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レジリエンスを高めるために、コンセプチュアルスキルを強化する

雑談3:なぜ、レジリエンスにコンセプチュアルスキルが必要なのか(2020.06.10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆コロナによってマネジメントが変わる

コンセプチュアルリーダー塾をZOOMオンラインで再開することになりました。この塾は、6年前に始め、2年間だけやり、事情があって中断していたものです。再開にあたり、何を思って、始めたかを書き留めておこうと思います。

ちょっと長くなりますが、最初はコロナの話題からしたいと思います。コロナへの対応を見ていると、見事に日本の特性が表れていると感じているからです。

日本でも今年の2月くらいからコロナ伝染が発生し、マネジメントが大きく変わりつつあります。これは、国、自治体、企業、家庭など、すべてに当てはまります。ここでは、生活(社会活動)と経済活動の2つを見ていきたいと思います。

日本の特徴の一つは、考え方や行動を同質にすることによって国が自治体を飛び越えて、国民の生活にまで介入していることでした。多様性を認めないことによって自治体から国民まですべてを同質化し、公に大きな方針を出してその根拠となる情報は出さず、自治体が実行していくことに対して、法的な縛りや予算的な縛りをして介入していました。

今回のコロナ対策でもそういう気配が見えました。実際、緊急事態宣言を出すあたりまでは、国は状況分析や予測の情報はほとんど出さずに、その情報を使って地方に介入しようとしていました。

しかし、東京や大阪のように感染者が多い地域もあれば、岩手や鳥取のようにほとんど感染者がいない地域もあり、地域によってまったく状況が異ったことで自治体の要望は異質になり、全国のどの自治体にも通用する一律な細かなルールができなくなりました。一方でとにかくスピードが求められる状況の中で、具体的なルールを決めることができなくなってきたため、方針だけ示して、権限移譲を建前だけではなく、実質的に認めるという本来の姿に戻ったように見えます。

ちょっと脱線しますが、このような体制を作らざるを得なかったことがコロナ禍のプラスの側面の一つではないかと思います。コロナで地方自治がやっと本格化していくのではないでしょうか。


◆二分化したリーダー

さて、問題はここからです。

これまで自治体は国が(具体的なことまで)決めてくれれば従うというスタンスでやってきましたので、急に自分たちで決めろと言われてもそう簡単に対応できるものではありません。そこで、リーダーは自分で具体化して行動するリーダーと、国や他の自治体の様子を見て行動するリーダーに二分化されました。

では、この2つのタイプのリーダーの違いは何か。

リーダーシップに差があるように評価されていますが、その背後にあるのはコンセプチュアルスキルの違いだと考えられます。

◆決定のメカニズム

ウィズ・コロナといわれるこれからは、生活の様式もビジネスの様式も変わることが予想されます。では、どういう風に変わっていくかがどのように決まっていくのでしょうか?

国や自治体がどのように変わるべきかの大枠を示します。

これに対して多くの人は、もっと具体的に示してくれといいますが、現実的にはそれは不可能です。さまざまな地域に共通する生活の具体的な方法、さまざまな業界や企業に共通する経済活動の具体的な方法などあり得ないからです。

極論すれば、トップの国が指示できるのは3密にならないようにするというだけで、後は自治体や業界、そして家庭が決める必要があるのです。

生活であれば、国の示した方針を自治体が地域の特性に併せて具体化し(それでもまだまだ抽象的です)、さらにそれを個々の家庭で自分たちの状況に合わせて具体化していくしかないのです。もっといえば、家族も一人一人が違う行動をしていますので、自分の行動の中でどうすれば感染が防げるかを考え、実践していくしかありません。

経済活動であれば、業界でルールを決めて、そのルールの具体的な実践ルールは企業全体で、そしてさらには部門の特性に合わせて部門のルールを決めるしかありません。そして、こちらでもやはり最後は個々の人が判断するしかありません。


◆誰も決めてくれない

重要なことは、自治体、業界、企業、家庭のいずれのレベルでも、自分たちの具体的な方法を考えるのは自分たちの責任で、具体的に示してくれる人はいないことです。それぞれのレベルで、自分たちが決めるしかないのです。

この判断は、感染予防と、社会生活、経済活動などのバランスを踏まえた判断になりましす。そして、コンセプチュアルスキルで判断の違いが出てくると思われるポイントは2つあります。一つは、上位の方針を具体化するアイデアです。もう一つはどこまで大局を見て、自分の判断に反映できるかです。この点については後でもう少し詳しく説明します。

