【業務改善プロジェクトにおけるプロジェクトチーム内での対話シーン】
リーダー「Aさんの作業進捗状況はどうですか?」
メンバA「前倒しで進んでいますので、今のところ問題ありません。」
リーダー「それは良いですね。ところでその作業は、あと何時間で完了しますか?」
メンバA「今月いっぱいで完了する見込みなので、時間にするとあと100時間くらいですね。ちょうど計画通りですよ。」
リーダー「計画通りというのは、素晴らしいですね。」
メンバB「少し気になったので良いですか。前倒しで進んでいるならもう少し早く完了するように思うのですが、今後の遅れを想定している理由は何ですか?」
メンバA「実は営業部門からの資料提出が遅れています。来週中には提出される予定なのですが、私の方に待ちが発生するので、その分を見込んでいます。待っている間は、他の作業を先行着手する予定ですので、問題ありません。」
メンバB「なるほど、その資料は間違いなく出てきそうですか?」
メンバA「担当者は必ず出すと言っていますが、これまでズルズルと遅れているので確実かと問われれば、確実とは言い切れませんね。」
リーダー「どうして遅れているのでしょう?何となく心配なのですが、気にしすぎですかね?」
メンバA「う〜ん、その担当者に何か問題が発生しているのかもしれませんね。」
リーダー「それは、我々にとっても問題になる可能性はありますか?」
メンバA「・・・う〜ん、問題になる可能性がありますね。」
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プロジェクトを進めていく上では数々の問題が発生します。プロジェクトマネジメントは、次から次へと発生する問題を解決するマネジメントであるとも言えます。
当り前のことですが、問題を解決する上ではまず問題を発見することが必要です。しかし、この当たり前のことができないチームは少なくありません。チームで問題発見できていない状態は次のように分類できます。
1)問題が発生しているが、当事者であるメンバーに問題発生の認識がない。
2)メンバーが問題を独りで抱え込んでおり、チームに報告・相談されていない。
3)チームとして問題発生を認識しているが、問題のとらえ方がメンバー間で異なっている。
4)チームで問題を抱え込んでおり、他の利害関係者に報告や相談されていない。
これらを改善し問題を発見するにあたって、「対話」は大きな力を持ちます。
1)においては、「問題があれば報告せよ」というような一方的指示や「問題はないか?」というような安易な質問では、当然のことながら問題発見できません。メンバーに問題発生の認識がない要因としては、「知識不足」「勘違い」「リスクへの認識不足」「無意識の問題先送り」「他者に与える影響の無関心」等、様々です。具体的な質問を切り口を変えながら行ったり、異なる視点からの考えを提示することで、気づいていないことに気づいてもらうことが必要です。
2)のケースは、プロジェクトやメンバーに大きな損害を与えることが少なくありません。不幸を招かないためには「問題のないプロジェクトはない」という共通意識をチームとして持つ必要があります。問題の発生を報告したとたんに集中砲火を浴びるようなチームでは、誰も問題を提示しなくなります。誰かの問題について皆が真剣に話し合うことで、チームワークを育て信頼感や達成感を生み出すことができます。「問題を提示するのは良いこと」というムードを、日頃の対話を重ねながら、醸成していくことが大切です。
3)は、提示された問題がメンバー間で心から共有されていない状態です。この状態では、問題に対する対策も表面的になります。有効な解決策にたどり着かないばかりでなく、組織やチームとしての成長もありません。メンバーから提示された問題を皆の視点からはどう見えるのかについて話し合ったり、質問し合ったりした上で問題を再設定すると、問題に対する全員の関与が高まり、真の問題共有がなされます。
4)は、個人がチームに変わっただけで、その状態は2)のケースと同じです。問題には、様々な要因が階層的にも時間的にも関連しあって発生していることがあります。このような問題の解決をプロジェクトチーム単独で行うことは無理があります。直面している問題についてチーム内で対話を行い、自分達でできることとできないことを明確にし、他の利害関係者を巻き込んで更なる問題共有を行う必要があります。
問題発見を対話を中心にして進めるにあたって、留意すべきは次の二点です。
一つめは、論理的思考を強要しないということです。物事を論理的に把握し簡潔に説明することは重要な能力です。しかし、問題発見の場で論理的思考で話すことを前提にすると問題が隠れてしまう危険性があります。問題を最初から論理的に捉えることのできる人は、そう多くはありません。何となく違和感や不安感を感じるといったところから問題に気がつく人も少なくないのです。考えが整理されていなくても感じていることを率直に述べてもらい、後は質問によってその問題を皆で浮き彫りにしていくようなアプローチが大切です。
二つめは、他者を追い詰めるような質問をしないということです。問題発見の対話において、質問は大きな力を持ちます。良い質問は参加者の頭脳を刺激し、気づきや発見を生み出すからです。しかし、悪い質問をすると、逆に問題が隠れてしまったり間違った問題が設定されてしまったりします。そして、悪い質問の典型が「詰問」と「尋問」です。「詰問」には、自分自身の意見を押し付け、他者を責めるニュアンスがはいっています。「尋問」は、質問者が自分一人で判断する材料集めを目的として質問するようなスタイルです。これらの質問は、頭脳を硬直させた上に、攻撃モードや防衛モードを発動させてしまい、問題発見の流れを阻害してしまいます。
中村 文彦 オープンウィル代表 中小企業診断士
1962年生まれ。明治大学文学部卒。大手食品メーカーの戦略的物流システム開発プロジェクトにプログラマーとして従事した後、営業およびプロジェクトマネジメントを担当。その後、中堅情報サービス企業にて、経営管理全般および組織開発・人材開発を担当し、独立。また、NPO日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)に所属し、各種研究会やPMシンポジウムの企画・運営等のプロジェクトマネジメント推進活動に参加している。
中小企業診断士、経済産業省認定情報処理技術者(プロジェクトマネージャ、上級システムアドミニストレータ)
著書『ITプロジェクを失敗させる方法 〜失敗要因分析と成功への鍵』ソフトリサーチセンター
本連載は終了していますが、PM養成マガジン購読にて、最新の関連記事を読むことができます。