第42話:組織がコンセプチュアルになるとどうなるのか?(2018.02.26)
◆組織開発としてのコンセプチュアルスキル
前回はリーダーシップの話をしましたが、今回はもう少し話を進めて、組織開発の話をしたいと思います。
【コンセプチュアルスタイル考】第41話:コンセプチュアル・リーダーシップl
コンセプチュアルスキルというのは基本的には個人のスキルですが、その性格上、組織やチームのスキルとしての一面もあります。組織のスキルは前提として個人のスキルがありますが、特に日本では、ビジネスやプロジェクトに成功するには組織のコンセプチュアルスキルが重要だと考えた方がいいでしょう。
◆コンセプチュアルスキルの低い組織
まず、最初にコンセプチュアルスキルの低い組織のイメージをいくつか示しておきたいと思います。たとえば、こんな組織です。
・組織で起こっている問題や現象の原因を分析するが、分析が終わると達成感を得て、行動は他人任せにする
・抽象的な発想や発言を受け入れず、経験に基づく具体的な議論に集中する
・主観的な意見を受け入れず、客観性という名目のもとで、組織として同じ意見を求める
・論理的な発想を求めるため、経験に基づく発想に終始し、新しい発想が出てこない
・組織が一体となって目先の事象に注目し、長期的な視点を持つことを重視しない
◆なぜ、コンセプチュアルではないのか
なぜ、このような組織になるのかと考えてみると、例えば、以下のような原因を上げることができます。
・事例や慣例/前例の重視
・マニュアルの詳細化
・目的化した改善活動
・(売上/収益)目標だけの提示、機械的な目標設定
・短期的な業務遂行方法
・矮小化された業務範囲(個業化)
・ロジカルシンキング偏重
・コミュニケーション(ヒューマン)スキルへの依存
また、このような原因の背景にあるより本質的な原因として
・マネジャーの認識不足
・生産性の悪さによる時間不足
・創造性の不足による収益力不足
といった問題があります。
◆組織のコンセプチュアルスキルが高くなると生産的&創造的になる
では、組織のコンセプチュアルスキルが高くなるとどうなるのでしょうか?基本的には個人のコンセプチュアルスキルの効果が、業務を生産的&創造的にするのと同じで、組織の活動を生産的&創造的にします。
【PMスタイル考】第101話:創造性と生産性の不思議な関係
まず、生産的にするという観点からは、改善活動では得られない効率化を実現することが可能になると考えられます。
◆生産性向上の例〜コンセプチュアルではない対応
例えば企業Aの開発部門では、新商品開発のために、市場調査をし、デザインをする業務をしています。ポイントは顧客のニーズだと考え、徹底的に調査しているのですが、最近、顧客のニーズが多様化して、調査のコストが急増してきました。そこで、この問題を解決しようと、
・ネット活用による調査時間の短縮
など、いくつかの改善を行いました。しかし、多様性を重視すればするほど、顧客は多様性を求めるようになり、いたちごっこで調査コストの本質的な問題は解消されませんでした。そこで
・一部の調査プロセスの外注
を行い、コスト削減をしてきましたが、一方で商品開発にかけることのできるコストも削減されており、これまた本質的な問題解決にはなっていません。
このような状況でコンセプチュアルスキルの低い組織だと、今のやり方のままで何とかコストを圧縮することに苦心し、どこかでもう無理だというところに行き着いてしまうのですが、コンセプチュアルな組織では少し変わってきます。
◆生産性向上の例〜コンセプチュアルな対応
例えば、開発部門としてなぜ調査が必要かということを徹底的に話し合います。そうすると、いきつく先は顧客が好んで求めてくれる商品を開発するためだということに気づきました。そこで、そのような商品を開発するのに今の調査の方法しかやり方はないのかと考えます。
そこで、一つの方法として、詳細な顧客調査をやめてしまい、デザインの担当者が自分のほしい商品を作るという方法をとってみることにしました。
これにより、従来の方法より売れるものもあれば、売れないものも出てきました。そこで、売れない商品はなぜ売れないかを徹底的に議論する、場合によっては市場調査を行うような方法に修正しました。
これにより、この開発部門で手掛けている新商品の販売額は3年間で150%になりました。また、調査コストは70%になり、コスト削減を実現でき、収益率も35%向上しました。
◆コンセプチュアルな組織ができること
この組織が行ったことは、
(1)問題を概念化し、共有する
(2)共有された問題の本質を考え、本質を解決するような問題解決方法を考える
(3)概念的な問題解決方法を具体化し、実際の策として実施していく
という3つです。こういう風に、問題や課題の本質を組織として共有し、それを解決することにより、生産性を向上させるためのより効果的な問題解決方法を考えた上で、それを具体化しています。そして、具体化の方法を改善することによって、どんどん成果を大きくしているわけです。
重要なことはこういうやり方ができると、生産性を向上させると同時に、商品自体の創造性を高めている点です。今、多くの企業が課題として取り組んでいる、生産性の向上は創造性を向上する、すなわちイノベーションを実施する以外の方法では解消しません。
このようにして、コンセプチュアルな活動ができる組織を創ることによって、創造性と生産性を同時に高めることを実現することができます。
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2.1 質問型の組織を創る
2.2 コンセプチュアルな組織活動のプラニング
2.3 ステークホルダーへのコンセプチュアルな対応
2.4 コンセプチュアルな人材育成
2.5 コンセプチュアルな組織文化の構築
3.コンセプチュアルなマネジメントの目標
4.コンセプチュアルマネジメントでコンセプチュアルな組織を創る仕組みワークショップ
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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