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コンセプチュアルなプロジェクトマネジメントは、プロジェクトのコンセプトから始まる視点を目的・目標、要求、計画と変えていく

第25回 コンセプトに整合する計画を策定する(2018.10.16)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事

第24回 顧客の声には本質要求がないことが多い

(第24回から続く)

◆コンセプトに整合する計画を策定する

本号から、本質目標と本質要求を実現するための計画を作る流れについて、説明します。コンセプチュアルなプロジェクトマネジメントの特徴は、プロジェクトのコンセプトから始まる視点を目的・目標、要求、計画と変えていくことだということを改めて認識した上で読んでいただければと思います。

<ストーリー1>

前回までにプロジェクトではコンセプトから本質目標と本質要求を決めるところまで述べた。以下の通りである。

<コンセプト>
・口コミによって販売を促進できる仕組みをネットユーザー全員に提供する
・我々の商品の利用者が、利用したことがない人に商品の良さを伝える仕組みを提供する

<目的>
・利用者が商品の良さを伝え、購入を促し、それを聞いた人が利用し、また別の人に推奨する好循環を起こす

<本質目標>
・帆布製品の口コミSNSを実現する
・帆布製品のネット販売の仕組みを作る

<本質要求>
・特徴が伝わるシーンに絞って写真で紹介する

これらの結果に基づき、プロジェクト憲章も完成し、プロジェクトの立上げも承認され、いよいよプロジェクトの計画を作ることになった。例によって、プロジェクトリーダーの藤田、中心メンバーの芦田、ITコンサルタントの徳田の3名が会議をしている。

藤田が早速切り出す。
「とりあえず、スケジュールとコストのガントチャートを作ってきたので、見てもらえませんか」。
芦田と徳田はPCを開いて眺めている。しばらくすると徳田が質問した。
「この計画はプロジェクトのどのような計画ですか」。
えっという感じで藤田は、
「プロジェクトのスケジュールとプロジェクトの予算ですが」と答えた。

「すると、組織の承認はこの計画に対して行われるのですか」
と徳田。
「はい、もちろん、これにリスク計画や変更管理計画はつける必要がありますが」
と藤田。
「なるほど、ガントチャートの粗さは、粗いところだと1ヶ月、細かなところは2〜3日になっていますが、これはまだはっきりしないところは大さっぱにしているってことですか」
と聞く徳田。うなずく藤田。それを聞いた徳田は
「少し計画を体系的に考えませんか」
と言い、続けた。

「計画にはまず、組織で承認すべき計画としなくてもよい計画があります。前者をベースライン計画といいますが、通常はスコープを基準にして、計画します。スコープは、見せてもらったようなガントチャートに含まれるWBSで計画しますが、その最小単位であるワークパッケージ単位でスケジュールを決めたり、コストを決めたりします。そして、それより小さな計画はプロジェクトに任せます。この中には、実際に初期計画時点では決められないものも入っています。逆にいえばワークパッケージの単位までは計画を決め、組織の承認を取り、その後、プロジェクトの責任で詳細化していくということになります。ここまでよろしいですか?」

藤田はなるほどという顔で、
「分かりました、ところでワークパッケージはどのくらいの大きさにすればいいのですか」
と尋ねた。徳田は

「ワークパッケージをどのくらいの作業量に取るかは一概には言えませんが、想定している要員で2週間くらいに取るのが権限委譲の観点からは一般的です。」

と答えた。藤田は自分の作ったWBSにワークパッケージのサイズにばらつきがあることに気づき、修正した。

修正後は、本質目標を考慮しながら、本質要求から落とし込んだ要件として

・特徴が伝わるシーンに絞って写真で紹介する口コミSNSを構築する
・帆布製品のネット販売の仕組み
・SNSから帆布製品のネット販売の仕組みに誘導する

を満たすようなシステムの実現を計画したWBSになっている。これ以外のワークパッケージもあるが、優先順位の高いワークパッケージのみを示している。

芦田も了解した。そこで、タイムベースラインとコストベースラインの策定に入った。特に芦田からさまざまな意見が出てきたが、結局、無事に完成した。。

<ストーリー1 終わり>


コンセプトに整合するプロジェクトやマネジメントの計画を作るために、まずは本質目標と本質要求を考慮しながらベースライン計画を作ります。これは、プロジェクトのコンセプトの本質であるプロジェクト目標とプロジェクト要件を実現するための計画になります。さらに、後で説明しますように、ベースライン計画を実行するためのアプローチを設計します。

ベースライン計画は上位組織が承認する計画ですが、ここで問題になるのはその粒度です。たとえば、スケジュールであれば、マイルストーン、大工程、中工程のようなスケジュールの粒度がありますが、ベースライン計画として組織が承認する計画は大行程までであることが多いようですが、ひょっとするとマイルストーンだけで十分かもしれませんし、ひょっとすると中工程まで対象にした方がよいかもしれません。

コンセプチュアルなプロジェクトマネジメントの一つのポイントはベースライン計画を目標達成や要件実現、コンセプト実現のために適切な粒度で作成することです。

ベースライン計画として決めるべきものは、一般には、スコープベースライン、タイムベースライン、コストベースライン、リソースベースライン、品質ベースラインの5つです。

スコープベースラインは5W2Hでいえばwhatで、Whyである本質要求、あるいは要件から目標達成ができるようにプロジェクトで実現したいスコープを決めます。それ以外のベースラインはWhen、Who、How muchなどになります。

スコープベースライン計画の具体的な方法としてはストーリーのようにWBS(Work Breakdown Structure)を使いますが、これがすべての計画のベースになります。WBSを使うなら、スケジュールもコストもリソースも、WBSの最小単位であるワークパッケージに対して決めていくことになります。

このようにタイムベースライン、コストベースライン、リソースベースラインを決めていきますが、品質ベースラインは例えば品質プロセスに対して決めるなど、スコープ以外に対して決める場合がありますので、注意してください。

ベースライン計画は、最終的には以下のように実施計画に展開します。

・タイムベースライン  → スケジュール
・コストベースライン  → 予算表
・リソースベースライン → 要員計画
・品質ベースライン   → テスト計画

これらの実施計画は基本的にはベースライン計画を詳細化したものになりますが、別の形に展開することもあります。たとえば、タイムベースラインをアジャイルのようにイテレーションに展開し、実施することもあり得ます。


(続く)


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   4.本質的な目標を優先する計画
   5.プロジェクトマネジメント計画を活用した柔軟なプロジェクト運営
   6.トラブルの本質を見極め、対応する
   7.経験を活かしてプロジェクトを成功させる
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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