第18回(最終回)コンセプチュアルスキルの高い人/低い人(2)(2020.05.12)
◆はじめに
前回はコンセプチュアルスキルの高い人のイメージを明確にするために、構想、計画、問題解決、意思決定、対人関係、イノベーションの6つの視点から、それぞれどういうことができる人かを整理し、さらに、構想、計画の2つについて具体的な人材の事例を示しました。
今回は、残りの4つについて具体的な人材のイメージを示し、最後にまとめをしたいと思います。
◆コンセプチュアルスキルの高い人の問題解決行動の例
次に、問題解決行動です。例に挙げるのは、通販会社R社で、
クレーム対応マニュアルを整備しているにも関わらず、コールセンターの要員の不手際により、クレームがこじれるケースが毎月10件以上起こっている
という状況にありました。
ここでAコールセンター長は以下のような行動をとりました。
(1)一次対応と二次対応を分け、一次対応では顧客への謝罪と対処を速やかに行うように指示する。
(2)二次対応として、事象を書くだけではなく、必ずカテゴリーを書き、カテゴリーで想像される事象も書くようになっているクレームカタログへの書き込みをする。
たとえば、顧客がある製品の使用法の勘違いによるクレームがあれば、「使用法の勘違い」をカテゴリーとし、類似クレームが考えられる商品を全員が探し、原因毎に分類し、対処法を事例ベース化するとともに、商品納入者へのフィードバックを行うしくみを作った。
(1)は問題が発生した時に当然行うべきことです。顧客を冷静に戻すことと、本格的な問題解決行動をとるための時間稼ぎの意味もあります。
(2)は起こっている問題の本質をクレームの整理を行ってないためだと考え、再発防止を概念的なレベルでできるようにするという、コンセプチュアルスキルの高い行動をとっています。
コンセプチュアルスキルの低い人であれば、例えば、
個別案件に対応し、担当者から事情をしっかりと聴き、個々に最善の対応をしていき、また、必要に応じて自ら顧客に出向き、謝罪と対応をする。また、処理後クレーム対応マニュアルに事例として加えるよう、指示する
といった行動をとり勝ちです。これでは、本当に同じ問題の防止にはなりますが、類似の問題の防止には非力です。
◆コンセプチュアルスキルの高い人の意思決定行動の例
次は意思決定行動についてです。例に挙げるのはメーカーDのある事業部門です。この事業部門では新製品Xの開発をプロジェクト制で行っていました。そこに、競合メーカーが製品Xの競合製品を2ヶ月前に発売するという情報が入ってきました。
このとき、A部門長は問題は以下のような行動をとりました。
機能より発売時期だと判断し、競合製品の2ヶ月先行の影響分析を行い、開発スケジュールは変えず、製品プロモーションを前倒しすることを決定する
A部門長は、製品Xの成功のためには、機能より発売時期が重要だと考え、競合分析を踏まえ、現行のスケジュールで勝てると踏んで速やかに一連の行動をとりました。その中で、発売時期とはプロモーションの時期であるという判断をし、プロモーションだけ前倒しにしました。
このような行動は、決めるべきところを明確にして、そこを決め、関連する一連の意思決定を迅速に行うというコンセプチュアルスキルの高い行動になっています。
コンセプチュアルスキルの低い人であれば、例えば、
競合の製品が自社製品の売れ行きにどれだけの影響があるかを把握することが先決だと考え、競合の発売する製品の仕様を調査と自社製品との比較を指示する
といった行動を取りがちです。一見、もっともらしいのですが、このように対処すると、影響を推測するだけの情報は見つからず、さらに情報の収集を行っているうちに競合の商品は発売の時期を迎え、実物の製品を見て、拙速に対策を立てることになったりします。
◆コンセプチュアルスキルの高い人の対人関係行動の例
次に、対人関係行動についてみていきましょう。例に挙げるのは、SIベンダーNのP事業部門です。
P部門ではある顧客向けのプロジェクトを実施してしますが、顧客からの追加案件が出てきました。費用は取れるので売上げと利益率の向上につながる見込みですが、事業部長は引き受けることに強固な反対しています。
