第47話:コンセプチュアル・マネジメントによる組織のコンセプチュアルスキルの開発(2018.09.25)
◆はじめに
コンセプチュアルスキルは基本的には個人のスキルですが、同様にチームやプロジェクト、組織にも必要なスキルだと考えられます。コンセプチュアルスキルを高めていく場合、個人のスキルだけでななく、チームや組織のスキルも高め、シナジー効果(相乗効果)を生み出していくことが重要になります。
まず、コンセプチュアルスキルに起因する個人、チーム、組織の関係を考えてみたいと思います。コンセプチュアルスキルの基本は個人です。ところが、個人のコンセプチュアルスキルのレベルが異なると、チームがうまく行きません。
例えば、チームのメンバーの洞察力が異なると、コミュニケーションにおいて前提が変わってスムーズに行かないといったことが起こります。一つ例を挙げると、顧客がもっと使いやすくしてくれと抽象的な依頼をしたとします。これを受けた2人のメンバーはそれぞれ自分の担当箇所の作業にかかりましたが、顧客の依頼の理解が異なっていたために、途中でちぐはぐになって、作業をやり直すことになりました。これはコンセプチュアルスキルの高さの違いによるものだといえます。
さらにチーム同士にも同じことが言えます。チーム間の関係をスムーズにするためには、チームや個人のコンセプチュアルスキルが重要なポイントになります。
このように考えると、個人のコンセプチュアルスキルのほかにも、チームのコンセプチュアルスキル、組織のコンセプチュアルスキルが必要になります。今回のコンセプチュアルスタイル考はこの問題を考えてみたいと思います。
◆チームに必要なコンセプチュアルスキルとは
まず、チームに必要なコンセプチュアルスキル、組織に必要なコンセプチュアルスキルとはどのようなものかを考えてみます。
チームに必要なコンセプチュアルスキルは、チームとして問題や事柄の本質を探し出し、行動していくスキルですが、本質を見つけるために、起こっていることを概念的、あるいは構造的に捉えていく必要があります。
チームがコンセプチュアルな活動をできるかどうかは、リーダーがコンセプチュアルな活動をできるかどうかにかかっていると考える人もいますが、それではチームとして機能することはできません。チームのメンバーは個々にコンセプチュアルな思考をする中で、チームとしてのコンセンサスが出来上がり、それに従って行動することが不可欠です。
ものごとの本質をどのように見るかは人によって違う可能性があります。そこで、チームとして議論を繰り返し、チームとして本質を共有することが大前提となります。チームとして本質を共有することがチームワークのもっとも基本になります。その上の多様性なのです。
◆組織に必要なコンセプチュアルスキルとは
さらに、組織がコンセプチュアルな活動をするには、今度は組織という曖昧な枠組みの中で、本質を共有することが必要になります。チームで本質を共有するためには、ミーティングを重ねるなど、リアルの手段によって可能ですが、組織の場合にはほぼ不可能です。
しかし現実には、例えばグーグルのように組織として世の中の本質を把握し、自分たちの活動を決めている組織があります。このような組織を創っていくには、一つは組織としての方向性を決めるリーダーシップとともに、組織文化が不可欠だと考えられます。
つまり、リーダーは方向性を決め、その本質を組織文化にする。それによって組織の隅々まで伝搬し、その中で組織のメンバーは本質の実現に取り組んでいきます。
◆本質の抽象のレベル
では、チームや組織のコンセプチュアルスキルを高めるにはどうすればよいのでしょうか?
