第7話:コンセプチュアルスキルに対する本質的な誤解(2014.07.07)
◆はじめに
9ヶ月ぶりのコンセプチュアルスタイル考になります。
この間、コンセプチュアルスキル関係の取り組みにいろいろな進展がありました。中でも特筆すべきはそろそろ、スキームとして固まってきたので、スキル診断プログラムを作ったことです。
この診断プログラムはすでに紹介していますので、実施してみて戴いた方もいらっしゃるかと思いますが、結果を軸と行動で示すようになっています。
まだの方はぜひ、やってみてください。こちらからできます。
コンセプチュアルスキル診断
診断が終わると以下のように5つの軸による評価と行動に対する評価が10点満点で出てきます。こんな感じです。
軸による評価 点数(10点満点)
抽象的/具象的 のバランス 6
主観的/客観的 のバランス 6
直観的/論理的 のバランス 6
大局的/分析的 のバランス 6
長期的/短期的 のバランス 6
行動に対する評価 点数(10点満点)
構想 6
計画 6
問題解決 6
意思決定 6
対人 6
行動の方はこれまでのスキル考の中でどういうことか説明してきましたのでだいたい分かると思いますが、軸の方は少し説明が必要だと思います。それでコンセプチュアルスタイル考を書くことにしました。
その説明を書き出してこれまでの活動を通じてその前に書いておきたいと思ったことがあって、今回はそちらを書くことにしました。それは、そもそも、コンセプチュアルスキルという概念が誤解されているのではないかということです。
◆コンセプチュアルスキルは抽象的な思考でも主観的な思考でもない
第1話で「抽象的で何が悪い」的なことを書いているのですが、今読むと、本意が十分に書けていません。そこで、この問題を改めて書きたいと思います。
まず、上の診断結果を見てください。抽象的の方の側(われわれはコンセプチュアルな世界と呼んでいます)を見てもらうと
抽象的
主観的
直観的
大局的
長期的
という単語が並んでいます。
抽象的以外にも主観的というのはビジネスマン(特に理系)の思考態度としてはよくないとされます。直観的というのは微妙ですね。必要だと考える人も少なくありません。
大局的、長期的というのは、好ましい態度だとされることが多いと思います。ただし、これらに対して、足元を見ろとか、目の前を見ろと揶揄されることもあり、100%好ましいわけではありません。
ということで、コンセプチュアルスキルはうさん臭い、現実的ではないと思っている人が少なからずいます。最初にお話をしたいと思ったのはこの点が誤解だということです。
◆抽象化だけではだめ
たとえば、抽象的ではだめだという理由は抽象的なままでは行動できないからです。時として行動したくないときにはわざと抽象的に表現するということをやることもあります。たとえば、意思決定を速くしようと決めたとします。極めて抽象的な表現で、これだけ決めたところで何の行動もできません。たとえば、あなたがマネジャーだったとして、
部下から上がってきた商品のクレーム対応方法の稟議を必ず1日以内に検討する
という風に決めて初めて行動に移せるわけです。
ところがこれをルール化したのでは、たとえば、調達の稟議はこの中に含まれません。だからある程度抽象化が必要なわけですが、ここで問題はレベル感です。たとえば、
(1)意思決定を速くする
(2)商品クレーム対応の意思決定を速くする
という2つのレベルを考えたとします。どちらが適切でしょうか?実はここにコンセプチュアルスキルの問題が絡んできます。コンセプチュアルスキルが高い人なら(1)が適切で、普通なら(2)です。コンセプチュアルスキルが低いなら具体的な決め事をしていくしかありません(こういう人はマネジャーになってはいけません)。
次回詳しく述べますがコンセプチュアルスキルは概念化能力と呼ばれて、抽象化を例にとれば、抽象化の能力だと思われがちです。しかし、この例から分かるように抽象化の能力ではなく、具体化の能力でもあります。つまり、(1)を具体的な業務の中に応用していくのもコンセプチュアルスキルなのです。
◆抽象と具体の「行き来」
最近、
考えることとは抽象と具体を行き来することだ
といったことをいう人が増えてきましたが、要するにそういうことです。もう少し、具体的にいえば、たとえば
案件Aで稟議書の決済が遅れて、顧客Aのクレーム対応が遅れ、Aから取引停止を言ってきた
という具体的な問題があったとします。この問題の本質が何かという議論がありますが、それは次回に回すとして、とりあえず、稟議のスピードが本質だと考えて、
稟議のスピードが遅い
ことが問題だとして定義します。そして、稟議のスピードを上げるために顧客クレームについては3時間以内という時間制限を設けることにしました。
そこで、他に検討すべきことはないかと考えます。すると、先日、要員派遣の依頼の稟議の遅れで作業遅れるという問題があったことを思い出しました。これは具体的な問題です。そこで抽象化して、
調達の稟議の遅れ
という問題があると考えます。ここで要員の調達について、別のプロジェクトでは決裁者がしがらみで決めたくないので、ほったらかしにしていることがあったのを思い出しました。そこで、問題は稟議書ではなく、意思決定そのものだと思い当たりました。
こういう風に具体的なこと、抽象的なことを行き来しながら考えていくのがコンセプチュアルスキルです。抽象化すること、抽象的に考えることがコンセプチュアルスキルではありません。
◆「行き来」がコンセプチュアルスキルだ
これとまったく同じように、
・主観的に考えたものを客観的に考え直してみて、
さらにその結論を主観的に考えてみる
・直感的に判断したことを論理的に見直してみて、
その結論をもう一度直感的に判断する
とかすることがコンセプチュアルスキルなのです。同じように、大局と分析の行き来、長期と短期の行き来をすることもコンセプチュアルスキルです。
このためコンセプチュアルスキルとしては「軸」という考え方を入れているわけです。
もう一度繰り返しますが、軸の左側だけがコンセプチュアルスキルではありません。「行き来」することがコンセプチュアルスキルです。そして、コンセプチュアルスキルが高いとは、行き来が高速に行われ、それぞれの観点からバランスのよい結論を出せることを意味しています。
では、なぜ上の5つなのか。それについては、次回説明したいと思います。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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