◆NPV(Net Present Value)
プロジェクトの価値は前回説明したDCFで判断できることも多いが、エンタープライズプロジェクトマネジメントのように企業で取り組むプロジェクト全体として戦略性が必要な場合にはDCFだけでは不十分なことがある。例えば、3年間かけて、社運をかけたシステムインテグレーションを行うという場合、他のプロジェクトをDCFだけで考えていると、企業全体としてのキャッシュフローがショートして、重要プロジェクトの進行に支障をきたすようなことがあるからだ。
そこで、単にプロジェクト全体でのインフローを抑えるだけではなく、プロジェクトの現在価値を考えていく必要がある。つまり、将来得られる収入を現在の金額に置き換える。プロジェクトへのファイナンスの基本データとなるこの評価価値を、正味現在価値(Net Present Value;NPV)という
さて、NPVの計算方法であるが、考え方はDCFと同じである。DCFでは、プロジェクトの合計収入に利子率を適用して割引を算出していたが、NPVでは、合計収入ではなく、それぞれの期間(通常、四半期〜1年)に計画されるインフローを割引することで、キャッシュフローの現在価値を評価する。そこから、初期投資を引いたものがNPVとなる。
前回のDCFの例をもう一度、思い出してほしい。ライフサイクル5年間のシステムを800万円で開発し、ASP提供し、年間200万円の収入を得るという例である。利子率は10%である。これに対して、まず、年次のインフローとPVは以下のようになる
インフロー PV (金額の単位は万円)
1年目 200 182
2年目 200 165
3年目 200 150
4年目 200 137
5年目 200 124
合計 758
つまり、このプロジェクトの現在価値の合計は758万円である。これに対して、初期投資は800万円であるので、NPVは
NPV=758−800=−42(万円)
となり、このプロジェクトには投資すべきではないことが分かる。
ここで、もう一つのパターンとして、初年度、ASP初期費用として500万円を受け取り、その後、5年間100万円でASP提供するとしよう。すると、今度は、年次のPVは
インフロー PV (金額の単位は万円)
1年目 600 545
2年目 100 83
3年目 100 75
4年目 100 69
5年目 100 62
合計 834
となり、NPVは
NPV=834−800=34(万円)
となる。今度は、投資してもよいプロジェクトということになるのだ。この2つのケースはプロジェクト終了時点でのキャッシュインフローは、1000万円で同じであり、DCFでプロジェクト価値を求めると、前回求めたように、621万円にしかならない。ところが、NPVを評価すると、上のとおりであり、契約方法を変えることにより、収益のあるプロジェクトになったり、収益のない(赤字)プロジェクトになったりすることが分かる。
キャッシュフローを重視した経営の中でプロジェクトを実施していくというのはこういうことなのである。
◆次回は、プロジェクト選定における手法の使い方
ということで、3回に渡って代表的なプロジェクト価値の算出手法を解説してきたが、次回は、これらの算出手法を使って、どのようにしてプロジェクトの選別、プライオリティ付けを行うかについて説明する。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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