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第8回 思わぬ落とし穴1 目標の混乱(2008.10.31)

インフルエンス・テクノロジーLLC  高嶋 成豪


 プロジェクトリーダーが仕事を進めるには、メンバーや上司など関係者が価値を感じる「カレンシー」を相手に渡し、それと交換に彼らの協力を引き出すことがカギです。ですから、状況に応じて使い分けられるだけの「カレンシー」を用意しておく必要があります。前回までそのようなお話しをしてきました。相手が価値を感じるカレンシーを用意し、確実に手渡すことができれば、相手からなんらかの見返りをうける可能性は高まります。ところが、こうして説明するほどうまくいくとは限りません。
このプロセスにはいくつもの落とし穴があり、はまってしまうからです。
<本来の目標を見失ったU氏の場合>  「またしても営業とクライエントに押し切られてしまった」中堅メーカーの業務系システム更新プロジェクトのリーダーU氏は頭を抱えました。この時期の変更はほんとうにきついのです。納期は迫ってくる、予算は尽きつつある、専門能力の高い人材を獲得するのは難しい、の三重苦です。せめて今いるメンバーがもっと責任感をもって仕事をしてくれたら・・・。しかし誰もが自分の担当で精一杯だといって、協力しようとしません。メンバーのほとんどは、協力会社からの派遣です。だからモチベーションが上がらないのはやむを得ないのでしょうか。しばしば品質の問題が起こります。チェックの際に見つかる不具合の数は、去年よりも増えている気がします。百歩譲って自分にあたえられた仕事だけは、間違いなくやってほしいのです。ところが現実は、すべてU氏がチェックしてその都度差し戻しています。差し戻してやらせられればまだいいのです。結局U氏がみずから修正をかけていることも少なくありません。彼らの技術力の問題なのでしょうか。そうかもしれません。でも、それ以上にやる気の問題だという気がします。もっと真剣に仕事に取り組んでほしいのです。うまくいかないと人のせいにしますが、自分の胸に聞いてみろ、といいたい。他のメンバーの悪口も言わないでもらいたい。お客が悪い、などとも言ってほしくない。まあ、無理を言うクライエントに責がないかというとそうではないでしょう。営業にもお客ともっと真剣に交渉してこい、と言いたい。何でもいいなりになるな、と。しかし、プロなんだから、相手の悪口を言ってはいけません。クライエントと現場の間で、何で自分が板挟みになって苦しまなければならないんだ、と叫びたいU氏でしたが、ここで我に返りました。そうだ、まずは人員の確保だ。この変更のために予算が増えるわけではありませんが、やりくりして人員を確保しなければなりません。このプロジェクトには、U氏の次のステップがかかっています。このプロジェクトを終えれば、今の段階では、次にはおもしろいプロジェクトがアサインされる可能性が高いのです。でもこのプロジェクトがうまくいかないと、部長の信頼を失うことになるかもしれません。そうすると、またサブリーダーをやらされたり、つまらない小さなプロジェクトの担当にさせられてしまいます。がんばらなければ!  
U氏は協力会社のマネジャー、T氏に電話をしました。状況を説明すると、しかしT氏は困ったように答えました。「またですか。ウチも他のプロジェクト抱えているから、ご期待に添うには大変なんですよ」と、協力的ではありません。メンバーも使いものになれなければ、そのマネジャーも顧客本位じゃない。U氏は頭に血が上るのを感じました。しばらくの押し問答のあとで、「それならいいですよ。こちらには頼みませんから。何とかなりますからご心配なく」といって電話を切ってしまいまったのです。
もちろん直後に後悔したのですが、もう一度電話をする気にはなれません。しばらく呆然とするU氏でした。

<落とし穴1 目標の混乱>  プロジェクトが佳境に入ってからの変更は、リーダーにとって大きなストレスになりますね。どうやって対応しようか、頭を悩ませます。
それもこのような変更は、それほど意味のないものが多いように感じるからです。変更によって技術的にはむしろ後退することの方が多いですよね。やっかいな変更を持ってくるクライエントや営業が、恨めしくも感じます。部長からも納期までに何とかしろ、と言われています。このようなプレッシャーのかかる状況で、私たちはときどき我を失ってしまいます。本来の目標を見失い、自分の個人的な目標が顔を覗かせるのです。これが大きな落とし穴のひとつ。

1 U氏が協力会社のマネジャーT氏に電話したとき、その目標は・・・プロジェクトの変更にあわせた適正な人員の確保、できれば追加の出費なしで、その口約束をとること。
2 1の目標を見失わせた、U氏の(想像される)個人的な目標・・・自分の思うように仕事をすること、"一業者"であるT氏が自分に従うこと、部長の信頼を得ること、おもしろいプロジェクトのリーダーにアサインされること、自分のキャリアアップ など。

 1を"本来の目標"、2を"個人的な目標"としましょう。みなさんにうかがってみると、相手の協力を得られるときは「1>2」の状態で話し合っているようです。ところがうまくいかない時を振り返ると、「1<2」になる傾向があります。むくむくと個人的な目標が湧きあがってきて、本来の目標がかすんでしまうのです。上記の場面、U氏にもその徴候が見られます。  ではこのような状況で、どう対応したらよいのでしょうか。まず、冷静さを失っている自分を認めることが必要です。自分が我を失っているなどと認めたくないのが人情です。しかし、現状を受け入れることがよりよい対応につながるのは、品質管理でも人間の心理でも同じです。誰でもプレッシャーのもとでは落ち着かなくなるものです。まずは、自分自身の心の状態を受け入れましょう。そのうえで、本来の目標を確認します。この目標達成のために何ができるか、書き出してみるとよいでしょう。相手と交換できるカレンシーは何でしょうか?相手は何に価値を感じるでしょうか?U氏のケースでは、次もT氏の会社に頼むと約束する、T氏だから頼りにしているという、T氏の会社のメンバーの育成に手を貸す、これまでに貸しがあればその話しを持ち出す、日頃の感謝を伝える、などが考えられます。こんなカレンシーは、冷静で目標が明確でなければ見つかりません。ぜひ、次回の難局で、落とし穴に気づいたら思い出してください。

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6.まとめ
 ・(演習6)カレンシーを再考する
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著者紹介

高嶋 成豪    インフルエンス・テクノロジーLLC マネージング・パートナー

人材開発/組織開発コンサルタント。インフルエンス・テクノロジーLLC.マネージング・パートナー。ゼネラル・モーターズ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで人材開発に従事。現在リーダーシップ、コミュニケーション、チームビルディング、キャリア開発のセミナーを実施し、年間約1000名の参加者にプログラムを提供している。ウィルソンラーニング・ワールドワイド社によるリーダーシッププログラム、LFG(Leading for Growth:原著はコーエン&ブラッドフォード両博士の共著“Power Up”)のマスター・トレーナー。2007年『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』(原題“Influence without Authority”)を邦訳。コーエン&ブラッドフォード両博士から指導を受け、「影響力の法則」セミナー日本語版を開発。日本で唯一の認定プロバイダー。筑波大大学院教育研究科修了 修士(カウンセリング) 日本心理学会会員 ISPI(the International Society for Performance Improvement)会員 フェリス女学院大学講師

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