第38話:コンセプト力を高める(2017.11.10)
プロジェクトで成果物が思ったようにできない一つの理由として、コンセプトとモノ(成果物)がうまく結びつかないという現象があります。これはコンセプチュアルスキルの問題です。
世の中をみていると、コンセプトを考えるのは熱心だけどコンセプトの実現方法にはあまり関心を持たない人と、モノを考えることには熱心だけどそのコンセプトにはあまり関心を持たない人がいます。コンセプチュアルスキルの高い人は常に両方の視点から考え、結び付けていく人だといえます。
◆コンセプトの定義
今回はこの問題を考えてみたいと思います。まず、コンセプトの定義をしておきたいと思います。
コンセプトという言葉を聞いたことがないという人は少ないと思いますが、「コンセプトって何ですか」と聞かれて、すらすらと答えられる人はそんなに多くないのではないでしょうか。
コンセプトは日本語では「概念」と訳されますが、概念という言葉も説明が難しく、これがコンセプトという言葉の意味がよくわからない一因になっているように思います。ちなみに、大辞林では「概念」は
1 物事の概括的な意味内容
2 《 concept 》形式論理学で、事物の本質をとらえる思考の形式。
個々に共通な特徴が抽象によって抽出され、それ以外の性質は捨象されて構成される
と説明されています。もう少しかみ砕くと
全体の元となる基本的な考え方
といえます。
これがコンセプトだと考えることができますが、ただ、日本語でコンセプトという場合、主語が明確である必要があるように思います。そこで、PMstyleではコンセプトを
自分が実現したいこと全体の元となる基本的な考え方
と定義しています。そして、コンセプトは
・既成概念を壊す
・新しい視点で価値観を作る
・全体を貫く骨格となる考え方とする
・活動のすべての指針とする
といった条件を満たしているものだと考えています。
◆なぜ、コンセプトが重要なのか
最近ではまずコンセプトから考える人は増えてきたように思いますが、それでもやはり少数派です。ちょっと余談になりますが、モノを考えることには熱心だけどそのコンセプトにはあまり関心を持たない人がなぜ、コンセプトを考えないのかを考えてみたいと思います。
日本はずっとモノづくりに力を入れてきました。そこでは現場・現物重視で、神は細部に宿るではないですが、良い仕事は細かいところをきちんと仕上げており、こだわった現物こそが成果の本質を決定すると考えている節があります。
ところが、時代が進むにつれて、見えない成果が求められるようになってきました。例えば、複数のモノを組み合わせたシステムではモノの間の関係性に本質がある場合が多くなりますが、そこは見えないことがほとんどです。ソフトウエアもその一種です。
日本企業はシステムやソフトウエアが弱いと言われますが、その大きな原因はコンセプトを考えないこと、ひいてはコンセプト力が弱いことにあることは明らかでしょう。
◆コンセプト力とは
さて、ではコンセプト力とは何でしょうか?PMstyleでは次のような定義をしています。
コンセプト力とは、プロジェクト(業務)で生み出す製品・サービス、あるいはビジネスモデルのコンセプトを立案し、ステークホルダーを巻き込んでいくスキル
このコンセプト力の定義のコンセプトのところに上でご紹介したコンセプトの定義を入れると
コンセプト力とは、プロジェクト(業務)で生み出す製品・サービス、あるいはビジネスモデルに対して、自分が実現したいこと全体の元となる基本的な考え方を立案し、ステークホルダーを巻き込んでいくスキル
となります。もう少しシンプルに言えば、
自分がしたいことの全体の本質を考え、ステークホルダを巻き込んで実現していくこと
だといえます。
◆コンセプト力のポイントは筋の良い「本質」を見つけること
この説明からわかりますように、コンセプト力は、ロバート・カッツの言うところの3つのスキル
・テクニカルスキル
・ヒューマンスキル
・コンセプチュアルスキル
の集大成ですが、もっともポイントになるのはコンセプチュアルスキルで、特に本質を見つけるスキルです。筋のよい本質を見極めることができればよいコンセプトができます。
つまり、コンセプト力は
(1)やりたいことが明確である
やりたいことが反映されているコンセプトである
(2)実現性があること
コンセプトが具体概念になっている
(3)プロセスがイメージできること
コンセプトを構成する具体概念の要素の組み合わによる新価値創造のプロセスがイメージできる
(4)全体性があること
何をやりたいか、一目瞭然である
といった条件を満たすコンセプトを創り、展開できることですが、これらはいずれも本質をうまくとらえることによって実現されるものです。
【参考文献】
好川 哲人「コンセプチュアル思考」、 日本経済新聞出版社(2017)
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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