第35話:コンセプチュアル思考による意味のイノベーション(2017.05.10)
◆デザインの次に来るもの
先日、「デザインの次に来るもの」(クロスメディアパブリッシング)という本を読みました。
著者は安西 洋之さんと八重樫 文さんで、安西 洋之さんはモバイルクルーズという会社を経営されており、ミラノと東京を拠点としたビジネスプランナーとして多くのデザインプロジェクトに参画されています。八重樫
文さんは立命館大学デザイン科学研究センター長で、デザインやデザインマネジメントが専門の方です。
この本が非常に興味深いのは、デザインのレベルを
1.デザインを全く取り入れていない
2.デザインをスタイリングとして扱っている
3.デザインをプロセスの中に取り入れている
4.デザインを戦略として位置付けている
の4つのレベルに分けたときに、4.の手法としてはデザイン思考が知られていますが、それだけではなく、特にEUを中心に
・デザイン思考
・ユーザー中心デザイン
・デザイン・ドリブン・イノベーション
の3つのアプローチを重視しており、デザイン・ドリブン・イノベーションで狙っているのが「意味のイノベーション」だという指摘です。
◆意味のイノベーション
「意味のイノベーション」は新しい概念です。
本書でこの説明に使われている例が「ロウソク」です。ロウソクは今でも多く売れ、使われていますが、登場した当時とは使われ方が変わっています。
電気のない時代にはロウソクは明かりを取るために使われていました。しかし、やがて電気が普及してくるとその目的では必要なくなりました。ところが、ロウソクは食事の時に雰囲気を楽しんだり、ほかにもいろいろな目的で使われています。
つまり、ロウソクには新しい「意味」が与えられたわけです。4.の意味合いでデザインを位置付ける場合にはこのような意味の生成をイノベーションの基本戦略とすべきだということで、これ以外にも「走ること」、「寿司」とか、「スォッチ」などの例を挙げています。
こういう考えがでてきた背景には、中小企業がイノベーションを起こすことへの期待があります。技術によるイノベーションは大きな企業にしかできません。また中小企業がうまくできても、持続的に実現することは難しいものがあります。しかし、意味のイノベーションであれば中小企業にも可能だし、むしろ中小企業の方が優位だということで、こういった発想が出てきたようです。
もう少し具体的なことを知りたい人は本を読んで頂くとして、今回のコンセプチュアルスタイル考で考えたいのは、新しい意味を考えるための方法についてです。
◆深い意味での「なぜ」を考える
例えば、走ることに新しい意味を与えることを考えてみましょう。100年前であれば走ることは急ぐことがその目的でした。しかし、今は急いで移動するために走ることは少なくなり、ジョギングなどで楽しんだり、健康を維持するためだということがほとんどです。このように意味が変わって、イノベーションが生まれているわけです。
このときに考えていることは、深い意味での「なぜ」です。なぜ走るのかを考えて、別の意味を見つけているわけです。ロウソクでも同じです。なぜロウソクを使うのかを深く考えているうちに、例えばレストランで食卓において雰囲気を出すのに使おうといったアイデアが出てくるわけです。
◆本質的な意味を見つける
このプロセスは、コンセプチュアル思考のプロセスに他なりません。走ることであれば、
なぜ、走るのか → 急いで移動したいから
↓ 走るとどうなるか → 早く移動できる
→目標を達成し、達成感を得る
→清々しい気分になる
なぜ、走るのか → 清々しい気分になるため
という思考展開ができるわけです。これは、走ることの本質が、時代の流れとともに、「急ぐ」ことから、より深く考えた「清々しい気分になること」に変わっているからだと考えることができます。
つまり、新しい意味を考えることは、本質を考えることであり、意味のイノベーションを起こすとは、今より先の時代の本質を提案することであるといえます。
ロウソクの例も同じです。もともと明るさを得るために使っていたが、いらなくなったら、別のなぜを考えたわけです。つまり
なぜ、ロウソクを使うのか → 明るくしたから
↓ ロウソクを使うとどうなるか → 明るくなる
→照らすことによって雰囲気が変わる
なぜ、ロウソクを使うのか → 雰囲気がよくしたいから
となっています。
◆本質的な意味を具体的に展開し、イノベーションを起こす
このようにコンセプチュアル思考で、WHYによる掘り下げの道筋を変えることにより、新しい本質を探し出し、それを具体的に展開し、新しい製品やサービスを作り出すことによってイノベーションを実現することができます。
このやり方は技術を組み合わせてイノベーションを起こしたい場合にも使うことができます。技術の本質的な意味を考え、その意味を実現するための技術の使い方を考えればよいわけですが、詳細はまた、別の機会にお話ししたいと思います。
◆参考資料
安西 洋之、八重樫 文「デザインの次に来るもの」、クロスメディアパブリッシング(2017)
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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