この問題を考える前に、触れておきたいのは、本質には抽象レベルがあるということです。つまり、経営リーダーが考えた本質を管理者層や担当者がそのまま実現しようとしてもできません。本質というのはそもそも抽象的なものですが、自分たちの立場に即した抽象度の本質を考える必要があります。
例えば、経営トップは顧客を満足させることのできる企業でありたいと考えていたとします。そしてそのための本質は、「顧客に尽くす」ことだと考えています。これに対して、ある製品部門は自分たちの提供すべき製品の本質は「シンプルさ」だと考えました。ところが別の製品部門は「機能性の高さ」だと考えました。一見、矛盾しているようですが、両者とも「顧客に尽くす」ための本質がどこにあるかと考えた答えです。
このような状況を組織文化でうまく統合していく。これが組織のコンセプチュアルスキルです。
◆コンセプチュアルスキルの低い活動
次に、組織やチームレベルでコンセプチュアルスキルの低い活動パターン明確にしたいと思います。ここでは、便宜的に、コンセプチュアル思考の軸に併せて、分析型、経験型、客観型、論理型、短期型の5つのパターンに分けます。
(1)分析型
組織で起こっている問題や現象の原因を分析するが、分析が終わると達成感を得て、行動は他人任せにする。
(2)経験型
抽象的な発想や発言を受け入れず、経験に基づく具体的な議論に集中する。
(3)客観型
主観的な意見を受け入れず、客観性という名目のもとで、組織として同じ意見を求める。
(4)論理型
論理的な発想を求めるため、経験に基づく発想に終始し、新しい発想が出てこない。
(5)短期型
組織が一体となって目先の事象に注目し、長期的な視点を持つことを重視しない
コンセプチュアルスキルを向上させるには、このような思考や行動をとらないようにすると効果的です。
◆組織のコンセプチュアルスキルの育成
そのためにどのような育成が考えられるのでしょうか?まず個人レベルですが、
・主体性を持つ
・WHY(本質)を考える
の2つが効果的です。具体的には
・トレーニング
・コーチング
・フィードバック
・アセスメント
などの取り組みが考えられます。次に、チームですが、個人の育成に加えて
・コミュニケーションを活性化する
ことが効果的です。そのために、
・チームビルディング
・ファシリテーション
・プロセス・コンサルティング(チーム)
・職場ぐるみ訓練
などの取り組みが効果的です。最後に、組織ですが、
・コンセプチュアルな組織文化を構築する
ことです。そのためには
・サーベイ/フィードバック
・質問会議
・プロセス・コンサルティング(組織)
・コンセプチュアルな組織文化への変革
・ホールシステム・アプローチ
などの取り組みが効果的です。
PMstyleではコンセプチュアルマネジメントのポイントとして、
1.質問で本質を共有する
2.コンセプチュアルな組織活動のプラニング
3.ステークホルダーへのコンセプチュアルな対応
4.コンセプチュアルな人材育成
5.コンセプチュアルな組織文化の構築
の5つを上げていますが、上に示した方法はほぼ、この5つのポイントを含んだものになっています。ぜひ、コンセプチュアル・マネジメントを導入し、組織やチームのコンセプチュアルスキルの向上にチャレンジしてみてください。
◆組織のコンセプチュアルスキルを高めるための方向性を考えるセミナーを開催します
本講座は、コンセプチュアルマネジメント講座の概論講座であり、
・マネジメントの主要活動のコンセプチュアル思考の有効性を実感する
・コンセプチュアル思考によりマネジメントを変革する基本的な原理を把握する
・マネジメント活動の本質を洞察し、現実にあった方法で具体化する発想を身につける
といった狙いがあります。詳細は以下のURLをご覧ください。
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆コンセプチュアルな組織を創るマネジメント ◆(7PDU's)
日時・場所:【Zoom】2025年 01月 22日(水)9:30-17:30(9:20入室可) 【Zoomハーフ】2023年 03月 15日(水)13:00-17:00+3時間
※Zoomによるオンライン開催です
※ハーフセミナーは、事前学習3時間あります
※少人数、双方向にて、演習、ディスカッションを行います
講師:鈴木道代(プロジェクトマネジメントオフィス、PMP、PMS)
詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/conceptual_management.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス、PMAJ共催
※Youtube関連動画「コンセプチュアルスキルとは(前半)」「コンセプチュアルスキルで行動が変わる」
「イノベーションを生み出す力」
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【カリキュラム】
1.コンセプチュアルではない組織の問題点
・個人レベルの問題点
・チームレベルの問題点
・組織レベルの問題点
2.コンセプチュアルなマネジメントのポイント
2.1 質問型の組織を創る
2.2 コンセプチュアルな組織活動のプラニング
2.3 ステークホルダーへのコンセプチュアルな対応
2.4 コンセプチュアルな人材育成
2.5 コンセプチュアルな組織文化の構築
3.コンセプチュアルなマネジメントの目標
4.コンセプチュアルマネジメントでコンセプチュアルな組織を創る仕組みワークショップ
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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