◆経験の単位
経験の単位という言葉を見て、不思議に思われた人も多いだろう。経験の単位こそが、戦略的に経験するためのキーワードである。
われわれはよく、失敗をしたときに、「得るものもあった」という言い方をする。これは何を意味しているのか?一つは失敗しても学べたことがあるという意味。これは最近失敗学というような言い方をされる。これ以外にもっとポジティブな意味もある。それは、失敗の中にも成功体験があるということだ。
また、思わぬことを学ぶこともある。たとえば、最新の技術を適用するシステムの開発をしていて、顧客との付き合い方を学ぶということも珍しいことではない。
このように「経験」というとついつい、メインストリームの部分だけに目が行ってしまうが、それ以外のところで学ぶことがあるのも仕事というものの面白さではないかろうか。この点を、人材育成においても十分に考える必要がある。
◆エンジニアAさんの営業経験
著者はこんなケースを見たことがある。ある企業で仕事がなくて、SEとして途中入社しながら、仕事にあぶれて営業を担当させられた社員Aさんがいた。現実問題として会社として仕事がほしいし、Aさんにとっても将来何かの役に立つだろうという発想でのある意味、苦し紛れの人材活用だった。
Aさんはがんばって営業マンとしてよい働きをし、ある顧客への営業活動の中で、優れたアーキテクチャー設計をいろいろ見ることになる。これが、Aさんには非常に役に立つことになる。やがて、Aさんの活躍もあり、また、景気がよくなったこともあり、十分な仕事が確保できるようになり、Aさんはまた、エンジニア職に戻る。戻った最初の仕事で、Aさんは自分自身がこんなに設計できたっけと思うような仕事ができることに気がついた。もちろん、顧客からも高い評価を受け、周囲も驚いた。きっと転職でも考えて、ひそかに勉強していたんだろうというのがもっぱらのうわさになった。もちろん、そんなことはない。Aさんは転職して今の会社に来たというのもあって、相当な危機感を持って営業活動に取り組んでいた。
◆Aさんは何を経験したのか
この話をするとすぐに「人間到処有青山(じんかん いたるところ せいざんあり)」という結論に至ってしまう。しかし、これはもっと分析的に考えてみる価値があるのではないかと思う。
Aさんにインタビューしたところ、いろいろと考えたようだった。一つは、技術水準の高い顧客企業で、ふんだんによい設計を目にしたことをまず上げた。もちろん、営業と顧客のエンジニアとしての人的交流もあった。これが技術力の向上につながっていったと考えられる。
もう一つは、顧客と通じて技術情報を耳学問で収集できたそうだ。これも大きいとAさんは考えている。
また、顧客のとって設計というのはどういう意味があるのかがわかってきて、設計の最初に何を考えればよいかがわかりだしたそうだ。
営業という一見、技術にとってあまり影響のない活動でもこれだけのよい影響がある。言い換えると、技術者としてのこれだけのことが学べるのだ。
◆業務要素を考えよう
プロジェクトマネージャーとしての経験を考えてみると、もっと、プロジェクトマネジメント以外の活動から学べることは多い。つまり、仕事を「成果物」を生み出すための活動という単位で見ないで、もう少し、細切れに見ていくと、もっと、いろいろと学べるものが見えてくるのだ。われわれはここに、「業務要素」という考え方を導入している。
業務要素とはその仕事の性格付けをする要素である。われわれでは、プロジェクトマネジャーの能力開発に重要な意味を持つ業務要素として次の5つのカテゴリを考えている。
・業務内容が変わる
・変化を作り出す
・重責を負う
・ステークホルダに対処する
・多様性に対処する
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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