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第10回 「対話(Dialogue)」による「ふりかえり」(2009.02.28)

オープンウィル代表 中村 文彦


【コンクリート製品メーカーの製造プロジェクトにおける対話シーン】

コーチ 「この1ヶ月をふりかえって『うまくいったこと』や『感謝したいこと』や『嬉しかったこと』等、良かったことを思いつくままに挙げて下さい。」

メンバー「私は、まず営業部のAさんに感謝したいですね。」

リーダー「あぁ、私もそうですね。」

コーチ 「ほぉ〜、それはまた、どうしてですか?」

メンバー「お客さんから急な仕様変更依頼がありました。あまりに急だったためチーム内にはやらされ感が漂ったのですが、そこをAさんが察知して我々の話を聞いてくれました。」

コーチ 「察知してくれたんですね。聞いてもらって、どんな気持ちでしたか?」

メンバー「そうですねぇ・・・。確か、すっきりとしたような感じでした。」

コーチ 「Aさんには、そのことを感謝したいのですか?」

メンバー「それもありますが。さらにAさんは、その仕様変更が発生した背景について、お客さんから直接、話を聞く機会を設けてくれたんです。」

コーチ 「なるほど。で、それによって、どんなことが起きたのですか?」

リーダー「何よりもお客さんの立場とニーズが良く分りましたね。その上で作業をしたので、やらされ感はなく、こちらからも良い提案ができました。お客さんからも感謝の言葉をいただき、本当に嬉しい気持ちになりました。」

コーチ 「そうですか。聞いている私も何だか嬉しくなってきましたよ。」

   *   *   *   *   *   *   *   *   *

 プロジェクトによって生み出される成果は、ビジョンの実現(社会や顧客価値への貢献等)だけではありません。もう一つの重要な成果は、ビジョンの実現を通じて、そのプロジェクトに関った人々のキャリアが形成され、個人やチームの能力が向上できるということです。

 しかし、漫然とプロジェクトに従事していても、キャリア形成や能力向上といった成果は生み出すことは困難です。あるべき姿や理想のストーリーを描きながら内省と探求を行う必要があり、それには定期的に「ふりかえり」を行うことが大切です。

 ただし、留意すべきは「ふりかえり」の在り方です。不適切な「ふりかえり」をしてしまうと、百害あって一利なしという状態になりかねません。不適切な「ふりかえり」とは、例えば次のような「ふりかえり」です。

  ・形式や格式が重視され、権威や上下関係が幅を利かせている。
  ・思ったことや感じたことを率直に口に出せない雰囲気がある。
  ・財務数値等の定量データのみにより個人やチームが評価される。
  ・問題点や悪かった点のみがクローズアップされる。
  ・評論家的な発言が横行している。
  ・事ではなく人が問題になる。

 上記のような「ふりかえり」を行うと、次のような良くない状況が生まれます。

  ・他者批判や責任の擦り付け合いになる。
  ・チームの信頼関係が損なわれる。
  ・関係者のモチベーションが低下する。
  ・プロジェクトの全体像や関係性を把握できない。
  ・自信を持てなくなり、人やチームの可能性が開花しない。
  ・失敗をおそれるようになり、チャレンジ精神が失われる。
  ・未来に向かっての改善行動に結びつかない。

 プロジェクトの「ふりかえり」には様々な手法がありますが、良い「ふりかえり」を行うために最も重要なのは、どんな手法を用いるかということよりも、その中心に「対話(ダイアログ)」があることです。「対話」のある「ふりかえり」の基本姿勢は次のとおりです。

  ・権威や上下関係を越えて話し合う場を作る。
  ・評論家ではなく当事者として参加する。
  ・全員が最善をつくしたという前提に立つ。
  ・それぞれが体験したことや感じたこと並べて、皆で共有する。
  ・お互いの意見を尊重し、感情を受け止める。
  ・分析ではなく、問いかけにより潜在的な可能性を探求する。
  ・過去ではなく未来に向かう。
  ・良かった点を見つけ出し、スポットライトを当てる。
  ・問題点や悪かった点に対しては、事実のみを距離をおいて眺める。
  ・未来に向かってのストーリーや情熱を共有する。

 プロジェクトの中では様々なことが起こっています。同じプロジェクトに従事していても、それぞれの視点から見えているのはプロジェクトの一面に過ぎません。評価や判断をせず、「対話」を通じてお互いの体験や感情を並べてみることで、共通理解を深めプロジェクトの全体像や関係性を把握できるようになります。

 良かった点を「対話」を通じて探求することでは、強みや長所が強化されます。例えば、一人のメンバーの行動がプロジェクトを成功に導くことに寄与していたとします。そのような貢献を「対話」によって見つけ出し、皆が承認することができれば好ましい行動が繰り返されるようになります。そして、お互いに承認し合うことで信頼関係が高まり、チームとしての能力が向上します。

 また、問題点や悪かった点についても、分析ではなく「対話」を通じて探求することで、改善行動に対して、未来に向かう肯定的なパワーを得ることができるのです。

著者紹介

中村 文彦    オープンウィル代表 中小企業診断士

1962年生まれ。明治大学文学部卒。大手食品メーカーの戦略的物流システム開発プロジェクトにプログラマーとして従事した後、営業およびプロジェクトマネジメントを担当。その後、中堅情報サービス企業にて、経営管理全般および組織開発・人材開発を担当し、独立。また、NPO日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)に所属し、各種研究会やPMシンポジウムの企画・運営等のプロジェクトマネジメント推進活動に参加している。
中小企業診断士、経済産業省認定情報処理技術者(プロジェクトマネージャ、上級システムアドミニストレータ)
著書『ITプロジェクを失敗させる方法 〜失敗要因分析と成功への鍵』ソフトリサーチセンター

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