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第3回 否定的サイクルを脱する(2008.06.25)

インフルエンス・テクノロジーLLC  高嶋 成豪


 前回、“価値の交換”と“レシプロシティ”が、人を動かすカギだと述べました。すなわち、相手から何かを引き出すためには、それ相応の価値を相手が受け取らなければならない。その背景には、何かをしたら見返りがある、という人間関係の社会通念“レシプロシティ”があるからだというものです。誰かに誕生日プレゼントをもらったときに、相手の誕生日にはプレゼントしなければ、と考えるとしたら、それはレシプロシティがあるから。また、仕事を助けてもらったので、相手に役立つ情報を知らせるのは、価値の交換の典型的な例です。言い換えると、仕事の協力を得られる人は、相手に何か価値のあるものを渡しているのです。この働きを使って、私たちは人を動かすことができると言えます。



 今月お話ししたプロジェクトマネジャーのうち数名の方は、みなさん「ああ、動かせないわけだ」とおっしゃいました。いわく「相手にとって価値あることは何もしていない(笑)」



(自動車メーカー開発本部で生産性向上プロジェクトのリーダーとなったDさんのケース)


 Dさんは、開発本部パワートレーン開発部で、4輪駆動車の動力伝達装置を開発していました。今年の年初から、開発本部の生産性向上プロジェクトのリーダーにアサインされ、各部のメンバーとともに、新しい製品開発プロセスの導入に取り組み始めています。このプロジェクトは、全社規模の大きな取り組みで、会社の5カ年計画の達成には不可欠と考えられています。そのためDさんは、各部の協力を取り付けるのは、それほど難しいことではない、と考えていました。多くの部長が理解を示し、Dさんへの協力を約束します。しかし、一部の部長は協力的ではありません。実験部から参加しているプロジェクトメンバーが、新型車のプロジェクトが佳境に入ってしまい、仕事の多忙を理由にとうとうプロジェクトに参加しなくなりました。実験部長E氏に代わりのメンバーをアサインするよう依頼しましたが、部長はいっこうに代替人員を決めてくれません。このプログラムの重要性については、十分説明しています。再度部長を訪ね、プログラムへの協力を求めますが、部長はわかっているから、といってそれ以上話が進まないのです。実験部こそ、プロセスの改善が必要と考えられています。本部長からは「実験部もたのむぞ」などと言われています。それにもかかわらず、この調子です。「E部長も分かっているはずなのに・・・」Dさんは、実験部長の対応にイライラしてきました。「あの人は、開発プロセスを効率化しなければならない理由が分かっていないんじゃないか?部長のくせに分かっていないのは、おかしいよ。あの人が部長だから、実験がボトルネックになるんだ」イライラしてくると、だんだんと感情もエスカレートしていきます。「ひょっとしたら、あの人は、オレのことが好きでないのかもしれない。そういえば、以前も実験部のYくんの仕事ぶりに文句を言ったら、怒ったことがあったな。その仕返しをしようとしているのかもしれないぞ。こんなことで、大人げない!」


 ひとたび相手のことが否定的に感じられると、その思いはなかなか止められません。そのうちに話しをするのが嫌になってしまい、結局相手の協力を取り付けることはますます難しくなってしまいます。なかには、ここで口論となり状況を破壊的なものにしてしまうことも少なくありません。つい今し方もそのようなお話をうかがっていました。(その方はプロジェクトマネジャーというよりは教育的な仕事に就いているかたですが)かくいう私にもそのような経験があります。上司が仕事を妨害していると感じられ、その上司とぶつかり合っていました。それでもラチがあかないと、次第に彼とは話をしなくなりました。この間、お互いに不愉快な思いをしただけでなく、その分よい仕事もできなかったと思います。今考えれば、残念ではずかしい経験ですが、このように相手が悪いと感じられたら、その感情を止めるのは容易ではありません。だからこそ、そのような感情がなるべく起こらないように心がけることが役立ちます。


 では何を心がけるのか?「影響力の法則」の著者、コーエン、ブラッドフォード両博士は、相手を否定的に考えることと、行動の原因を性格によるものと考えることは、強い関係があると述べています。


「協力を得られない → 話をしなくなる → 相手のことが分からない → 人間は理由付けしないと落ち着かない(状況などの情報がないので、相手に関する印象を使う) → 協力しないのは相手の状況よりも性格のせいだと考える → 性格を変えるのは難しい → あきらめる → 協力を得られない」


 こうなると、いよいよ難しくなります。そこで、相手が協力しないのは、相手の性格のせいではなく、協力できない事情があるに違いないと考えてみる。ひょっとしたら、上司から他の仕事を早く終えるように言われているのかもしれない、あなたの要請事項が、経験したことのないもので、不安なのかもしれない、他のなんらかの事情があって、協力したくても協力できないのかもしれない。そう考えてみます。すると、この事情が変われば協力できるかもしれない、協力してもらうためには、こちらとして何ができるだろう、と考えることができます。私のかつての同僚で、上司に仕事をさせるのが上手な人がいました。彼は上司が面倒と考えていること(この場合は連絡文書を書くことでした)を、上司に代わってすることによって、上司から仕事の承認を得られやすくなっていました。


 相手が思うように動いてくれない。そういうときにどう考えるかによって、影響力を発揮できるかどうか、ステークホルダーの協力を得られるかどうか、大きな差が出てくるのです。私ですか?私はその後、もちろん例の上司との関係回復に成功しました。「影響力の法則」が役にたったことは、言うまでもありません。

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5.ステークホルダーと良い関係を作る・WinWinの関係
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6.まとめ
 ・(演習6)カレンシーを再考する
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著者紹介

高嶋 成豪    インフルエンス・テクノロジーLLC マネージング・パートナー

人材開発/組織開発コンサルタント。インフルエンス・テクノロジーLLC.マネージング・パートナー。ゼネラル・モーターズ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで人材開発に従事。現在リーダーシップ、コミュニケーション、チームビルディング、キャリア開発のセミナーを実施し、年間約1000名の参加者にプログラムを提供している。ウィルソンラーニング・ワールドワイド社によるリーダーシッププログラム、LFG(Leading for Growth:原著はコーエン&ブラッドフォード両博士の共著“Power Up”)のマスター・トレーナー。2007年『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』(原題“Influence without Authority”)を邦訳。コーエン&ブラッドフォード両博士から指導を受け、「影響力の法則」セミナー日本語版を開発。日本で唯一の認定プロバイダー。筑波大大学院教育研究科修了 修士(カウンセリング) 日本心理学会会員 ISPI(the International Society for Performance Improvement)会員 フェリス女学院大学講師

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