◆人材育成における部門間の溝
プロジェクトマネジャーの育成を見ていると非常に不思議なことがある。一方で、人材育成部門は冷静にプロジェクトマネジメントのスキルを分析し、スキルの習得をさせようとする。しかし、一方で、事業部門が期待するものは、決してそのスキルを身につけること「だけ」ではない、「何かいいもの」を期待している。「何かいいもの」の正体ははっきりしない。
はっきりしているのは、プロジェクトを成功に導いてくれる「何かいいもの」を持ったプロジェクトマネジャーがほしいというだけ。人材育成部門は研修を限定的に位置づけている。つまり、「基礎知識を研修で身につければあとは仕事の中でしか身につかない。事業部の方でよろしく。」となるのだ。事業部の方では、当然、プロジェクトを成功させる能力を持ったプロジェクトマネジャーを優先的に使う。ところが、それは2つの理由により行き詰ることが多い。
一つ目は、プロジェクトを顧客の要望に適うレベルで成功させるプロジェクトマネジャーの少なさである。もう一つは、そもそも、そのようなプロジェクトマネジャーの絶対数が足らないこと。ある大手SI企業の事業部長に聞いた話。この企業は4年前から全社を挙げてプロジェクトマネジャーの育成に取り組んでいる。プロセス的にも、プロジェクトマネジメントの標準も作ったし、それを研修でトレーニングしている。属人性は考えられる限り排除している。プロジェクト承認時点で、「あの人をプロジェクトマネジャーにすれば成功するが、空いていないのでこの人でいくしかない」という理由でプロジェクトマネジャーを決定しているプロジェクトが少なくみても半分はあるそうだ。人材育成が進んでいる企業でもこの有様である。
このような現実を見ていると、まず、言えることは、プロジェクトマネジャーの育成はトップマターである必要があることだ。人材開発部門と、事業部門の溝が埋まらない限り、プロジェクトマネジャーを育てることはできない。このことを覚えておいてほしい。
◆戦略的に経験させる
次に、研修が効果のある範囲は限定されることは間違いない。むしろ、研修にそれを超えて期待するのは酷である。事業部長が考える「何かいいもの」は経験でしか身につかないものだ。第1回で議論した行動できるプロジェクトマネジャーは、適切な経験をしているプロジェクトマネジャーだともいえる。しかし、成り行きでは、現在のスキルレベルの低い人が適切な経験をして、行動できるプロジェクトマネージャーになっていくことは難しい。従って、人材育成を考えるのであれば、「戦略的に経験をさせる」ことで不可欠になる。
◆では、どのような戦略を持てばよいか?
この問題は経営の根幹にかかわる問題でもある。プロジェクトマネャーの人材育成は企業の明日と未来を天秤にかけることになりかねない。
プロジェクトは非常にクリティカルな仕事である場合が多く、経験をさせるという思惑でプロジェクトマネャーを割り当てるには、何らかのリスクマネジメントが必要だ。今回から何回か議論したいことは、このリスクマネジメントを如何にするかということだと思っても間違いではない。
◆スキルと属人性を混乱しない
ここで、もう一つのインプットをしておきたい。それは、プロジェクトの成功にとって、プロジェクトマネジャーの能力がどれだけの効果を持つかという点である。これに対する意見は人によって違うと思う。この問題はプロジェクトマネジメントが属人的かどうかという問題ではないことをよく理解しておいてほしい。同じ手順でプロジェクトマネジメントをしても結果に差がででる。一般的にこれは属人的だというが、この差には先天的な能力の差によるものと、後天的な能力差によるものがある。属人的というのは前者であるが、後者はスキルの差である。そのように考えたときに、プロジェクトマネージャーのスキルの差で大きく結果が違ってくると考える組織と、そうではなく、たとえば、プロジェクトマネジメント手法、プロセス、あるいは、もっと経営的な部分でプロジェクトの選定により大きな成功要因があると考える人もいる。
この問題は、いずれ「プロジェクト経営入門」で議論したいと思っているが、ここでは深入りしないことにする。ここで議論しているのは、プロジェクトマネジャーの能力が大きな影響を与えると考える組織にとっての議論である(もっとも、「何かいいもの」と思うマネジャーたちは、この両方を求めているケースが多い)。
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好川哲人、MBA、技術士
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