第6回 コンセプチュアル思考とイノベーション(2)〜抽象的な思考が新しいアイデアを生む(2015.09.09)
◆あるデザイン思考のワークショップで
この数年、イノベーションのために注目されている問題解決の方法にデザイン思考がある。デザイナーの思考をビジネスの問題解決に応用しようという考え方だ。
プロトタイピングによってデザイン思考を実践するワークショップもいろいろなところで盛んに開催されている。あるとき、知人から面白いことを聞いた。デザイン思考がうまくできる人とできない人がいて、抽象化能力の違いではないかというのだ。
興味を持ったので、彼のやっているレゴをつかったデザイン思考のワークショップを見学させてもらった。確かにそうで、よいアイデアを出しているチームはイメージを議論しながら、具体的な形状なモノを作っている。イマイチさえないチームはイメージがない。
◆ドローンのコンセプトモデルを作る体験から
これ以上は守秘義務があって書けないので、ここからは本質的に同じ、別の事例を使って話を進める。
弊社がやっているトレーニングに、レゴで、新しいドローンのコンセプトデザインをするという演習を取り入れているものがある。ドローンは最近注目されているマルチヘリコプターである。
その中で、確かに2つのタイプのチームがある。一つはどんな目的で、どんなイメージのドローンを作ろうかと話し合いながら作っていくタイプのチーム。もう一つはドローンの機能についての話し合いをしながら作っていくタイプだ。
前者はドローンを抽象的なイメージとして共有している。だから、そのイメージを具体化するさまざまな意見が出てくる。後者はベースになるのが最低限の機能であり、機能の関連性があるのでほとんど新しいアイデアは出てこない。
◆イノベーションはソリューションではない
このことはイノベーションを生み出す過程に大きな示唆を与えてくれる。新しいドローンを考えると例においては、目的レベル、すなわち抽象的なレベルでいろいろなドローンの可能性を考え、それをどのように実現するかを同時に考えていくと、ドローンの用途についての新しいアイデアが生まれ、それを実現する新しいドローンのアイデアが結果をして生まれる。
ところが、具体的な機能だけで考えると、スピードであったり、飛行時間であったり、飛行精度であったりといった機能の改善にとどまって、せいぜい、そのためにドローン本体の形状をどうしようといった議論に留まってしまう。
これは日本のメーカがイノベーションできず、改善にとどまり、力を持て余してガラパゴスな世界を作ってしまった構図の元凶でもある。イノベーションのためには、問題や顧客の声は具体的に拾い上げなくてはならないが、それにそのまま答えるのではなく、一旦抽象化して、考え、具体的な形で応えていく必要があるのだ。
イノベーションはソリューションではなくというのはそういう意味でもある。
◆考えるというのは抽象的なこと
そもそも論でいえば、ものごとを考えるとは抽象的なレベルで推論したり、判断したり、意思決定することであるので、当たり前のことかもしれない。
重要なポイントは、抽象的にものを考えることではなく、抽象的に考えたものを具体化し、そこで得られた知見をさらに、抽象的な思考の中に取り入れていることである。
ドローンの例であれば、新しい用途に新しいドローンを考える。それをどう実現していくかを考え、制約や機能の可能性の中から、さらに新しい用途を探していくことである。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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