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WHYによる掘り下げの目的が問題の本質を見極めることだとすれば、本質としてどちらが適切かを考える

第49話:WHYの階層を意識する(2019.05.10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆WHYによる深堀りが難しい理由

「トヨタの5WHY」、「なぜなぜ分析」などにみられるように、WHYによる分析は本質的な問題や要求を探し出すために古くから有効に活用されています。ところが、WHYを繰り返して深堀りするだけの一見単純な手法が、意外と難しいのが現実です。

理由は、WHYによる問いに筋の良し悪しがあるからだといえます。

例えば、あなたが誰かから繰り返し、WHYを聞かれることを考えてみてください。
例えば、働き方改革の取り組みの中で、新入社員から

「なぜ、仕事は定時内に終わらなくてはならないのか」

訊かれたとしましょう。これに対して、

(1)「コストを減らしたいからだ」

と答えた場合と

(2)「全員が早く帰れるようにしたい」

と答えた場合では、最終的に行き着くところが違ってきます。

(1)だと、例えば、

「コストを減らしたい」
(なぜなら)「利益を増やしたい」
(なぜなら)「株価をあげたい」

といった掘り下げになるでしょう。つまり、「仕事を定時内で終わる」という取り組みの本質は「株価を上げる」ことになります。これに対して(2)だと、例えば

「全員が早く帰れるようにしたい」
(なぜなら)「従業員に自分の時間を持ってほしい」
(なぜなら)「公私とも充実した人生を送って欲しい」

のような掘り下げになるでしょう。つまり、「仕事を定時内で終わる」という取り組みの本質は「従業員に充実した人生を送れる環境をつくること」になるわけです。

このようにWHYによる掘り下げの目的がやっていることや問題の本質を見極めることだとすれば、本質としてどちらが適切かという議論になります。この適切さが「筋の良さ」になるわけですが、まず最初のポイントは掘り下げの方向性を決める最初のWHYに対する答えです。


◆掘り下げの深さ

もう一つ考えなくてはならないのは、掘り下げの深さです。トヨタの5WYではWHYを5回繰り返すと本質的な問題に行き着くということになっていますが、5回にさほど意味があるわけではありません。3回で十分な問題もあれば、7〜8回繰り返さないと本質にたどり着かない場合もあります。この深さの見極めがなかなか難しいのですが、筋の良さを決める一つの要因になることは間違いありません。

上の例で(1)の方向でより掘り下げ、

「コストを減らしたい」
(なぜなら)「利益を増やしたい」
(なぜなら)「株価をあげたい」
(なぜなら)「企業イメージをよくしたい」
(なぜなら)「よい人材を採りたい」

と展開できるとすれば、本質は「よい人材を確保すること」かもしれないわけです。


◆筋のよいWHYの掘り下げを行うには

このようなWHYによる掘り下げにおける筋の良さはWHYをどれだけ強力な武器にできるかを決めるといえますが、では筋の良いWHYの掘り下げを行うにはどうすればよいのでしょうか。

まず、WHYのポイントを決める中で留意すべきことはよく言われる双方向に納得できるか、つまり、

「根拠 だから 結論」 は納得できるか
「結論 なぜならば 根拠」 は納得できるか

というチェックをすることです。

上の例でいえば、コストに関しては、

「定時内に仕事を終える」と「コストが減る」

というのは納得できても、

「コストが減る」なぜなら「定時内に仕事を終える」

というのは納得できない人がいるでしょう。現実に、パフォーマンスが上がらずに定時内に仕事を終えるために仕事の成果の質を落とし、仕事時間を短縮しているという問題を耳にすることがあります。すると、このWHYの答えは適切ではないことになります。


◆WHATとWHYを混同しない

ここで、注意すべきことはWHYの議論をするときに、WHATとWHYの混同することです。つまり、WHYを考えているつもりがWHATを考えているケースです。

例えば、プロジェクトマネジャーのAさんは製品開発のプロジェクトのWHYが「競合より優れた性能を持つ製品を開発すること」だと考えているとしましょう。これはWHYだと言いながらWHATになっています。WHYとして考えるべきことは、なぜ、そのプロジェクトを行うのではなく、なぜそれをプロジェクトとして行うのかなのです。

プロジェクトにおいてなぜ、そのプロジェクトを行うのかはWHATであり、これをWHYとするのは筋が良いとは言えません。筋のよいWHYを考えるためには、なぜそれをプロジェクトとして行うを考える必要があります。


◆個人のWHY、プロジェクトのWHY、組織のWHY

このような混同が起こる一因に、WHYにはいろいろなレベルがあることが挙げられます。個人のWHYもあれば、プロジェクトチームのWHYもある。また、組織にもWHYはあります。

たとえば、このプロジェクトに参加しているBさんは、新しい技術Xを活用することによって実現したいと考えていました。これはメンバー個人のWHYです。しかし、チームのWHYは売れる製品を開発することでした。また、事業部としてのWHYはこの製品群のイメージを顧客に寄り添うものに変えることでした。

組織のWHYとプロジェクトのWHYはどういう関係にあるに注意する必要があります。例でいえば、組織としてこのプロジェクトをやりたい理由(WHY)は競合との競争に優位に立つためでした。このようなWHYに対して、プロジェクトマネジャーのAさんは、より高い性能を持たせることを考え、プロジェクトのWHYを設定しているのです。

このような場合、どうすればよいのでしょうか。プロジェクトマネジメント的には、組織のWHYがあってそれに貢献するのがプロジェクトであるので、組織のWHYに併せてプロジェクトのWHYを立てるということになります。そして、それに興味を持てる人をメンバーに選びます。

例えば、顧客に寄り添うものに製品イメージを変えるために、プロジェクトは顧客イメージを一新することを目的としました。そしてこの目的を実現することに興味を持っている人を募集します。ところが、Bさんの持っているスキルはこの製品を構成するには不可欠だが、Bさん自身は興味がなく、新しいことをやりたがっているので、仕方なく今回は外したということになってしまいます。


◆コンセプチュアルな展開

ここで、プロジェクトマネジメントをコンセプチュアルにするとどういうことになるのでしょうか。

ここで登場するのが「統合」です。つまり、組織の目的、プロジェクトの目的、メンバーの目的を統合する。言い換えると、これらの3つが満足できるような目的を考えるわけです。

例でがんがえてみましょう。まず、組織がなぜ、製品群のイメージを顧客に寄り添うものにしたいのかを考えます。WHYで組織の要求の本質を見つけるのです。すると、新しい市場の開拓だったとします。

また、プロジェクトのキーメンバーになりそうなメンバーの目的を聞くと、Bさんは新しい技術を使うことでした。技術X自体にそんなにこだわりがあるわけではなさそうです。

そこでプロジェクトとしては、新しい技術により顧客の要求を実現していくことを目的としました。


◆あくまでもWHYは主観である

このように、WHYには本質的に階層があることを意識し、かつ、上位のWHYに貢献し、メンバーのWHYに適合するWHYを設定することがプロジェクトの成功に通じます。

ただし、この議論には正解があるわけではないことを認識しておく必要があります。組織の目的に貢献していること、メンバーの目的を実現できることの基準はあくまでも主観です。厳密にいえば、間主観であり、そのように決めようとすれば、ステークホルダーを巻き込み、納得させることが不可欠であることはいうまでもありません。

だからこそ、筋の善し悪しがあるのです。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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