーションを起こす効果的な手段である。しかし、フューチャーセッションだけでは机上の議論にすぎない。たとえば、そこに、エスノグラフィー(観察)が組み合わさって質問の質も変わるし、よりイノベーションが起こりやすくなる。質問と同時にこのような組み合わせとして何を考えればよいかについても考えてみたいと思う。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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