第1回 経営のプロジェクト化の背景(2002.08.22)
◆時間と品質を主体にしたマネジメントの時代
現在のプロジェクトマネジメント(モダンプロジェクトマネジメント)は「テネシー川開発プロジェクト」の1930年あたりから始まり,「マンハッタン計画」(1940年代)、「アポロ計画」(1960年代)と徐々に発展してきたといわれる。さらには、エネルギー開発、交通インフラの開発など、さまざまな開発に適用されるようになってきた。これらの事業は、国家プロジェクト(あるいは準じるもの)であり、なおかつ、かなり、非日常的なプロジェクトであった。そのため、これらのプロジェクトのマネジメントは、如何に早くよいものができるかという点(時間と品質)に重点が置かれた。
◆時間・品質・コストを主体にしたマネジメントの時代
1970年代後半から1980年代にかけて、情報システムの構築など、民間企業が行う活動の中にもプロジェクトマネジメントが適用されるようになってきた。民間企業が行う以上、当然、利益が優先される。そのためには、時間や品質に加えて、コストが重要なマネジメント対象になってきた。しかし、この時代プロジェクトとして実施されていたのは、全社の基幹情報システムの開発であったり、会社の将来をかけた製品の開発といったあくまでも「特別な」事業であり、その企業が総力を挙げて取り組みような事業に限られていた。まさにプロジェクトXの世界だったわけである。
◆ドックイヤーとプロジェクト
プロジェクトの捉え方が大きく変わってきたのは90年代になってからである。90年代に入ると、日常的な業務にもプロジェクト方式が適用されるようになってきた。エンタープライズプロジェクトマネジメントの始まりである。その背景を簡単にみていこう。
80年代後半から情報通信技術の発達により、社会が急速に変わってきた。特に、90年代に入ってからはインターネットの普及により、「ドックイヤー」(犬の寿命は人間の1/7くらいで、従来の7倍のスピードで時間が経過していくことの例え)と言われるくらい時間の流れが速くなってきた。情報通信のネットワークが発展すると、情報の流れが速くなる。これにもとない、さまざまなものの流れが速くなってきたのだ。それは、製品や商品のライフサイクルへの影響ももたらした。例えば、多くの商品のライフサイクルは短くなる。一挙に普及して、ぱっとライフサイクルが終わるといった現象が見られるようになってきた。
◆アジルな経営
そのような中で、企業では今までのようなスピードで開発や生産をしていたのでは利益を上げることすら難しくなってきた。のんびり構えていると、商品を市場に出せるころにはその商品のライフサイクルが終わってしまっているといったことになりかねない。そこで求められるようになってきたのがアジルコンペティション(スピード競争)である。
アジルコンペティションを制するためには、今までのようにすべての製品を同じように扱っていたのでは難しい。何らかの形でメリハリをつけていかなくてはならない。そのためには、明確な戦略の元に、一つ一つの製品に対して、いろいろな意味でのプライオリティをつけていく必要がある。かつ、市場や外部環境の状況をみてそれらを修正しながら展開していく必要もある。
◆マネジメントの変化
また、スピードの変化は組織の形態、ビジネスプロセス、マネジメントの形にも大きな影響を与える。
これまでは、ビジネスプロセスは組織の機能連鎖を前提に考えられてきた。つまり部門ごとにその機能(役割)が明確に決まっており、上流部門から下流部門までプロセスを流していくことにより、一つの製品が出来上がるような仕組みをとってきた。例えば、企画部門が製品を企画し、次にそれを設計部門が設計し、さらに開発部門に渡り、さまざまな問題点をクリアしてモノとして出来上がる。このときに、所要時間は、例えば、企画で2ヶ月、設計で2ヶ月、開発に6ヶ月なので全部で10ヶ月かかるので、では10ヶ月後に製品を市場投入しようという風に考えられてきた。この考え方でアジルコンペティションを乗り切るのは難しい。アジルコンペティションでは「商品Aが競争力を持つには5ヶ月で市場に出さなくてはならない。これをいかにして実現するか」という発想が必要になってきた。つまり、目標ありきで考えていかなくてはならない。このとき、各部門に「所要期間を半分にしてください」と頼んでもなかなか「分かった」とはならない。自部門の利益が優先するのはある意味で当然であり、「うちの工数は減らせないから別のところを減らしてくれ」という話になる。
◆目標で組織を動かす
