第45話:矛盾を統合し、WinWinを生み出す(2018.04.25)
◆コンセプチュアルスキルといえば、、、「統合」
コンセプチュアルスキルの中で、もっとも重要なスキルは何ですかと聞かれることがあります。コンセプチュアルスキルといえば、良くも悪くも「抽象化」に象徴されているようなイメージがあります。そもそも、本質という考え方からしても、「見えないものを見る」ような側面が強く、抽象的なものです。本質から始まるのがコンセプチュアルスキルだとすれば、やはり、抽象化が中心になると考えることができます。
確かに分析という視点から考えるとそうかもしれませんが、コンセプチュアルスキルは思考だけのスキルではありません。ここがポイントです。PMstyleではコンセプチュアル思考とコンセプチュアルスキルを分け、コンセプチュアルスキルは考えて行動するスキルだと定義しています。
このように行動を考えたときに、抽象化が中心になるかといえば、そうではないと考えています。では、何が中心なのか。
「統合」
です。
◆統合の定義
まず、統合の定義をしておきたいと思います。統合とは
「相反する2つの考え方を同時に保持し、対比させ、二者択一を避けて、両者の良さを取り入れつつ、両者の考えを上回る新しい解決に導く行動プロセス」
のことです。
一つ例を挙げておきましょう。
◆「統合」の例
今、イノベーションへの取り組みがブームになっていますが、従来の業務があってなかなか本腰を入れることができない企業が多いようです。1837年に創業したP&Gは、パンパースやアリエール、ファブリーズ、ジレット、パンテーンなどの数多くのブランドを持つ世界最大の家庭用品メーカーですが、2000年くらいに深刻な経営不振に陥ります。大きな要因のひとつが同社の技術偏重の社風でした。
新製品開発を最優先させ、製品開発とマーケティングコストが大きく膨らんでいき、満を持して発売した新製品は次々と失敗するといったことが起こっていました。社内でも、イノベーションではなく、コスト競争力をつけなくては再起できないのではいかといった議論が起こっていました。
そのときに、CEOに就任したアラン・ラフリーは思い切った手を打ちました。
コスト低減に徹底的に取り組み、一方でイノベーションを強化するという戦略を取ったのです。そのための方法として、重要性の低いイノベーションを外注するという常識はずれの策を取りました。
イノベーションを取るか、コスト削減を取るかという選択の中で、「両立させる」という全く異なる第3の道を取ったわけです。
◆マネジメントの本質は統合
この種の相反、矛盾というのは経営では日常茶飯事ですし、突き詰めていえば、顧客の利便を優先するか、自社の利益を優先するかのバランスを取るのが経営の本質だといってもよいでしょう。
一昔前の自社の利益を優先するという経営はできなくなっており、顧客の便益を優先せざるを得ないという風潮が一般的になってきました。しかし、同じように顧客第一を掲げていても、顧客に振りまわされている企業もあれば、顧客とWinWinの関係をつくっている企業もあります。
両者の違いは、顧客と企業の利益を統合できているかどうかの違いです。そもそも、WinWinというのは双方の利益を統合することですので、
統合=WinWin
だと考えてもよいでしょう。
◆WinWinとLoseLose
では、どうすればうまく統合できるのでしょうか。例えば、P&Gのような状況でよくやるのは、
低価格化を目的としたイノベーション(改善)をする
ことです。確かにこれだとコスト削減派もイノベーション派も納得というか、妥協できる方法です。しかし、これはまず、成功しません。なぜなら、統合とは上に述べましたように、「両者の考えを上回る新しい解決に導く」ことだからです。このような方策では、双方のメリットを少しずづ犠牲にして、落としどころを作っているだけです。
いわゆるいいとこどりでは筋のよい統合にはなりません。言い換えれば、これではWinWinにはならないのです。落としどころを作ることは、お互い目指しているところと比較すると、LoseLoseです。
このように、多くのケースでは、いいところどりをしていて、関係者が納得していますが、実は経営的にはあまりメリットがない選択をしている場合があります。
◆統合のポイントは本質を考えること
アイデアを組み合わせることによって新しい価値を生み出せて初めて統合だといえます。そのためには、「コスト削減」、「新製品開発」という具体的なレベルで検討していてもよいアイデアは生まれてきません。これらの取り組みの本質は何かということを考えてやります。
たとえば、「コスト競争力をつける」ことがコスト削減の本質であり、「イノベーション体質をつくる」ことがどんどん新しい製品を作っていくことの本質だとすれば、この抽象化レベルで2つを統合する方法はないかと考えてみるわけです。そこで、たとえば、
「製品の提供単位を見直し、システム化することにより、イノベーションのコストを下げ、製品価格を下げていく」
というアイデアが出てきたら、これを具体的に展開する方法を考え、たとえば、
製品を部品化し、部品の組み合わせで新しいコンセプトの製品を提供していく。また、新しい部品の開発も行う場合、従来よりも多くの製品で使われるようにする
といった展開をしていけばよいのです。
◆顧客との利益の統合の例
もう一つの例として、顧客と企業の利益の両立の話をしましょう。フォーシーズンズというホテルのイサドア・シャープCEOの話です。シャープ氏がフォーシーズンズを創ったのは、アットホームな小型のホテルと、施設の充実した大型ホテルのいずれも捨てがたく、モーテルのあたたかいもてなしと、大型ホテルの利便性の両方を合わせもつようなホテルを求めた結果だと言われています。
フォーシーズンズは今では全世界に展開されており、日本にも東京と京都にありますが、そのオペレーションは特別な工夫がされています。ホテル側からすれば、大型ホテルにするか、小型ホテルにするかどちらかの方がはるかにオペレーションはやりやすくなります。しかし、顧客の要望は両方であり、それを統合するために、フォーシーズンズのスタイルを作り、従業員の待遇、教育研修の充実、モチベーションアップ、独自のマーケッティングなど、あらゆる視点からさまざまな新しい試みを実行し、実現しています。
まさに、顧客にとっても、企業にとっても新しい価値を生み出したわけです。このように統合には分析だけではなく、行動が伴います。これが統合の目指すところです。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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