今回は、その提案が認められ、いよいよ、EPMの導入の第一歩として、マスタープランの作成を行う部分の説明をする。プロジェクトマネジメントのプロセスでいえば、前回が立ち上がりプロセスであり、マスタープランの作成から、そのマスタープランに基づいて賛同者を得て、PMOの組織という形で組織化するところまでが計画プロセスだと考えれば分かりやすいだろう。
◆マスタープランに定めるべきこと
マスタープランとして最小限計画すべきことは、以下のとおりである。
・スコープ
・マネジメントとしてのあるべき姿と課題
・目標
・課題解決の方向性
・ステークホルダとリスク分析
・アクションプランとプライオリティ
◆スコープの定義
プロジェクトマネジメントを例に取るまでもなく、この種の計画でもっとも重要なのがスコープの定義である。
EPM導入プロジェクトのスコープを定義する場合に難しい点は2つある。
(1)プロジェクト化の範囲
(2)存在しているプロジェクトのプロジェクトライフサイクルの違い
である。(2)は、通常の企業の場合、業務、あるいはプロジェクトとして、数日単位のものから、数ヶ月、場合によっては数年単位のものまで、さまざまである。数年のプロジェクトは、フェーズを考えればいいとしても、数日〜数ヶ月というプロジェクトを、ある時点から同時に同じ土俵の上に乗せて、プロジェクトをまたがるマネジメントをしていかなくてはならない。一方で、当然、プロジェクトをいったん止めて取り組むというわけにはいかない。この調整は結構やっかいであるが、基本的な対処方法としては、ライフサイクルを考えながら、EPMの範囲を段階的に拡張していくようなスコープ定義をすることが現実的である。
(1)の問題は、シェアドサービスなどのビジネスインフラをどのように捉えるかという問題である。すべて廃止し、プロジェクト化してしまうと生産性の低下は明らかであるが、マネジメントの一貫性からするとプロジェクトに抱え込む方が望ましい。この問題には一般的な正解はないと思われるが、どこまでやるかでスコープが大幅に変わってくるので、マスタープランの中で、明確な方針を打ち出す必要がある。
これらを踏まえた上で、いつまでにどの範囲の業務をEPM化するかを決定し、費用、スケジュール、取り組み体制を明確にするのがスコープの定義である。
◆あるべき姿と課題の明確化
EPMの導入においては、必ず、目的があるはずである。
目的には2種類ある。ひとつは、たとえば「人材の有効活用を図り、企業の収益性を向上させる」といった類の「トップダウンの目的」である。このような目的設定になるのは、従来はライン業務を中心にやってきたところに新しい枠組みとしてEPMを導入するというケースである。もうひとつは、SIerのように、もともと、プロジェクト中心の組織・業務運営をしている企業が、経営指数の改善のために、プロジェクトの調査・分析を行い、そこで、改善のための目的を明確にし、それを目的としてEPMの導入に取り組むケースである。
前者の場合、目的から、EPMの仕組みのあるべき姿を導き出すことができる。後者の場合は、少し、難しい。極論すれば、経営戦略のないところに改善などありえないからである。特に、EPMの導入は現場の目線を、トップマネジメントの目線に上げることなので、たとえば、単純にプロジェクトのスループットの改善をすればよいというものでもなく、あるべき姿を描くことが難しい。やはり、この場合にも、現状にとらわれないゴールのイメージを持つことが大切だろう。
これらの作業に対するインプットは、ロードマップ1の分析結果が中心になる。
では、あるべき姿とは何か?ということだが、一言でいえば、「プロジェクトオーナーに対してどういうコミットをするか」ということになるだろう。詳しくは別途解説する。
あるべき姿が見えてくれば、ロードマップ4の問題点の整理、課題抽出をインプットとして、あるべき姿との比較で、課題の整理を行う。
◆目標の設定
目標の設定は、スコープを具体的な目標に落としたものである。たとえば、スコープで「1年以内に、ライフサイクルの長いプロジェクトのリソースを効率化する」という定義をしたとすれば、ここでは、「2003年4月〜2003年12月までに、6ヶ月以上のプロジェクトの要員数を30%削減する」という目標を設定する。
◆解決の方向性
あるべき姿の想定で出てきた課題を踏まえて、目標を達成するためには、どのような方向にプロジェクトマネジメントを変えていけばよいかを記述する。たとえば、上の「2003年4月〜2003年12月までに、6ヶ月以上のプロジェクトの要員数を30%削減する」であれば、複数のプロジェクトにまたがる要員計画の策定を可能にし、アイドル時間を30%削減するという方向性を考える。その上で、その方向性の妥当性をロードマップ1のデータに基づき検証する。
◆ステークホルダとリスク分析
「解決の方向性」にあるようにプロジェクトマネジメントを変えていくと、どのような利害関係者が登場し,どのような利害関係が生まれるかを分析する。
その上で、実現を妨げるリスク要因を分析し、そのリスク対策をアクションプランに反映させていく。
◆アクションプランとプライオリティ
以上の検討を踏まえ、WBSにより、アクティビティを洗い出し、アクションプランを
策定する。その際に、コンティンジェンシーを考慮したアクションのプライオリティを明確にしておく。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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