この問題を解消するには、組織全体を目標主導で動かしていくしかない。つまり、明確な目標があり、その目標をクアリする方法を考えるマネジメントを導入していく必要がある。これこそ、プロジェクトマネジメントの得意とするところである。
ここで大切なポイントは、企業が特別な活動をプロジェクトとして実施する場合にはそのプロジェクトに精鋭を結集してという話になる。ところが日常的な活動をプロジェクトで行うとなると企業全体では数十、数百のプロジェクトが同時に走ることになる。一つ一つのプロジェクトに精鋭を結集していたのでは、どれだけ人材がいても足らない。このようになってくると今までにはなかった問題が生じてきた。それはプロジェクト間の資源の競合である。分かり易い例としては人材が挙げられる。仮に、製品Aも製品Bも開発するにはXさんしかもっていない技術が必須である。ところがXさんは一人しかいない。どうするかという問題である。
そこで問題になってくるのがプロジェクトの重要性である。つまり、AとBは経営的に考えてどちらが重要かを判断し、重要な方にXさんという資源を優先的に投入するという考え方をしなくてはならない。2つのプロジェクトであれば話は単純であるが、これが全社レベルで10とか100とかになってくるとそう簡単にはできない。プロジェクトの優先順位付け、動的な資源の適正配分など、さまざまな問題を考える必要が生じる。それを考えた上で、企業のすべての活動をプロジェクトスタイルでやろうというのがエンタープライズプロジェクトマネジメントである。
◆部分最適と全体最適
実は良く考えてみると、この資源の競合は別にプロジェクト方式で業務を進めているから起こる問題ではない。例えば、上の例で開発部門が6ヶ月を3ヶ月に縮めることができない理由は、その部門にはほかの業務もあり、部門内で同じような資源の競合が起こっているからである。人材が倍いれば、所要期間を半分にできる。
では、プロジェクト方式にすれば何がよいのか。それは、競合に対する調整のスコープが部分ではなく、全体になるからである。例えば、部門間の連鎖で進めていると、製品Aと製品Bがあり、企画部門は製品AよりBを重視して、優先的に進めたが、開発はAを重視して先に進めるとことが起こりうる。これでは結果として目標が達成できない。すべてのプロセスで同様に判断をすることが必要であるが、「プロジェクト」の優先順位として判断していくことにより、それをスムーズに行うことができる。これがプロジェクト方式で仕事を行うメリットである。
◆戦略的経営とプロジェクトマネジメント
さて、もう一つ考えなくてはならない側面は、戦略的経営からくる側面である。従来、日本企業はできる限り、戦略を明確にしないで、事業や製品の選択をせずにやってきた。しかし、上に述べたように情報通信技術の発展を背景にしたビジネスのスピード化が進み、今までのやり方を変えざるを得なくなった。マイケル・ポーターが「日本の競争戦略」の中で指摘しているように、戦略的に顧客に価値を提供するためにトレードオフを行わざるを得なくなり、その結果、模倣ができない状況ができつつある。
ということは、従来の「模倣により不確実性を極力押さえ、リスクを低減し、ラインのオペレーションの差別化で競争をする」という方法は通じなくなってきたということである。その代わりに、市場や技術の不確実性を覚悟の上で、独自性にとんだ新しい製品を開発していかざるを得なくなってきている。これは、松下とソニーのこの5年くらいのヒット商品をみればまさに実感できるだろう。
◆不確実性とプロジェクトマネジメント
そのような不確実性の大きい事業の中では、不確実性を受け入れ、トレードオフというリスクをとり、なおかつ、それをうまくマネジメントしていくマネジメントの手法が必要になってくる。それを可能にするのがプロジェクトマネジメントであり、ここに、プロジェクトマネジメントを経営手法として適用する意義があると言える。すなわち、エンタープライズプロジェクトマネジメントが有効であると考えられる。
以上、述べたように、ビジネスのスピード化、経営の戦略化を背景にして、今後、プロジェクトマネジメントによる企業経営がどんどん進展していくものと思われる。
「エンタープライズプロジェクトマネジメント事始め」では、エンタープライズプロジェクトマネジメントの考え方、マネジメント手法、取り組み方などを毎月解説していく予定である
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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