◆必要な人材とは
よく「必要な人材」といった表現をすることがある。この意味はあまり考えられていない。あなたが部下を持っていれば、読み進む前に、ここで1分間立ち止まって、自分(の部門)にとって必要な人材とはどういうものかを考えてみて欲しい。
1分間で必要な人材のイメージが整理できたとすれば、あなたは日ごろからこの問題について深く考えている人だろう。誰にとっても必要な人材というのはいる。それは
何も言わなくても、自分で利益を上げてくれる人
だ。ところが、こういう答えを出す人に限って、「いや、彼のやり方はうちの方針に合わない」とかいって、いつ決めたのかも分からない、はっきりしない方針とやらを大切そうに引っ張り出してきて、否定する傾向がある。するとそのような人は去っていくのが常である。
なぜだろうか?答えは比較的簡単である。会社では自分たちの流儀で利益を上げることが求められるのだ。そこに、利益を上げることのできない流儀しかなければ、上のような構図は簡単に起こる。よかれと思ってチームをまとめて自分の流儀でマネジメントしていく。すると、勝手なやり方をしているということになる。
◆人だけが変わるとジレンマが生じる
最初から話が脱線してしまったが、この話は重要な脱線なのでしばらく続ける。この構図は人材を育成する際に非常に頻繁に起こる。どのような状況下というと上のような状況、つまり、自社を変えてくれる、あるいは、自社のポテンシャル以上の人材を生み出したいときに起こる。
このようなケースでは、人が変わる(成長する)とその人が組織の中で収まる場所がないという不幸なジレンマが起こるのだ。そのような企業では人を育成したければ、企業が自ら変わらなくてはならない。つまり、多くの人が思い描いているように、まず、キーマンを育てて、その人に組織を変えてもらうという展開にはまずならない。これから、説明していくpmstyleの話の背景にこの点があることはよく理解しておいて欲しい。人と人を入れる器(組織)は一体である。
さて、このような前提で、人材育成をどのように進めるかというのがここで考えたい問題である。前回述べたように、事業の戦略すらない企業にとっては空絵事に過ぎないかもしれないことをお断りしておく。
◆事業部をスクールにするとはどういうことか?
もっとも簡単なのは、それぞれの事業部のプロジェクトで成功しているプロジェクトマネジャーの特性(得意なこと、不得意なこと)を分析し、そのようなプロジェクトマネジャーを作りたければ、その事業部のプロジェクトのプロジェクトマネジャーを任せる。これが基本になる。
たとえば、ある企業では、
・金融システム開発部門
・Web開発部門
・オフィスシステム開発部門
の3つの事業部があり、それぞれの事業戦略として
・現場重視で、コストダウンにより利益率を向上させる
・成長指向で、新規技術採用による差別化を図り、利益率の高い仕事の受注をする
・市場指向(顧客指向)で、柔軟な対応により顧客との継続的取引を実現し、顧客の生涯価値を考えた利益の確保を行う。
という戦略を持っていた。この中で、それぞれの事業部でプロジェクトマネジャーの特徴を見ると、たとえば、金融システム部門のプロジェクトマネージャーは
・効果的なプロジェクトの実行
・ツールの有効活用
・効率的なプロジェクト運用
・チームワーク
に長けている人が多い。これに対して、
・変化への柔軟な対応をする
・大局を描く
・顧客を満足させる対応
を苦手にする人が多かったとする。このようなプロジェクトマネジャーの特性の分析を行い、それぞれの部門でのプロジェクトの経験をすることによって身につくコンピテンシーの分析を行う。一方で、人材像、つまり、既存の戦略を実行する人材、新しい事業部でのプロジェクトをマネジメントするプロジェクトマネジャーのコンピテンシーモデルを定義する。
その上で、そのコンピテンシーモデルを実現できるようなスクール(事業部)での活動の計画を作り、経験をつませていく。このようなスクールの考え方がpmstyleの基本になっている。これと従来のOJTとの違いは、前回説明したとおりである。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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