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第9回 有力なカレンシー ほめる(2008.11.28)

インフルエンス・テクノロジーLLC  高嶋 成豪


 人をほめるのは簡単ではありません。昨日のセミナーでも「ほめるのは難しいよね」
という話しになりました。あるリーダーは、「私は部下をほめたことがありません」と断言しました。他の多くの方も同意していましたから、「職場でほめる」のは、まれなのかもしれません。  でも、この「ほめる」が、カレンシーとして効くんですね。

(ほめる、の効用)  私たちは、影響力のメカニズムを「カレンシーの交換」と考えて、プロジェクト運営に応用しようとしています。  つまり、
「リーダーであるあなたが、メンバーが価値を感じる何か(これをカレンシーと呼びます)を渡す 
 → あなたからカレンシーを受け取ったメンバーは、「ありがたい」と思う 
  → メンバーはあなたにお返ししなければならない、と感じる 
   → あなたはメンバーの力を引き出せる」というプロセスです。

ここでは、お互いに価値あるカレンシーを交換して、仕事を前に進めているというわけです。  このカレンシーの交換は、自然に意識しないでやっていますから、まずは現実がどうなっているか、チェックしてみましょう。
 一般的に「ほめる」のは、強化と呼ばれる作用につながると考えられています。つまり、
「ほめられた 
 → あ、これでいいんだ、と気づく 
  → 繰り返す」というステップです。

また、ほめられることで、リーダーに認められたという感覚をもたらすこともできます。認められると安心するのは、ほとんどのメンバーにとって共通です。
リーダーであるみなさんと、メンバーとの信頼関係を築くうえでも大切でしょう。 これに加えて、私たちは「ほめる」をメンバーが価値を感じるカレンシーと考えます。ほめられたメンバーにとって、「嬉しい」「ありがたい」と感じることなのです。
実際、次のようなメンバーにとっては、ほめられることが、特に大きなカレンシーとなるでしょう。

1 自信がない。自分の仕事ぶり、技術に自信がない。だからほめられると安心するようなメンバー。しばしば、自信たっぷりに見えるものの、本心は心配していることがあります。たとえば、自分の技術そのものには自信があるが、このプロジェクトにあっているかどうかがわからない、ということはよくおこります。

2 本人の予想以上にハードワークしている。内心「なんでこんなにやらなきゃならないんだよ」などと思っているメンバー。これはメンバーの心の中でハードと思っているかどうかです。リーダーが見てハードかではありません。

3 自分はチームに貢献している、と思っているメンバー。例えば、他のメンバーを助けているようなとき、他のメンバーがもっていない専門知識を使ったとき、このプロジェクトのために新たに勉強したり、試行錯誤したとき、など。  大事なことは、タイミングです。 すっかり自信喪失してしまってからでは、ほめられても耳に入らないでしょう。「これでいいのかな」という顔をしているときに、うまくいったらほめてあげればいいのです。
また、なるべく具体的によかった点を褒めてあげた方がいい、とも言われています。

 いずれにしても、表情を見ながら「相手の心を動かせたかな」とチェックしましょう。ほめるのは、ほめること自体に価値あるのではなく、メンバーの心に届いて初めて価値があるのです。ちょっとでも顔がほころんだと思ったら、そのままカレンシーを貯めておくとよいでしょう(即座に何かを頼んだりすれば、あまりにもわざとらしいですよね)。それがメンバーのやる気になるし、やがて、無理をお願いしたいときに受け入れてもらいやすくなるのです。ですから、結果的にほめ上手な人は、協力が得られやすい。私はリーダーはどんどんほめてしまったらいいと思います。

(ところが、ほめるのは難しい・・・)  とはいえ、先述のようにみなさんあまり人をほめない。なぜか。いろいろな理由が考えられますが、私は相手に対する嫉妬心のようなものがあると思っています。  先日女性ばかりの職場のリーダーたちとこの話しをしていました。嫉妬心はないか?と尋ねたところ、とても正直なリーダーの方が、「私が彼女をほめないのは、嫉妬心があるから。いわれて気づきました」と答えました。彼女の方が売れる、お客さんの評判がいい、かわいい、など、嫉妬を覚える理由なんてたくさんあります。  このような話は、エンジニアの世界にもないとは思えません。彼の方が技術力がある、彼女はお客さんの受けがいい、など。そう思うとなかなかほめられない。これは、とても自然な気持ちの働きだと思います。でもリーダーとして、メンバーの力を引き出すチャンスを失っていることも確かなのです。それは残念だな。どうしましょうか?

 私はまず、リーダーはいちエンジニアとは違う、としっかり認識することから始めたいと思います。エンジニアは技術力で仕事している。だから、自分もエンジニアだと思っていると、メンバーと技術で勝負したくなってしまう。しかし、リーダーは役割が違います。リーダーはメンバーの技術力を結集して勝負しているんです。ですから、いち技術者としてすぐれているかどうかは、メンバーの時ほど問われません。むしろ、プロジェクト全体とかマネジメント能力、さらにはお客様のビジネスを理解していることの方が重要です。メンバーと同じ土俵で勝負してはいけないのです。  次に、メンバーをほめることができないときに、「いま、嫉妬心が湧いているかもしれない」と考えましょう。ほめられないのは、仕方ないです。エンジニアとして枯れていない証拠です。それもいいじゃないですか。「自分にはほめられない」と思ったら、クールに相手を持ち上げましょう。「何がよかったの?」と具体的に訊いてあげると、それだけで本人は自信を持てるようになるものです。「みんなにも教えてあげてよ」などというのも、直接ほめていないものの、自信を持たせるカレンシーになります。

 リーダーがメンバーをほめるだけでなく、メンバー同士がほめあうようになると、強いチームができます。これは「カレンシーの交換」から見て当然です。「ほめる」とビジネス上の情報、技術情報が交換されて、メンバー全体がレベルアップしていくからです。職場やリーダーをみれば、情報共有されているかどうか、見当がつくのはこういう理由からです。こんど大学の授業で「ほめ、ほめアワー」をやります。クラスメート同士でほめあわせるのです。これだけでクラスも活気づきますから、きっとみなさんのチームにも役立ちますよ!

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 ・(演習5)期待と要求のロールプレイ
6.まとめ
 ・(演習6)カレンシーを再考する
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著者紹介

高嶋 成豪    インフルエンス・テクノロジーLLC マネージング・パートナー

人材開発/組織開発コンサルタント。インフルエンス・テクノロジーLLC.マネージング・パートナー。ゼネラル・モーターズ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで人材開発に従事。現在リーダーシップ、コミュニケーション、チームビルディング、キャリア開発のセミナーを実施し、年間約1000名の参加者にプログラムを提供している。ウィルソンラーニング・ワールドワイド社によるリーダーシッププログラム、LFG(Leading for Growth:原著はコーエン&ブラッドフォード両博士の共著“Power Up”)のマスター・トレーナー。2007年『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』(原題“Influence without Authority”)を邦訳。コーエン&ブラッドフォード両博士から指導を受け、「影響力の法則」セミナー日本語版を開発。日本で唯一の認定プロバイダー。筑波大大学院教育研究科修了 修士(カウンセリング) 日本心理学会会員 ISPI(the International Society for Performance Improvement)会員 フェリス女学院大学講師

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