第9話:プロジェクトの本質を見極め、プロジェクトマネジメントの方針を決める(2014.10.03)
◆PMBOK(R)はすべてやらなくてはならないのか
前回で一応、7つのポイントについての検討が終わったが、最後にこのように考えてマネジメントを行うというのが何を意味しているかを考えてみたい。
古くて新しい話題だが、PMBOK(R)が日本でも注目されだしたときに、
すべてのプロセスをこの通りにやらなくてはならないのか
という議論が沸き起こった。この議論はPMBOK(R)という新しいシステムに直面した人が大変だと率直に感じたことに端を発するのだと考えている。この議論に対してはそうではなく、必要なところだけを取り込めばよいという「定説」で決着しているように思っている人がいると思うが、当時、なぜ、こんな議論になったかというと、プロジェクトマネジメントとは何をすればよいか分かっていなかったからだ。
こんな言い方をすれば身も蓋もないのだが、当時の状況を振り返ってみると、原因は言及しないがPMBOK(R)がプロジェクトマネジメントだと思う人が大量発生した。そして、プロジェクトマネジメントをどこまでコストをかけてやらなくてはならないかという問題意識の中から、PMBOK(R)をすべてやらなくてはならないのかという疑問が出てきたわけだ。
◆プロジェクトマネジメントの目的
そもそもの間違いはここにある。話はまったく逆で、プロジェクトマネジメントとして本質的にやらなくてはならないことがあって、具体的なマネジメントがある。
当時、プロジェクトマネジメントの目的を明確にして、何をやらなくてはならないかを考え、その上でPMBOK(R)を導入しよう言っていたが、大抵の企業は目的のところで、「プロジェクトを失敗しないようにする」といった結果論的な目的しかなかった。
つまり、何を抑えておけばプロジェクトがうまく行くかが想像できなかった。その中で唯一、想像できたのがリスクマネジメントである。そして、しばらくやっているうちに分かってきたのが、スコープマネジメントだった。
今、多くの企業がPMBOK(R)を参考にしたプロジェクトマネジメントの仕組みを作っている。そして、それでもうまく行かないので、改善と称してルールを増やし、だんだん仕組みが複雑化し、以前にもまして何が目的で、何が本質なのか分かりにくくなっている。
◆環境が変わっても本質は変わらない
もう一つの問題として10年経てば環境は変わる。環境が変わればマネジメントは変わる。たとえば、メンバーへの接し方は10年前とは明らかに異なるものが求められている。
10年前ならすべきことを明確にし、責任を持たせればメンバーがモチベーションを持つことができたが、いまはそれでは難しい。見守っていることを知らせるとか、褒めるとかもっと分かりやすい形で承認欲求を満たして上げないとモチベーションが持てない。
しかし、本質は変わらない。メンバーが高いコミットメントをもって仕事をしてもらえるようにすることがマネジメントとしてメンバーへ働きかけるべきことだ。
◆プロジェクトマネジメントの本質
本質ということでいえば、たとえばステークホルダーマネジメントは第5版からは知識エリアになったが、突然(あるいは徐々に)、ステークホルダーマネジメントが重要性を増してきたわけではない。これまでもステークホルダーマネジメントは重要だったし、プロジェクトマネジメントの本質だったのだ。
プロジェクトマネジメントをコンセプチュアルにするということは、このようにプロジェクトのマネジメントとして本質的に行うことを見極め、そこを重点的に行うということだ。
◆プロジェクトの本質はプロジェクトによって異なる
ここで重要なことは、何が本質かは分野やプロジェクトによって異なることだ。PMBOK(R)で分野別の体系を作ろうとする動きが根強くある。この発想はナレッジマネジメントとしては悪くない。レッスンズラーンドを体系的に蓄積できる。
ただ、実用的な面からいえばあまり評価できない。同じ分野のプロジェクトでもプロジェクトによって本質が違う。成果物が全く同じだとしても、あるプロジェクトでは技術的な問題解決が本質であるが、別のプロジェクトではステークホルダーをうまく動かすことが本質だというのはあり得る。
極論すればプロジェクトの本質はプロジェクトの数だけあるといっても過言でない。だからといってプロジェクトマネジメントの本質がすべて違うわけではない。たとえば、ステークホルダーを動かすことが本質の場合も、技術リスクに適切な対処をすることが本質の場合にも、ステークホルダーマネジメントを手段として本質を実現することができる場合がある。ここをよく理解しておく必要がある。
◆プロジェクトの本質を考えて、プロジェクトマネジメントの方針を決める
そのように考えると適切なプロジェクトマネジメントを行うには、プロジェクトマネジャーがプロジェクトの本質を見極め、プロジェクトマネジメントの方針を決め、計画し、それを実行していく必要がある。そのためにプロジェクトマネジメント計画という概念があるのだ。
ここで、標準プロセス、ルールという問題があるが、基本的にプロジェクトマネジメント計画が優先することはいうまでもない。プロジェクトマネジメント計画が承認されるということは、標準的なやり方がどうであろうと、計画にある方法でマネジメントすることが承認されたということに他ならない。
ところがこのようなやり方は非常に難しい。なぜなら、本質を見極めることができないからだ。メンタリングのような機会にこの指摘をすると、プロジェクトが始まった段階で本質を見抜くのは難しい、進め方を決めて初めて本質が見えてくると考えるプロジェクトマネジャーが結構多い。
これは勘違いで、本質を見抜けない限り、本当の意味で計画はできないし、実行もできない。逆にいえば、本質の見極めが不十分な中で計画するので、無駄な計画になってしまうのだ。
この点をよく考える必要がある。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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