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第9回 「対話(Dialogue)」による対立の解消(2009.01.30)

オープンウィル代表 中村 文彦


【新製品キャンペーン・プロジェクトにおける対話シーン】

リーダー「キャンペーンのイベントに関してクライアントから急な企画書作成依頼が入ってしまった。月曜日朝一番に企画書を提出して欲しいとのことなので、担当の君に土曜か日曜のどちらかに休日出勤して欲しいのだが、可能だろうか?もちろん私も出勤するつもりだ。急で本当に申し訳ないのだが。」

メンバー「う〜ん、それは困りました。この週末は家内の田舎から家内の両親が上京してくる予定で、この機会を利用して1泊2の旅行に行く予定になっているんです。」

リーダー「それは困ったね・・・。今から予定変更すると、君の立場は悪くなるのだろうね。」

メンバー「はい、その通りです。家内の実家にはいろいろと援助してもらっているもので・・・。とは言ってもクライアントの依頼を断ることもできないのでしょうね。」

リーダー「この件についてクライアントとはじっくり話し合ったのだけど、重要性が高いことが共有できた。私としては何とかしたいと考えているんだ。」

メンバー「確認ですが、要望は月曜の朝一番までに企画書を作成することですね。」

リーダー「そのとおり。けっして君を休日出勤させることが私の要望ではない。」

メンバー「私の要望も家内と家内の両親で旅行をすることであって、クライアントの依頼を断ることではありません。」

リーダー「では、お互いの要望を満たすような対策が何かないか、一緒に考えてみたいのだが良いだろうか?」

メンバー「はい、了解しました。智恵を出して何とか良い方法を考えましょう。」

   *   *   *   *   *   *   *   *   *

 プロジェクトを進めていく上で、ステークホルダー間の対立は、必ずと言ってよいほど発生する問題です。同じ目的や目標を共有していても立場や背景が違えば、目の前にある事象の見え方や対応のしかたは人によって異なるからです。また、プロジェクトには多目的性があるので、各人の目的の違いにより対立が発生することもあります。

 このような状況に陥った時に、どのように対立を解消するかについては、いくつかのスタイルがあります。

  1)地位や権力・権威等を利用して、自分の意見や要望を強引に押し通す
  2)論理を駆使したり、情に訴えたりして、相手を説得する
  3)駆け引きにより、お互いの妥協点や落としどころを探る
  4)共通理解を深めながら、お互いの意見や要望を共に満足させるような方策を創造する

 1)は発注者と受注者、上司と部下、専門家と非専門家といった力格差のある関係における対立解消として用いられやすいスタイルです。対立解消法としては最も短時間で済み効率的ですが、「信頼関係の悪化」「主体性やモチベーションの低下」「組織開発や人材育成の阻害」等の副作用が発生する危険性が高くなり、結果的にプロジェクトを失敗に導く要因になることがあります。

 2)は1)を穏やかに進めるスタイルと言えます。1)と比較すると平和的な方法ですが、その本質は1)と変わりません。したがって、1)で発生するほどの強い反作用はないものの同様の副作用が発生する危険性は残ります。
 また、1)と2)に関しては、多角的な視点が欠落するため、意見や要望を通したステークホルダーの判断能力によっては不適切な方策が選択されてしまう危険性があります。

 3)は対立解消に交渉術を用いるスタイルです。用いる交渉の手法や交渉スキルにもよりますが、1)や2)と比較して合意形成や納得性は格段に高まりますので、副作用が発生する危険性は低下します。
 ただし、お互いが得られる満足はトレードオフになりやすいため、100%の満足を得ることが困難になります。また、前提条件をくつがえすような画期的な方策は生まれづらくなります。

 4)は対立解消に「対話」を用いるスタイルです。協調的かつ創造的に対立解消を図ることを基本姿勢とし、「お互いの要望を100%満たす方策が必ず存在する」という理念に基づいてポジティブに対立解消を目指します。
 ステークホルダー同士が直接的に向かい合い、相手の意見や感情を受け止め、相手の立場に立って考え、お互いの意見や要望を判断保留して並べて見るところからスタートします。そして、ブレーンストーミングなどの手法を使いながら、新たな方策を生み出します。
 対立に関しては、「自然界に対立はない。対立や妥協が発生するのは、前提条件の誤りや思い込みがあるからだ。」という考えがあります。「対話」は、対立を解消する際の阻害要因となる誤った前提や自分自身の思い込みに気がつくことができる方法とも言えます。
 4)のスタイルは、結果的にお互いが100%満足できるような方策を生み出すことができなくても、3)のケースと比較してさらに合意形成や納得性のレベルが向上します。「対話」による対立解消は、時間はかかりますが、例えば感情面が絡むような複雑な対立を解消する際には最も優れた在り方と言えます。

著者紹介

中村 文彦    オープンウィル代表 中小企業診断士

1962年生まれ。明治大学文学部卒。大手食品メーカーの戦略的物流システム開発プロジェクトにプログラマーとして従事した後、営業およびプロジェクトマネジメントを担当。その後、中堅情報サービス企業にて、経営管理全般および組織開発・人材開発を担当し、独立。また、NPO日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)に所属し、各種研究会やPMシンポジウムの企画・運営等のプロジェクトマネジメント推進活動に参加している。
中小企業診断士、経済産業省認定情報処理技術者(プロジェクトマネージャ、上級システムアドミニストレータ)
著書『ITプロジェクを失敗させる方法 〜失敗要因分析と成功への鍵』ソフトリサーチセンター

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