第14話 イノベーティブリーダーの思考法(6)〜抽象と具象の行き来(2013.07.12)
◆問題は具体的に見えるとは限らない
イノベーティブ・リーダーの思考法の第3回で視点を変えるという話をした。その中で、抽象度を変えるという方法を紹介したが、この方法はイノベーティブ・リーダーにとって非常に重要な思考法なので、もう一度、詳しく説明しておきたい。
第3回でも述べたように、問題が起こったと直面するのは、目の前で困りごとがあったときである。第3回の例であれば、顧客から追加要求があったが、予算はない。追加要求のような問題はたいてい、そこで起こった問題ではなく、潜在的に存在していて、なんらかのタイミングで発覚することが多い。その意味では、洞察力の問題かもしれない。
◆抽象的に考えることによって問題が起こる前に予見する
では、どうすれば目の前で起こる前に予見できるのか。おそらく多くの人が頭に思い浮かべるのは「経験」であろう。たとえば、当該の顧客は過去の仕事で何度も同じような要求を繰り返していれば、今回もあるだろうという想像はつく。あるいは、この顧客に限らず、この仕様のシステムであればこの機能は必要だろうという洞察もある。
このように目の前の問題として生起する前に洞察するには、自分の経験や、人から得た情報をなどを抽象化し、その情報から察することが必要である。
ただし、抽象的な情報から判断するだけでは十分ではない。たとえば、この顧客は「一旦決めた要求仕様を変更する」という抽象的な情報があったとしよう。だから今回も変更すると考えるのは早計である。なぜ、変更するのか?という疑問がわく。
◆抽象と具体を行ったりきたりする
そこで、もう一度、過去の具体的な話に戻ってみると、Aシステムの時には要求をまとめたあとで、A部門トップからシステムを更新することに対する途中で横やりが入った。BシステムのときにはB部門が要求抽出に対応せずシステム部門がまとめたため、テストまで本当の要求が聞けなかったという事情があった。要するに、変更の起点になっているのはユーザ部門である。
そこで、問題をユーザ部門とシステム部門の調整がうまくいかずに、進めていくので、要求が変わると抽象化できる。そう考えてみると、今回のシステム化の対象になるのはC部門で、C部門にはもとシステム部門にいたSさんが取り纏めなので、これまでと同じパターンはないと考えてもよい。
このように抽象化するだけはなく、その情報から今回はどうなるかを具体的に想像してみる、さらには今回の具体的な状況は抽象化された状況に当てはまっているかどうかを考えるというように、抽象と具象の間を行ったりきたりしながら、現実には起こっていないことや、目に見えていないことに考えを巡らせることによって、リーダーとして、より適切な判断や行動することが可能になるのだ。
◆抽象化することによって、具体的な手段の幅を広げる
もう一つの抽象と具象を行き来する問題解決の例を紹介しておく。このテーマは「抽象化することによって、具体的な手段の幅を広げる」ことである。まず、こんなケースを考えてみてほしい。
【ケース】
京都で帆布製バックを製造販売しているA社は観光客を中心に人気があり、80%の売り上げが観光客だった。
ある日、社長が「わが社もインターネットに直販サイトを作り、京都に来たときに買ってくれる人以外にも広く商品を使って貰いたい」と言い出した。そこで営業マネジャーのMさんは異業種交流会の活動でよく知っているウェブデザインを手がけるS社の社長に相談した。しかし、S社の見積もりはA社で考えている予算の倍で、他を探しても予算内では納まらないと思うよと言われた。
このケースで、あなたがMさんだったらどう対応するだろうか?
社長が言っていることは、システムをインターネットに直販サイトを作るという具体的な要求である。これをそのまま、受け止めてしまうと予算が足らない。
そこで、社長がやりたいことを抽象化してみるのだ。この場合のヒントは、社長の言葉にある「広く商品を使ってもらいたい」という言葉だ。これ自体を要求だと考えてもいいし、もう少し、具体的にして「観光客以外の人にバックを売る」と考えてもよい。
仮に前者だと考えると、直販サイトを作らなくても、
・雑誌とタイアップして、京都に来る観光客にA社のバックを徹底的にPRする
・インターネットに情報提供用のサイトを作る
・モールを使って販売する
・地元の観光協会とタイアップしてバックを無料レンタルする
など、いくらでも社長の思いを実現する方策のアイデアは出てくるだろう。
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