このように、ウィズ・コロナ、アフター・コロナでは、自分が決めなくてはならなくなるという点がもっとも大きな変化になると思われますし、レジリエンスを高めたいのはこの判断を適切に行えるようになるためだといえます。

今回はここまでにして、ではこのような判断を実際にどのように進めていけばよいのかを、プロジェクトを例にとってお話していきます。


◆戦略実行のためのプロジェクトか

日本でも1990年代はプロジェクトというとプロジェクトマネジャー任せだったことが多く、ある意味で権限移譲がされていました。ただ、プロジェクトという意識は薄く、どちらかといえば実務として担当リーダーを決め、丸投げするという意識でした。

ここにプロジェクトスポンサーというロールをはめ込むというのは結構、難しいものがありますが、組織の戦略実行のためにプロジェクトを実行しようとすると最大の課題は戦略実行に貢献できるプロジェクトの目的の設定であり、プロジェクトマネジャーではできない部分です。この部分ではプロジェクトスポンサーの役割が不可欠になります。

プロジェクトマネジメントの仕組みづくりの中で、まず、大きく分かれるのは事業や組織の戦略があってその戦略実行のためにプロジェクトを実施しているケースと、そうではないケースです。

そして、そうではないケースにも2つあり、一つは戦略はあるけど戦略実行という発想はないケース、言い換えると経営と現場が分断しているケースです。もう一つは、戦略もなくて、プロジェクトは売上を作るためだけにやっているケースです。

著者がクライアント企業のプロジェクトマネジメントに関わってきたのは、ほとんど戦略があるのものの、プロジェクトにはそれが反映されていないケース、あるいは、戦略実行としてプロジェクトを位置付けているにも関わらず、うまくいっていないケースでした。


◆プロジェクト憲章の内容

そのような企業において、クライアントとの議論になったのが権限移譲の問題でした。

原理的にいえば、プロジェクト憲章は

・プロジェクト目的
・プロジェクトマネジャー

の2点を意思決定するものですが、PMBOK(R)の影響もありこの2点以外に

・プロジェクトの前提条件
・プロジェクト目標
・予算
・そのほかの制約条件
・マイルストーン
・プロジェクトアプローチ

なども意思決定することが一般的になっています。

プロジェクト憲章は一般的には経営組織(以下、上位組織)がプロジェクトスポンサーの候補を決め、プロジェクトスポンサー候補が案を作り、上位組織が決済(意思決定)します。この意思決定はプロジェクトスポンサーを決定するものでもあり、この時点でプロジェクト憲章で決済された通りにプロジェクトを実行する権限はプロジェクトスポンサーに移譲されます。言い換えると、プロジェクト憲章で決められていることを変更する場合は、上位組織の承認が必要になっています。


◆PMBOK(R)のプロジェクト憲章が意味するもの

ここで改めてプロジェクト憲章の項目に注目してください。本来のプロジェクト憲章はほぼ全面的にプロジェクトスポンサーに権限移譲するものですが、PMBOK(R)は組織的プロジェクトマネジメントを目指しており、もう少し上位組織がコミットする位置づけになっています。

特に、プロジェクトの成果目標と予算がプロジェクト憲章に含まれていること、言い換えると上位組織が決定権を持っていることが大きな特徴だといえます。これはプロジェクトを事業運営の中で重視しているため、事業マネジメントをするにはプロジェクトの予算と成果目標を変えなくてはならないことがあることを意味しています。

言い換えると、プロジェクトスポンサーへの権限移譲の範囲が小さくなっていますが、上記以外の項目についてはプロジェクトスポンサーが決定権を持つことになります。


◆ベースライン計画の策定

プロジェクトスポンサーはプロジェクト憲章で決まったプロジェクトマネジャーにプロジェクト憲章に基づくベースライン計画の策定を指示します。PMBOK(R)であれば10の知識エリアに関する計画になります。

この作業は、プロジェクトスポンサーが考え、上位組織が決済したプロジェクトの進め方(つまり、プロジェクト憲章の内容)を具体化していくことになります。ここでポイントになるのは、プロジェクトスポンサーが設定している目的や目標の意図は何か、また、予算はそういう前提で設定されているものかなど、ベースライン計画に具体化するための背景になることを見極める必要があります。もちろん、プロジェクト憲章の決済に当たって上位組織による修正があればそれについても理解しておく必要があります。

ベースライン計画はプロジェクトスポンサーが決済します。ベースライン計画が決済されたら、プロジェクトマネジャーはベースライン計画を実現するためのプロジェクトマネジメント計画を作り、担当を決めた上で、プロジェクトマネジメント計画を実施するための計画づくりを担当者(担当リーダー)に指示します。

