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プロジェクトのインパクトを大きくするためには、戦略の本質をインパクトとして設定し、インパクトの本質を実現するプロジェクトを創る

第8話:コンセプチュアルがプロジェクトのインパクトを大きくする(2014.09.19)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆プロジェクトのインパクトを大きくする


いよいよ、7番目のポイントで、

(7)プロジェクトのインパクトを大きくする

について議論する。

これがプロジェクトマネジメントがコンセプチュアルでなくてはならない最大の理由でもある。


◆2つの成功

プロジェクトマネジメントの役割は予算や納期内で上手にプロジェクトを終わらせることであるというのがモダンプロジェクトマネジメントの考え方だった。つまり、プロジェクトの「遂行上の成功」のためのツールだった。

近年ではこの目的は安定的に達成でき、プロジェクトマネジメントの目的が「インパクトにおける成功」に移ってきた。つまり、システムや製品サービスのような成果物をきっちりと仕上げることから、その成果物によってどれだけのインパクトを与えることができるかが成功の基準になってきた。これが世界的な潮流である。


◆インパクトにおける成功を目指す障壁

インパクトにおける成功を目指すにはいくつかの障壁があると指摘する声がある。

一つは、遂行上の成功は成果物が出来上がった時点で分かるが、インパクトは成果物ができて一定の時間がたたないとわからないというもの。

製品を開発しても思ったほど売れるかどうかは売ってみないと評価できないし、顧客にシステムを提供する場合にも、検収試験は合格しても顧客が思ったインパクトがあるかどうかは分からないが、そこまではコミットできないという障壁。

これらの障壁を克服するには、プロジェクトとして仕組みを作って実施している業務を、プログラムとして捉えて実施していく必要がある。この議論もしたいと思っているが、この連載の趣旨とは少し違うので、別の機会にする。

さて、これらの問題は言ってしまえば、プロジェクトの見方の問題であり、会計との整合性や顧客との契約の方法などを工夫する必要があるが、あまり本質的な問題だとは思えない。


◆問題の本質

もっと本質的な問題は、

いかに遂行の成功をインパクトにおける成功に結び付けるのか

という問題である。

この問題でまず考えるべきはインパクトと遂行の難易度の問題である。単純に考えると、同じ製品であれば早く市場に出せば競争力が高い。つまり、困難な納期をクリアすればインパクトが大きくなる。コストについても同じで、同じ製品で開発コストを抑えれば製品の価格を抑えることができ、競争力が増す。

つまり、遂行の成功のリスクを大きく取れば、インパクトの成功が大きくなる。これが議論の前提になるので、このことを頭の片隅においてほしい。


◆インパクトにおける成功に影響を与えるもの

では、インパクトの成功は遂行の難易度だけで大きくなるのかというともちろんそうではない。成果物がどれだけ役にたったかの方がはるかに大きな影響を与える。たとえば、顧客向けにあるシステムを開発したが、そのシステムは業務に役立つことはなく、使われなくなったとすれば、資産が増えただけで、インパクトはゼロである。

このようにならないためにはどうすればよいか。たとえば、IT業界では顧客の要求を一生懸命聞いて、システムにしていこうとしているが、あまり効果が出ていない。理由は明確で、「顧客が自分たちの役に立つシステムが描けない」からだ。

いわゆる業務システムであれば、何をつくればインパクトがあるか、顧客もある程度分かるし、ベンダーもよく知っている。ところが、ウェブの世界になると、何をどう作れば売り上げが増えるかなど、顧客も試行錯誤だし、ベンダーも分からない。

このことはビジネスが絡んだ場合に一般に言える。どういう製品を作れば売れるかが分かれば苦労しない。つまり、成果物とインパクトの関係が分からないのだ。


◆プロジェクトマネジメントへの要請

ここでプロジェクトマネジメントに求められるのは、インパクトを計画し、そのインパクトを実現する方法をできるだけ多く考えらえることである。やり方としては、アジャイルだとかリーンになるのだろうが、それはこの際どうでもよい。アジャイルとかリーンでやってうまく行かない理由は、結局、成果物とインパクトの関係がきちんと想像できないことによる。

現実的に見てると、インパクトの上位にあり、インパクトを規定する戦略なり、ミッションといったものと、インパクトの関係が曖昧であり、インパクトそのものの計画が不適切なケースが多い。たとえば、戦略として収益率の向上を掲げているにも関わらず、インパクトをシェア目標にしているといったことである。

また、インパクトに対して、具体的な手段、つまり、プロジェクトの成果目標が不適切なケースも少なくない。たとえば、シェア獲得をインパクトにしたくてプロトタイピングをやっているうちに、いつの間にかユーザ利便性に焦点が向いてしまい、仕様がフィックスしたころには本当にそれでシェアが取れるかどうかは怪しいといったケースである。


◆問題はインパクトの本質を見つけ出すこと

もう、大体お分かりだと思うが、成果物とインパクトの関係を見つけるというのは本質を見つける議論に他ならない。つまり、戦略の本質をインパクトとして設定し、インパクトの本質を実現するプロジェクトを創る。

インパクトの本質を考えることは、先に述べた遂行の成功にも大きく寄与する。この連載の中ですでに述べたように、本質を中心にして考えることで、時間やお金を有効に利用できるからだ。つまり、ある製品を作るために最大のインパクトを引き出せるような遂行上の成功を可能にする。

インパクトの本質を実現するのがコンセプチュアルなプロジェクトであり、コンセプチュアルなプロジェクトマネジメントのもっとも重要なところである。


【資料の紹介】(ソフトウエア)プロジェクトのインパクトについては、例えば、この本が参考になる。

ゴイコ・アジッチ(平鍋 健児、上馬 里美訳)
IMPACT MAPPING インパクトのあるソフトウェアを作る」、翔泳社(2013)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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