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一人一人が、大局的な視点を持ち、自分の業務を遂行していくために必要なのが、本質を見極めること

第52話:全体最適を考え、本質に迫る(2019.10.10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆本質とは何か

本質はコンセプチュアルスキルの中核であり、本質を見極め、本質をベースに行動することはコンセプチュアルスキルの向上に欠かすことができません。今回のコンセプチュアルスキル考は本質に迫るためにとるべきスタンスについて考えてみたいと思います。

辞書によると本質は

「すべてのものに共通している/当てはまるさま」(大辞林)

と説明されています。

例えば、本質的問題というとすべてのトラブルに共通する問題点ですし、本質的要求というとすべての顧客が求めていることがらになります。

すべてのものごとに共通しているものごとを見つけようとすれば、抽象度を上げる必要があります。だからといって抽象度を上げすぎると、共通はしますが、本質に基づいて適切な行動を起こすことができなくなります。

例えば、働き方改革で社員の望むことの本質を考えてみましょう。

「満足な生活を送れること」を本質だと考えてしまうと確かにすべての社員に共通していることで、またすべての要素を包含しているといえます。しかし、何をもって「満足な生活」なのかがはっきりせず、具体性に欠けます。

そのため、本質をベースに、何か改革行動をしようとすると考える範囲が広すぎて改革として具体的な行動に落としていくのは困難になります。つまり、抽象度が高すぎるのです。

一方で、本質を「残業をしないこと」ことだと考えると、改革で取るべき具体的な行動として仕事の効率を上げるなどはっきりしましすが、それだけがすべてでないことは明らかです。やりがいのある仕事をしたい人もいるでしょうし、高い報酬を得たい人もいるでしょう。

このように、本質に迫るためには、適切な抽象度を見極めることがポイントになります。このためには何ができればよいのでしょうか?


◆本質の見極めの前提

その議論の前に、本質を見極める際には注意すべきことを整理しておきます。

まず、本質には筋の良い/悪いがあるということです。これはどこまで本質に迫っているかの度合いのようなものです。筋のよい本質を見つけることは本質により迫れているということです。

本質の評価は本質を応用して、どれだけメリットが生まれるかによって決まってきます。問題の本質であればその問題を解決してどれだけの問題現象を回避できたかであり、要求の本質であればそれを商品化してどれだけ顧客を満足させることができたかです。

ある意味で本質だと考えたものがどれだけ適切だったかは結果論ですが、見方を変えると、応用力(行動力)で本質の筋の良さが変わってくるといってもよいでしょう。

二つ目は筋の良い本質を見極める思考は必ずしもロジカルではないことです。そもそも、本質を見極める思考というのは明らかになっていません。よく使われる方法に、WHYを繰り返してものごとを掘り下げていき、抽象度を上げ見極めるという方法がありますが、これだと人によってたどり着く先が違うのが普通です。

上の例でいえば、仕事のやり方を変える理由を掘り下げていくと、ある人はやりがいのある仕事をするためという答えにいきつくかもしれませんし、またある人はプライベートな時間を十分に持てるようにするためという答えに行き着くかもしれません。このような中で本質を見極めるには、たとえば直感のようなロジカルではない思考法が必要になってくるでしょう。だからこそ、本質を見つけるのは難しいとも言えます。

三つ目は、本質は客観的なもの、つまり、あなたが本質だと思うことは誰もが本質だと考えるかどうか分かりません。

この前提は少し厄介です。本質はあらゆるものが持つ性質です。言い換えると、そのものごとが持つ普遍的な特徴です。であれば、誰もがそうだと認識する客観的なもののはずです。ここで考える必要があるのは、ものごとの認識は人によって変わるということです。

例えば、働き方改革の例で、「やりがいのある仕事ができること」を本質だと考えたとします。ある人は自分の興味を持てる仕事ができることが望みかもしれませんし、別の人は自分の能力を持つ仕事だと考えるかもしれません。すると、自分の望みを「やりがいのある仕事」という概念で括れないと考えるかもしれません。

だからといって、主観的なもので本質はそれぞれの人が決めればよいかというとそうではありません。やはり、客観的な納得が得られないと筋のよい本質にはなりません。

本質は主観ではありませんが、強いていえば、「間主観的」なものだといえるでしょう。


◆本質を見極める際のポイント

既に述べましたように本質を見極める思考法はありませんが、本質を見極める際にもっとも重要なのは視野の広さ、視点の多様さです。

共通したものごとをみつけ、それがどれだけ筋のよいものであるかは、どれだけのものごとを対象に見ているかに大きく依存します。狭い範囲で考えれば共通したものを探すのは簡単ですが、ちょっと外れると当てはまらなくなってしまいます。

例えば、スティーブ・ジョブズがなぜ、iPhoneを作ることができたかを考えてみてください。顧客は、携帯電話に対する不満や要望などをいろいろと言っており、ジョブズだけが特別な情報を得ていたわけではありません。

ただ、ジョブズはそれまでに、アラン・ケイの提唱したパーソナルコンピュータであるダイナブックの実現を目指し、MacintoshやNeXTなどさまざまなコンピューターを開発してきました。また、初めてハードディスクを搭載したデジタルオーディオプレーヤーであるiPodの開発経験がありました。

ジョブズと他のスマートフォンのデザイナーの決定的な違いは、この視野の違いだと言えます。他のデザイナーが携帯電話の進化版を作ろうとしていたのに対して、ジョブズが作ろうとしていたものは携帯電話の域を超えるものでした。iPhoneは携帯電話の発想ではなく、持ち運びができユーザの能力を飛躍的に拡張するデジタル機器の発想なのです。


◆本質に迫るには全体最適の発想が必要

つまり、iPhone以外のスマートフォンは携帯電話の進化版という部分最適を目指しているのに対して、iPhoneだけはポータブルなデジタル機器という全体最適を目指していたわけです。

そのためにユーザの求めているデジタル機器の本質を見極め、実現したのがiPhoneなのです。言い換えると、欲しいデジタル機器は何かを概念的なレベルで考え、具現化したものがiPhoneだといえます。

この話は、経営の話と類似しています。普通の経営者は社内や業界のことばかり見て最適化しようとしますが、よい経営者は自社だけではなく世の中をみて自社の最適化をします。日本でもだんだん、この経営者の差が企業の成長格差として現れるようになってきています。

これがもともと経営者にコンセプチュアルスキルが必要だとされていた理由ですが、今の時代は担当者であっても全体を俯瞰しながら、自分の担当を実行する必要があります。


◆本質を洞察し、応用する

このように、担当者の一人一人が、大局的な視点を持ち、自分の業務を遂行していくために必要なのが、必要なのが本質を見極めることなのです。

例えば、あなたはスマートフォンの液晶のガラスを作っていると考えてください。スマートフォンの開発チームから「こういう仕様のものが欲しい」というスペックが出てきます。当然、それはクリアしなくてはならないわけですが、問題はそれだけでありません。いうまでもなく、ユーザが何を欲しがっているのかということで、それと開発チームの要求を満たすような製品を開発する必要があります。

この課題に対して、ユーザからの情報を得ることはあまり現実的ではありません。本質を洞察し、それにこたえていく必要があります。洞察の一つの切り口は、なぜ、開発チームがそのようなスペックを要求しているのか、そもそもどういうコンセプトのスマートフォンを作ろうとしているのかですが、情報として得られる可能性があるのはこのあたりまででしょう。後は、洞察の世界です。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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