ここでも、プロジェクトマネジャーはプロジェクトスポンサーがベースラインに託している意図や意味をよく理解し、それを実現できるようにプロジェクトマネジメント計画を決めていく必要があります。

これがプロジェクトの立ち上げから、初期計画策定までの基本的な流れです。


◆コンセプチュアルスキルが低いと権限移譲がうまくいかない

問題はこの中で、権限移譲がうまくいかないケースが多いことです。

例えばプロジェクトスポンサーは、戦略からプロジェクトの目的を決める必要がありますが、これがうまくできるプロジェクトスポンサーはそんなに多くありません。ここがプロジェクトマネジメントの仕組み作りをするときにまず、壁になるところです。

意思決定の責任は上位組織にありますので、プロジェクトスポンサーは上位組織が決済できる案を作らなくてはなりません。そのためには、戦略を戦術に落とし込み、戦術を成功させるためのプロジェクト目的を決めていく必要があります。

さらに、戦術からプロジェクトの目標、制約、予算、アプローチなどにさらに具体的な落とし込みをしなくてはなりませんが、そこには多くの自由度と可能性があります。

この戦略からの戦術への落とし込みや、戦術から具体的な計画への落とし込みをするにはコンセプチュアルスキルが鍵になります。さらに、プロジェクト憲章で承認されている条件を変えなくてはならない状況になると、戦術を変える必要があったり、戦術を実行するための具体的な条件を変える必要があります。これを柔軟にするにもコンセプチュアルスキルが不可欠です。

詳しくは、コンセプチュアルスタイル考に戦略と戦術の行き来をする方法を解説した記事がありますので、お読みください。

【コンセプチュアルスタイル考】第50話:コンセプチュアル思考で戦略と戦術を行き来する

これはプロジェクトマネジャーについても同じようなことが言えます。プロジェクト憲章からベースライン計画を作る際には概念と形象の行き来が必要ですし、ベースライン計画からプロジェクトマネジメント計画を作る際にも同じです。

もちろん、プロジェクトマネジャーの仕事はあらかじめチームリーダーの候補を決めてチームでやることが多いのでみんなで意見を出し合えばいろいろな意見が出てくるという一面もありますが、やはり、出てくるアイデアのクオリティを上げるには、プロジェクトマネジャーがコンセプチュアルスキルが高く、概念と形象の行き来をうまくできることが決定的に重要です。


◆管理における権限移譲とマネジメントにおける権限移譲

日本では20年前までマネジメントというと管理を意味していました。その範囲で権限移譲をするということは管理権限を委譲するということです。プロジェクトマネジメントでいえば、進捗管理の権限を委譲するということです。

マネジメントには、意思決定と管理の両面があります。権限移譲の本来の意味合いは、管理だけではなく、意思決定の権限も委譲するということです。

ところが、プロジェクトで行われている権限移譲は管理権限の委譲であることが多く、そのために、プロジェクトスポンサーはプロジェクトマネジャーにベースライン計画だけではなく、プロジェクトマネジメント計画を策定させ、決済し、計画通りに進めるための管理を任せると委譲をしている組織は少なくありません。

この背景には、上位組織がプロジェクトスポンサーに対して、プロジェクトマネジャーをできるだけ具体的に指導するようにという指示をしているケースが多いようです。


◆まとめ

著者が考えるプロジェクトマネジャーとスポンサー、上位組織の関係は

<上位組織の決めるべきこと>
・事業戦略
・プロジェクトの前提

<プロジェクトスポンサーが決めるべきこと>
◎プロジェクトの目的
〇プロジェクトの予算
・プロジェクトの制約

<プロジェクトマネジャーが決めるべきこと>
◎プロジェクトの目標
〇プロジェクトのベースライン計画
・プロジェクトマネジメント計画

というものです(◎:上位承認、〇:ケースバイケース)。

これから分かりますように、プロジェクトがうまく進むかどうかは、上位者の考えていることを適切に具体化することが必要であり、そのためには概念と形象の行き来を的確にすることが不可欠です。

前編で、コロナの影響によって一様な考え方をすることができなくなり、多様性が増し、上位者が具体的な指示をするという形から、それぞれの層で上位の層の考えを具体化して決定をし、最終的に行動可能は具体性を持ったアイデアを生み出していくようになるだろうという話をしましたが、それを既に仕組みとして実践しているのがプロジェクトマネジメントなのです。

以上のように、アフターコロナを見据えたレジリエンスの重要要素の一つはコンセプチュアルスキルです。レジリエンスを高めるために、コンセプチュアルスキルを強化しましよう。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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