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第8回 プロジェクトの分析・評価(1)(2003.02.27)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆プロジェクトの評価の前提
 さて、今回から、エンタープライズプロジェクトマネジメントの導入の際に必要な手法の解説に入っていくことにする。
 まず、今回はプロジェクトの経営的評価についてである。まず、最初に理解しておかないといけないことは、「万能の方法はない」ことである。もっといえば、企業が行うプロプロジェクトも、必ずしも経済合理性に基づいて行われるわけではないといってもよいだろう。たとえば、自社のキャッシュフローが細り、会社の存続が危ぶまれている場合には、収益が小さくてもキャッシュフローの大きいプロジェクトを高く評価せざるをえない。したがって、プロジェクトの評価は、いくつかの視点から分析をした上で、分析結果を比較して、総合的な評価をするのが普通である。視点には、ベネフィットコスト、回収期間、キャッシュ・フロー、ディスカウント・キャッシュフロー、NPV(正味現在価値)、IRR(内部収益率)といった視点がある。

◆スコープとプロジェクト評価
 さらにもうひとつ理解しておかなくてはならないことがある。それはスコープによって収益が大きく変わってくるということである。時々、「どうしてスコープ定義がそんなに大切なんですか?システム開発であればスコープなんて決まっているじゃないですか?」という質問を受けることがある。確かにシステム開発プロジェクトだけで考えると、そのとおりなのだが、ここで考えないといけないことは、開発案件が出てくる場合にはその開発のオーナー(つまり、顧客)サイドでもプロジェクトが存在している。そのプロジェクトがたとえば、「顧客管理の強化」というプロジェクトであったとすれば、顧客はそのプロジェクトの中で、
 ・事業の見直し
 ・マーケティング戦略、営業戦略などの見直し
 ・顧客管理オペレーションの見直し
 ・組織の見直し
といったことをしているだろう。その「一項目」として「CRMの導入」というのがあり、その部分をSI企業に発注して、それがSI企業サイドでは「CRMシステム開発プロジェクト」となる。したがって、顧客にとってのプロジェクトはCRMシステムの開発が終わっても完了にはならない。そのシステムを運用して、本来の目的の達成のめどをつける期間は必ず入っている。その際には、試行錯誤が続くわけで、当然、システムの仕様を変えようという話になる可能性もある。ほとんどのケースはこのようなケースだ。このようなケースにおいては、プロジェクトのスコープをどのように取るのかは判断が難しい。実際のところ、顧客のプロジェクトと同じスコープを取っていくケースも増えている。いわゆるITコンサルティングなどのケースだ。
 当然、スコープをどのように取るかで、プロジェクトの収益は変わってくる。特に、最近では、ITでも、建設でも、エンジニアリングでも、モノづくりで収益を上げていくというビジネスモデルから、作ったものを使ってサービスを提供し収益を上げるモデルに変わる傾向が見られる。このような時代なると、特にプロジェクトスコープの設定の適切さが求められる。

◆ベネフィットコスト分析
 さて、プロジェクト評価の視点の中で、もっとも基本的であり、一般的なのがベネフィットコストという視点である。これは、プロジェクトの成果物を生み出すコストが、プロジェクトの実行によって生み出される効果より小さいか大きいかで、プロジェクトを評価する方法である。もちろん、コストが小さければよいプロジェクトということになる。
 ここでコストとは何かということを整理しておきたい。SIのプロジェクトを例に取ると、要件分析(市場分析)の費用、設計費用、ディベロップメントの費用、テストのための費用、瑕疵担保期間のサポート費用などがまず、思い浮かぶだろう。ここで上に述べたスコープの問題が出てくる。このプロジェクトのスコープが営業からであれば、営業コストが含まれてくるし、開発後の運用・保守が含まれれば、運用・保守作業のコストが生じる。
 これに対してベネフィットはこのプロジェクトを実施することにより生まれる効果である。このプロジェクトが受託開発のプロジェクトであるならば、受託開発収入が効果として生まれる。また、運用保守でも受託収入が効果となる。仮に、顧客に引き渡さずに、ASPのような形でシステムを使ってもらい、その対価をサービス料として取るのであれば、サービス料が効果となる。
 これらを総計して、たとえば、

   営業、開発、運用にかかるコスト 800万円
   開発、運用の売り上げ     1000万円

であれば、このプロジェクトは正しいプロジェクトであると評価できる。
 では、、システムのライフサイクルを5年として、年間200万円でサービス提供するとしよう。この場合は、どのように評価すればよいか?

 今回はここまでにします。続きは次回。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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