第9話 イノベーティブリーダーの思考法(2)〜ルールを変える(2013.06.14)
◆スポーツではルール変更で痛い目にあってきた日本
日本のスポーツは強くなって、国際ルールが変更になり、まったく勝てなくなったという経験を何度と持つ。よくたとえに出されるのがスキーのジャンプ競技である。ジャンプ競技ではスキー板の長さを決める方法を変えられて、身長の低い日本人は全く勝てなくなった。複合では、ジャンプと距離の点数を変えられ、勝てなくなった。
こんな例がいくつもあるのだが、日本人はルールを決めることに無頓着である。ルールがどう変わっても、その中で最高の成績を出せるようになることに美意識を持つ。まあ、この手の話は政治的な要因が絡むのでそれも一つの考え方だろう。たとえば、こんな話はどうだろうか?
◆自分が有利になるようにルールを変える
ハインツというソースやケチャップのメーカがある。ハインツのトマトソースは濃厚過ぎてビンからなかなか出てこなかった。競合のソースはもっと薄く、ビンから簡単に出ていた。この問題への対処で、ハインツが行ったことはトマトソースを出やすくすることではなかった。
そのような開発をする代わりに、ソースのとろみを強調する宣伝をした。その中で、流れるようなソースは質が悪いという印象を消費者に与えたのだ。その上で、プラスティックの容器のものも発売し、ビンをたたくか、容器を絞るかを消費者に選ばせた。
ハインツの話とスポーツのルールを変える話は共通している点がある。それは、自分に都合が悪いことを
自分が有利になるようにルールを変えている
ことだ。ルールを変えることができれば、効果は大きい。自分たちが有利になるとともに、競合を引きずり下ろすことができるからだ。
◆ルールを変えることの応用
ルールを変えることはいろいろな形で応用できる。
たとえば、手書き文字の認識。今でこそ、極めて高い精度であるが、20年前の手書き文字認識は極めて高度な技術だった。事実、アップルはニュートンという小型コンピュータに手書き文字入力を備え付け、精度が上がらずに大失敗をした。日本でもシャープが同じ時期に、ザウルスを出したが、マニア用商品の域を出なかった。そのような中で大成功した会社がパームである。パームは、人間が文字を書き、コンピュータが認識するというルールを、コンピュータが認識できる文字を人間が書くと言うルールに変えた。グラフィティと呼ばれる、アルファベットを元にした一筆書きの記号を手書き入力する方式にしたのだ。
この手の話はたくさんある。たとえば、IBMーPCはそんなに技術レベルが高かったわけではないが、ルールを破って仕様を公開することで勝利した。デルはPC業界の販売のルールを破って直販をやって成功した。アップルは携帯電話のソフトは組み込んで販売するというルールを変えて、買うものだとすることで大成功した。などなど。
◆ルールを変えることでイノベーションのヒントが得られる
イノベーションにとってルールは障害であることが多い。もちろん、ルールという制約があって、その制約を乗り越えることでイノベーションが生まれるという日本的な考え方もあるだろう。しかし、ルールを変えることによってイノベーションが生まれることも多い。
逆にいえば、ルールを変えてみるというのがイノベーションのヒントになるわけだ。たとえば、ビジネスモデルのイノベーションはまさにこれだ。デルの例がそうだ。自分たちはIBMやHPと比較すると流通が弱い。そこで、ルールをどう変えれば自分たちが強くなるかを考えた。そして生まれたのがデルモデルと呼ばれる直販方式である。
◆ルールの理由を抽象化して、ルールを定義しなおす
ルールには理由があるものが多い。慣例となっているルールでも、定めたときには理由はあったはずだ。この理由にしばられてはならない。たとえば、PCの販売でいえば、小売業者が標準モデルを作って販売しているのはちゃんとした理由がある。サポートを適切にできるからだ。このことにとらわれてしまうと、新しいアイデアは生まれない。
何のためにサポートをしているのか考えてみればよい。ユーザにとって、中身はブラックボックスでもとにかく買ってくれば使えるからだ。こう考えると、自分でそれなりにコンピュータのことを知らなくてはならないが、安いという新しいルールを提示すれば一定の割合でそのルールに乗ってくるユーザがいるのは明らかだ。すでに、コンピュータはそういう時代だったのだ。これをもっと推し進めたルールが、アップルで、アプリケーションそのものも機能単位の部品でユーザが組み立てるところまでやってしまった。
このようにルールを変えてみると、イノベーションのアイデアが生まれることがある。その意味で、ルールを変えるというのはイノベーティブ・リーダーにとって重要な思考様式の一つだといえる。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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