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人材育成のゴールは、コンピテンシーの高いハイパフォーマーへの育成

第4回 事業部をスクールにしよう(2004.06.04)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆育成のリスクをとるには戦略が不可欠

 プロジェクトマネージャーに限らず、人材育成を考えるときに、常について回るのは人を育てることと、目の前の業務(プロジェクト)をうまく行うことのジレンマである。特にプロジェクトマネージャーの場合には、プロジェクトの成功の鍵になる役割だけに一層、難しい。

 この問題を回避するには、戦略的な観点から判断する以外に方法はないと思われる。つまり、戦略による中期的な収益増加のシナリオの中での人材育成の位置づけであることが不可欠である。オーナー企業であれば、経営者の鶴の一声で「何事も経験だということで、リスクを承知でプロジェクトを任せることはできるかもしれない。しかし、さまざまなステークホルダのいる企業であれば、経営陣の独断でそのような判断をすることは難しいだろう。たとえば、株主に対して、プロジェクトの失敗のリスクをとってまで、そのような経験をさせることの正当性が必要である。その正当性になるのは、中期的にみたときに、人材育成への投資がさらに大きな利益を生み出すという構図以外にはないだろう。

 そのように考えると、経営戦略なしに人材を育てることは難しいと考えざるを得ない。

◆人材育成の考え方
 さて、仮に明確な経営戦略や事業戦略があるとして、人材育成はどのように行われるのだろうか?事業戦略があれば、その事業に必要な人材像が明確になってくる。たとえば、SI企業Aの金融事業部が顧客志向のサービス提供を事業戦略としていれば、顧客志向性が強いプロジェクトマネージャー人材が求められるし、また、実行力がある人材である必要もある「かもしれない」。さらには、十分な「要件定義をできるスキル」も必要になってくる「かもしれない」。

 「かもしれない」と書いたのは、実現手段は組織によって異なるからだ。同じ顧客志向のサービス提供を戦略としていても、それは徹底的なアフターケアで実現するということもできるだろう。その場合、必要な人材像も異なる。要するに、戦略を実現する手段は組織によって異なるし、極論すれば、そこにいる人材の資質によって変えざるを得ない。

◆必要な経験は企業により異なる
 このように考えたときに、一般論として、「ああすべき」、「こうあるべき」などと考えない方がよい。その事業に必要な人材はその組織だけが知っている。これは、人材要件というのが、事業におけるあらゆる要素の集積だからだ。顧客志向といっても、顧客によってどのような対応が必要かが異なるし、それにより必要な人材も異なる。サービスの内容によっても違うし、競合によっても異なるだろう。

 すると、人材育成のときのゴールとは、その事業に従事している中で、うまくやっているとみんなが認識できるような人材(ハイパフォーマー)なのだ。これはコンピテンシーの基礎になっている考え方でもある。

 逆に、人材育成のための機会としてみれば、ハイパフォーマーの持っているコンピテンシーやスキルを身につける機会になるともいえる。つまり、ある人材をそのような特性を持った人材として育てたければ、その事業を「スクール」だと考え、そこに行かせて、事業を経験させればよい。このスクールの単位は、事業単位でもよいし、顧客単位でもよい。また、プロジェクト単位でもよい場合もある。現実的に可能な範囲で設定すればよい。

 OJTの基本的な発想もここにある。つまり、OJTで経験することは、職域で必要なスキルやものの考え方を習得することも狙ったものである。ただし、OJTというのは、言ってしまえばその職域にドンピシャな人材を作ることであり、そこがリスクにもなる。現在のような環境変化の激しい時代には、もう少し、人材のスキルや能力をモジュール的に捕らえ、その組み合わせで人材像を定義することが求められる。

 たとえば、それまでSI事業でプロジェクトマネージャーをやってきた人が、アウトソーシングのプロジェクトマネージャーをやらなくてはならなくなったなどということは普通にありうるのだ。この際に、SI事業からアウトソーシング事業へ持ち運べるスキル、持ち運べないスキルを明確に分けておくことが重要であり、さらに重要なことはそのようなスキルユニット、コンピテンシーにようなものを育成の時点で明確にモジュール化して扱っていくことである。これが本人のキャリア育成にもなるからだ。

◆補足〜戦略を持たずに育てられる人

 本題からは外れるが、このことについて少し触れておく。

 そして、有効な戦略を持たずに人材を育てる唯一の方法は、「便利使い」のできる人材を育てることである。要するに明確な経営スタイルや人材像がないのだから、求められれば、何でも小器用にこなしてしまう人材以外、使えないのだ。

 このことがよいのか、悪いのかは微妙なところだが、長期的に見た場合にはよくないことは明らかだ。明確な戦略を持ち、その戦略にしたがって、意味のある人材育成を行う必要がある。それが、戦略が変わったときに、人材を持ち続ける唯一の方法でもあるとはいえるだろう。

 日本の企業の多くは、米国流の戦略経営が言われるまでは、実は終身雇用ベースにした戦略を持っていた。そして、それにしたがってリスクをとった人材育成というのは行われてきた。ところが、戦略経営が言われるようになりだしてから、明確な理由もなく終身雇用が否定されるようになり、戦略的な人材育成ができなくなった企業が多い。これらの企業の多くは、戦略経営ブームの中で、短期的に成果を出す戦略実行が不完全なままに、短期的な経営成果の評価をするシステムを導入した。それがキャッシュフローであり、成果主義である。これは皮肉なことだといわざるを得ない。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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