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コンセプトは、具体概念、事物・事象の具体的全体から一般的性質をもつ部分を抽象したものを示す概念である。コンセプトに求められるには具体的であることではなく、具体概念、すなわち「事物・事象の具体的全体から一般的性質をもつ部分を抽象したものを示す概念」

第46話:コンセプトは曖昧では機能しない〜曖昧と抽象は違う(2018.06.11)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆「曖昧」だから「抽象」は嫌われる?

PMstyleのコンセプチュアルスキル講座のセミナーで、「なぜ、抽象は嫌われるのか」というアイスブレークをすることがありますが、この議論の中で「曖昧だから」という意見を耳にすることがよくあります。また、普段の議論の中でも、抽象と曖昧を一緒にしている人によく出会います。

この議論は、コンセプチュアル思考の本質にかかわってくる議論です。今回のコンセプチュアルスタイル考はこの問題を考えてみたいと思います。


◆「曖昧」と「抽象」

まず、言葉の意味を明確にしておきます。goo辞書では「曖昧」と「抽象」は次のように説明されています。

「曖昧」は

「態度や物事がはっきりしないこと。また、そのさま。あやふや。」

です。これに対して、「抽象」は

「事物または表象からある要素・側面・性質をぬきだして把握すること」

です。ついでに、概念についても抽象と具体があり、「抽象概念」は

「事物・事象の具体的全体から一般的性質をもつ部分を抽象したものを示す概念」

と説明されます。「具体概念」は

「いろいろな属性を有する主体としての事物を示す対象概念」

だとされています。これもついでに頭に残しておいてください。


◆曖昧と抽象は違う

話を戻しますが、このように「曖昧」と「抽象」は異なる状態です。

gooの説明もからわかりますように、「抽象」は、事物から要素・側面・性質を抜き出したものですで、抽象化というと、例えば、

「ミケ」(特定のネコ)→ネコ→哺乳類

といった想像をしがちです。これは一般化という抽象化ですが、このように考えると確かに上位の抽象にいくほど、どういうものかわからなくなってきます。しかし、これは決して曖昧になっているわけではありません。ネコや哺乳類は概念ですが、明確な属性の定義があるからです。例えば、ネコという概念だと、

足が4本、尾が1本、目と耳が2つずつ、目は・・・、

といったものです(例えば、Wikipediaをみればかなり詳しい説明がのっています)。

これに対して、例えば「ミケ」を誰かに説明するのに

「ミケ」→「緑色の毛が生え、「ニャ〜ン」と鳴く」

といった説明をすることがあります。

これは一般化すると様々な属性がある中から、「人に紹介する」という目的のために必要だと思われる部分を取り出したものです。もちろん、該当するのは「ミケ」だけではありませんので、これも一種の抽象化です。この抽象化は単純化といって、複雑な事象のうち、当該目的に合致した部分のみの特徴をとり出し、枝葉を切り捨てるものです。


◆抽象化すると「曖昧」になる?

このように単純化すると、「ミケ」のことを説明したいにも拘わらず、より多くの当該のネコが当てはまるような表現になりますので、曖昧だと感じてしまいます。確かに、「ミケ」を説明するという目的のためには曖昧になっているとも考えられます。

ただし、「ミケ」という実体を表すのは容易ではありません。「ミケ」の実体を目の前においても人によって注目する点が違えば違うものに見えるかもしれず、不可能だといってもよいでしょう。このように実体を中心にして考えると抽象的な表現は曖昧だと感じてしまうのです。

ここで考えたいのはもっと目的が抽象的な場合です。例えば、「ミケに似たネコ」を探したいとします。

この目的を果たすために、何に注目すればよいかという観点から単純化によって対象を抽象化します。すると、「緑色の毛が生え、「ニャ〜ン」と鳴くネコ」を探すことになります。「緑色の毛が生え、「ニャ〜ン」と鳴く」という表現は全く曖昧さはありません。このような抽象的な特徴を本質と呼びます。

言い換えると単純化による抽象化は本質を明確にすることでもあると言えます。


◆「見える化」の強みと弱み

さて、日本は古くから「見える化」に熱心に取り組んでおり、コミュニケーションにおける言語の重要性が低くなっています。これは従来、強みになってきましたが、逆にいえば、実体がなくてはうまくコミュニケーションできないという弱みも作ってきました。そして、今、ビジネスにおいては弱みの方が目立つようになってきました。

従来ですと、実体を想像してコミュニケーションや思考をしなくてはならないのは、経営者をはじめとした上級管理者に限定されていました。たとえば、部長でも実体を扱う思考やコミュニケーションで仕事をすることができました。しかし今では、新入社員でもそうはいきません。概念を扱う、いわゆるナレッジワークが求められているのです。


◆コンセプトと実体

その典型がコンセプト創りです。以前はコンセプトは日本語では「全体を貫く基本的な概念」というイメージで使われることが多かったですが、最近は本来の意味である「物事の概括的な意味内容」で使われることが増えてきました。

ところが例えば、商品コンセプトを創ってもらうと、非常に具体的かつ、説明的なものを創ろうとする人が多いのです。つまり「実体ありき」で、実体を説明したコンセプトを創りたがります。

言い換えると抽象と具体を1対1で結び付けなくては納得できない人が多いのです。
結びつけること自体は重要なのですが、問題は一度結び付けてしますと、その範疇を出れなくなってしまうことにあります。


◆よいコンセプトを創るには

「ミケ」と「緑の毛」を一度結び付けてしまうと、「緑の毛のネコ」は「ミケ」だけになってしまうのです。これではよいコンセプトはできません。良いコンセプトであるには

(1)やりたいことが明確である
(2)実現性があること
  コンセプトが具体概念になっている
(3)プロセスがイメージできること
  コンセプトを構成する具体概念の要素の組み合わせによる価値創造のプロセスがイメージできる
(4)全体性があること
  何をやりたいか、一目瞭然である

のような条件が必要です。

これをクリアするためには実体を具体的に表すようなコンセプトであることが必要だと考えてしまうのですが、そうではありません。必要なのは「ミケの細かな説明」ではなく、「ミケ」であることの本質が何かということなのです。

上で述べましたように、コンセプトに求められるには具体的であることではなく、具体概念、すなわち

「事物・事象の具体的全体から一般的性質をもつ部分を抽象したものを示す概念」

であることです。


◆コンセプトは具体的な概念である

コンセプトを考える意味は、具体的な実体をコンセプトの範囲でさまざまな視点から考えるためです。「緑色の毛が生え、「ニャ〜ン」と鳴く」というコンセプトから思いつくのは「ミケ」というネコかもしれませんが、別のネコかもしれないし、ひょっとするとフクロウかもしれません。実体とコンセプトの関係はN:1なのです。

だから、コンセプトを明確にすることによって、より目的に適したものを選ぶ余地が生まれるわけです。

このためには、曖昧であってはなりません。あくまでもコンセプトは具体的な「概念」である必要があるのです。


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PMstyleではよいコンセプトを創るための講座を実施しています。コンセプト力を身につけたい方は、ぜひ、ご参加ください。
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  【カリキュラム】                           
   1.コンセプトとは何か〜コンセプチュアルスキルの観点から
   2.本質とコンセプト
   3.よいコンセプトの作り方
   4.コンセプトをビジネスモデルとして具体化する
   5.コンセプト立案ワークショップ(内容はお問い合わせください)
   6.ストーリーでコンセプトを伝える
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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