ここで、プロジェクトスポンサーのA部長は
(1)事業部長と話し合い、事業部長の懸念は今後よい条件の案件があったときに、要員が不足することだと判断する
(2)そこで、プロジェクト業務の細分化と細かな業務分担でムダな時間をなくし、生産性の向上の提案をする
という対応をしました。
A部長は、事業部長は事業部全体の運営に気を配っていることを理解し、そのために事業部長が危惧していることを解消していくために、部門内のさまざまなところとコミュニケーションをとり、生産性向上の段取りをつけ、事業部長に提案しています。これは、部門の構造を理解し、活用して、コミュニケーションをとることにより相手に影響を与えるというコンセプチュアルスキルの高いやり方だといえます。
コンセプチュアルスキルの低い人だと、例えば
、
は事業部長と話し合い、意見を詳しく話を聞いた上で、事業部長に一存する
といったやり方をしがちです。これでは事業部長に影響を与えることは難しいでしょう。
◆コンセプチュアルスキルの高い人のイノベーション行動の例
最後の例はイノベーション行動です。取り上げるのは、A社の携帯オーディオ部門です。携帯オーディオにおいては、S社が先駆者のブランド構築を行い、他のメーカが競合製品を出しても、技術力があり、開発力でも勝るS社にまったく歯が立たない状況でした。
この状況で、A社の製品マネジャーは、
(1)コンセプトレベルで違いを出そうとした。
(2)そこで、聞きたいCDを持ち歩くというコンセプトではなく、自分の持っている音楽をすべて持ち歩き、そこから自由に引っ張り出して聞くという製品を作る
というイノベーション行動をとりました。
A社のマネジャーは携帯オーディオの課題は機能などの表面的なレベルではなく、コンセプトレベルの問題だろうと考え、解決策を考えていったわけです。つまり、課題の本質を見極め、本質に対する解決をするというコンセプチュアルスキルの高い行動をしています。
コンセプチュアルスキルの低い人であれば、例えば
コストや使い勝手でS社の牙城を崩そうとする
わけですが、このように現場の課題解決に終始し、改善にとどまるすると、開発力でも勝るS社はすぐに対抗商品を出してきて、なかなか、成果が出せない結果に終わる可能性大です。
◆まとめ
コンセプチュアルスキルが高い人のイメージはお分かりいただけたでしょうか?この連載は、コンセプチュアルスキルを高めることが狙いですが、日常的にできるトレーニングをご紹介して、まとめにしたいと思います。
トレーニングのカテゴリーは、本連載の流れに従って、「本質を見極める」、「洞察力を高める」、「応用力を高める」の3つにしました。
それぞれ、以下の通りです。
(1)本質を見極める
・良い意味での手抜きをする方法を考える習慣をつける
・ものごとをシステムとして捉える習慣をつける
・思考の見える化をする
・思考の雛形(パターン)を増やす
・持論を磨く
・持論を他人にぶつけてみる
(2)洞察力を高める
・新聞や雑誌の記事のタイトルから内容を連想する
・文章を書く
・経験のない課題に取り組む(通ったことのない道を通るといったことでもよい)
・芸術などに興味を持つ
(3)応用力を高める
・日常の仕事の中で、異分野の人の話に耳を傾ける
・知識の引き出しを増やす
・歴史観を磨く
仕事はもちろん、日常生活においても、このような日常的な活動を意識して行うことによって、コンセプチュアルスキルは高まっていくと思われます。そして、時々、コンセプチュアルスキル診断をし、確認されることをお薦めします。
PMsytleコンセプチュアルスキル診断
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【カリキュラム】
1.コンセプチュアルスキルとは
2.本質を見極める
3.洞察力を高める
4.応用力を高める
5.コンセプチュアルスキルでこれからの行動が変わる〜ケーススタディ
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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