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コンセプチュアルなプロジェクトマネジメントでは、企画段階からステークホルダーマネジメントが必要であり、ステークホルダーを活用することがステークホルダーマネジメントの目的である

第28回 コンセプチュアルなステークホルダーマネジメント(2018.12.07)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事

第27回 マネジメントを行うための計画を作成する

(第27回から続く)

◆コンセプチュアルなステークホルダーマネジメントの目的

前回まで、プロジェクトのコンセプトを作り、目的や要求に落として、それらを実現する計画を作るという話をしてきました。そして、次に作った計画を実行するわけですが、この一連の過程を通じて、非常に重要なマネジメントがあります。ステークホルダーマネジメントです。

ステークホルダーマネジメントは、PMBOK(R)の第5版から新しい知識エリアとして独立した扱いがされるようになってきました。PMBOK(R)で新しい知識エリアが追加されたのは創設以来初めでですので、ステークホルダーマネジメントがどれだけ大きな変化をしているかお分かりいただけると思います。

今回はコンセプチュアルなプロジェクトマネジメントにおけるステークホルダーマネジメントについて、考えてみたいと思います。

上に述べましたように、ステークホルダーマネジメントはプロジェクトの企画段階から必要です。計画重視型のプロジェクトマネジメントにおいて、ステークホルダーマネジメントでは、いかにステークホルダーの好ましくない影響を減らすか、平たく言えばステークホルダーに計画実行の足を引っ張られないマネジメントをするイメージがあります。これに対してコンセプチュアルなプロジェクトマネジメントでは逆に、ステークホルダーを活用することがステークホルダーマネジメントの目的です。


◆ステークホルダーを洗い出す

前回の計画を作った会議の続きです。

<ストーリー1>

ベースライン計画ができたところで、ステークホルダーの話題になった。

「ところで、これまでも何度か議論にはなりましたが、ベースライン計画を実行していくのに、関係者の調整をどうやっていくかを決めておいた方がよいですね」

とITコンサルタントの徳田が切り出した。

「これまでも、社長や営業マネジャーの前田さんとも話をし、要望をコンセプトや本質要求にも反映してきましたが、その他にもコンセプト実現の計画のためには手を打っておいた人がいそうですね。たとえば、運用責任者を予定している管理部門の田中部長ともう少し具体的に話を詰めるとか、製造の方にも話を通しておきたいですね。あまりいい顔をしないでしょうし。ベンダーのS社とも話をしないとならないでしょうし。」

と受けるリーダーの藤田。

「では、プロジェクトを混乱・停滞させる敵を見極め、誰とどのような話をしておくかを検討しましょう」

これに対して徳田は

「もちろん、管理部門の田中部長や製造部門の吉田部長は、内心、あまり面白くないかもしれませんのでプロジェクトの敵ということになるのかもしれませんが、敵とか味方ではなく広い意味でプロジェクトのメンバーとして動いてもらえるようにしたいですね。それから、これから営業の芦田さんを中心としてチームを作る予定ですが、そのキックオフの前に、チームとしてどのように活動するかを議論しておきたいですね。」

と返した。そして

「まず、私たちが使っているチェックリストを使って、ステークホルダーを洗い出してみませんか」

と言い、フォーマットを差し出した。藤田や芦田は、下図のフォーマットに従い、以下のように書きだした。

◎ステークホルダーマトリクス
┌──────────────────────┬────────────┐
│着眼点                   │名前          │
├──────────────────────┼────────────┤
│プロジェクトの資金承認者          │社長          │
├──────────────────────┼────────────┤
│プロジェクト要求の承認者          │営業部門マネジャー前田 │
├──────────────────────┼────────────┤
│プロジェクト成果の利用者          │顧客          │
├──────────────────────┼────────────┤
│プロジェクトの背景になる組織目標の設定者  │社長          │
├──────────────────────┼────────────┤
│プロジェクトへの要員の配置、稼働の決定者  │営業部門マネジャー前田 │
├──────────────────────┼────────────┤
│上位管理者やエグゼクティブスポンサー    │営業部門マネジャー前田 │
├──────────────────────┼────────────┤
│プロジェクトをマネジメントする予定の人   │芦田          │
├──────────────────────┼────────────┤
│プロジェクトによって、自身の業務が変わる人 │吉田部長        │
├──────────────────────┼────────────┤
│プロジェクトによって、システムやプロセスが変│田中部長        │
│わる人                   │            │
└──────────────────────┴────────────┘

<ストーリー1 終わり>


プロジェクトでステークホルダーと呼ばれるのは、上位組織、顧客、プロジェクトチームなどですが、まずはどのようなカテゴリーのステークホルダーがいるか、それぞれのカテゴリーに対してどのような期待をし、その期待を引き出すためにどのように働きかけていくかを明確にし、それぞれの局面で働きかけを実施していく必要があります。

まず、行うのはステークホルダーの特定です。これは通常、上図のように、プロジェクトに一般的に必要になる役割ごとにチェックリストでステークホルダーを洗い出します。その上で、ステークホルダーの特定を行い、プロジェクトに対してどのような姿勢のステークホルダーかを特定していきます。

ここで重要なことはプロジェクトの作業をするプロジェクトチームと上位組織や顧客を同じように扱うことです。よく見かけるように、ステークホルダーを敵と味方に分け、チームは味方だけど、それ以外は敵だと考えて対応するのはあまり良い結果を生みません。

ステークホルダーを敵と味方に分けてしまいたくなる理由は、背景にプロジェクトの価値や成果物の価値に対する評価の違いがあるからですが、逆にいえばコンセプトが十分に理解されていない、あるいは共感されていないことに問題があると考えられます。

そして、その本質的な問題はコミュニケーションの問題にあるように思います。つまり、コミュニケーションが適切にできていないため、お互いの表面的な理解から対立が発生することにあります。そこでコンセプチュアルに捉え、そのような関係を乗り越えて、お互いに同じ目的を持ってプロジェクトに臨んでいることを実感する必要があります。

そのためには、コンセプトに対して共感を得るコミュニケーションを欠かすことができません。コンセプトに共感を得るためには、まず、ステークホルダーにコンセプトを正しく理解してもらい、共有するところから始める必要があります。
そのためには、ステークホルダーを巻き込んで、

・コンセプトに対する大局的な理解と分析的な理解の往復
・コンセプトに対する抽象的な理解と具体的な例の想像の往復
・コンセプトに対する客観的な理解と主観的な考えの往復

といったコンセプチュアルな思考を繰り返し行うと効果的です。

(続く)


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   6.トラブルの本質を見極め、対応する
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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