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主観と客観、論理と直観が組み合わされて初めてイノベーションが生まれる。論理的に考えていても人と同じ答えしか出てこない。必要なのは直観であり、主観

第10話 イノベーションにおける主観の役割(2013.06.25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆イノベーションには主観が不可欠

いろいろな人たちと話をしていて、イノベーションは起こせないだろうなと思わせる共通の特徴がある。それは、論理性や客観性へのこだわりだ。理由を抽象的にいえば、論理性や客観性は底上げの道具であって、競争の道具ではないからだ。これは、オペレーションの道具であっても、イノベーションの道具ではないことを意味している。

もちろん、論理性や客観性が不要などと言っているわけではない。

論理的に考えて全く市場がない商品を直感だけで開発してみてもうれない。過去にはこれで痛い目にあった人は少なくないだろう。自分がこんな商品が欲しいと思って開発しても、他の人がまったく欲しがらなければ商品は売れない。この手の話、直感とか自分が欲しかったとかいう話は当たれば目立つし、大ヒットする傾向もあるのでもてはやされるが、冷静に考えれば、失敗の率は高くなることはすぐに分かる。

魚のいないところに釣り糸を垂れても大物どころか、魚は釣れないわけで、大物を釣ろうとおもえば、まず、魚がいそうなところを探す必要がある。これが、論理性や、客観性の役割である。問題は、ここからで、どんな餌をつけるのか、どのあたりの深さを狙うのかは論理的に考えていても人と同じ答えしか出てこない。ここで、必要なのは直感であり、主観である。

つまり、イノベーションには客観と主観、論理と直感のいずれもが必要なのだ。


◆分断されるイノベーションとオペレーション

ところが、現実には

イノベーション:主観、直感
オペレーション:客観、論理

と考えていることが極めて多い。だから、イノベーションか、オペレーションかという二者択一のような話になる。ナンセンスである。

一つの例として、スマートフォンを考えてみよう。ユーザが何を欲しがっているか、何が実現できるかをきちんと分析し、客観的にバランスを取ると、サムスンや日本メーカのようなスマートフォンになる。

これに対して、アップルの作り方はよく計算されている。ジョブズは初代のiPhoneのプレゼンで電話を再発明したと言ったが、要するにこの部分が客観であり、論理である。携帯電話には市場がある。その上で、主観、直感でイノベーションを起こしている。


◆iPhoneの作り方

ジョブズの有名な言葉に、ユーザは自分が何を欲しいか知らないという言葉があるが、この言葉の意味するところは、主観、直感で決めるイノベーションの部分について、欲しい部分を知らないという意味である。

ただし、直感、主観への拘りだけでやっているわけではない。アップルの開発方法で興味深いのは、エンジニアは優秀であるが、客観、論理で動いていることだ。そこに、主観、直感によるジョブズのアイデアが降りてくる。ジョブズの要求をエンジニアは客観、論理に基づき、設計する。それに対して、ジョブズが不十分なところを再度要求をする。

このようなやり取りによって、オペレーションの領域と、イノベーションの領域の間で行き来をし、最終的に製品の仕様が決まる。まさに、コンセプチュアルな製品開発だ。

この話のミソはアップルのエンジニアが優秀なことである。ジョブズの主観、直感が無理でも、何とかするだけの能力がある。だからこういうやり方が成り立つ。もし、エンジニアが凡人であれば、このキャッチボールは成立しない。客観、論理の世界のインプリメントで精いっぱいであろう。つまり、日本のスマートフォンはできても、iPhoneはできない。サムスンは逆かもしれない。ジョブズの下で働くだけの能力を持ったエンジニアの集団がいるが、ジョブズがいないのかもしれない。

いずれにしても、主観と客観、論理と直感が組み合わされて初めてイノベーションが生まれる。イノベーションにこういう認識を持たない組織からはイノベーションは生まれないだろう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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