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ユーザは自分の欲しいものを知らない場合も多く、顧客の声を概念化し、顕在化していない本質要求を探す

第24回 顧客の声には本質要求がないことが多い(2018.10.02)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事

第22回 プロジェク目的・目標とビジネス要求
第23回 本質要求を探す

(第23回から続く)

◆顧客の声には本質要求がないことが多い

<ストーリー3>

藤田は続けた。

「これまでの商品では、特徴は帆布であることとシンプルであることが特徴だと言っていますし、また、お客さまもそのようなイメージを持っていると思います。写真だけでもいいと思うのですが、どうでしょう」

これに対して、徳田は

「帆布であることの実感が写真だけで伝わるのでしょうか」

と疑問を挟み、

「帆布であることをどのように利用したことのない人に伝えることができるかがポイントになると思います。」

と続けた。一同、難しい問題であることに気づき、沈黙が続いた。そこで、藤田は

「考えてもよいアイデアが浮かびません。うちの商品を使ったことのないお客様にどう紹介するかも含めて、これまでのお客様にこの企画の方向性の確認のためのアンケートをとりませんか」

と提案した。参加者全員が藤田の意見に賛成し、アンケートの手順の確認を始めた。

そして、2週間後、アンケートの結果を踏まえて、再び、ミーティングを設け、議論をした。

藤田からアンケート結果の紹介があった。その中で、「帆布であることをどのように利用したことのない人に伝えるか」という質問に関する答えは以下のようなものだった。

・しっかりしており、意外と型崩れしにくいなど、特徴を述べる
・使用感をできるだけ詳しく説明する
・他の素材との特徴を比較をする
・かなり使用した商品を、利用している光景を写真で紹介する
・ARを使って疑似体験をしてもらう
・・・

その上で、この中では、
「他の素材との比較をする」というのが良いのではないかと言った。これに対して、徳田は、
「なぜ、他の素材との比較をするのでしょうね」とつぶやいた。
「それは、帆布が他の素材と比較してよいことを伝えたいからではないでしょうか」と藤田。
「じゃあ、そのためには素材の比較をすることが本当に良いのでしょうか」と徳田。

「そうですね。バッグなら柔軟で自分が思ったようにものを入れたりできるのに、比較的、型崩れしないのが帆布だということだと思います。」

と藤田が答える。「つまり、帆布の利用特性を伝えたいので、他の素材と比較しているだと思います」

「帆布の利用特性を伝えるのに、素材の比較が最適な方法でしょうか」と徳田。

「う〜ん、そう考えるとまだ他にも方法があるように思いますね。たとえば、使い方をリストアップして、そのリストごとに他の素材との比較を示すとか、アンケートの結果にもありましたが、特徴に絞って実際に使っている方法を写真で紹介するだけでもいいのかもしれません。」と藤田。

「どれが最もよいと思いますか」と徳田。「趣味の問題かもしれませんが、写真の紹介がいいように思います。もう一つのキーワードであるシンプルというのにもフィットしますし」。

さて、現実の顧客の声というのは本質的な要求ではないことが多いわけですが、ではどのように要求の本質や本質要求を見つければよいのでしょうか。
一つの方法として、顧客の声を概念化することで見つかることがよくあります。

<ストーリー3終わり>

繰り返しになりますが、要求には本質的なものとそうではないものがありますが、注意しなくてはならないのは、顧客が言っていることが本質的な要求であるとは限らないことです。言い換えると、顧客が本当に望んでいることを言えるとは限らず、結果として実際自分が言っていることが実現されたのをみて、「こんなものを頼んだ覚えはない。変更してほしい」という反応をするケースは多く、仕様変更が起こる場合の中では半分以上がこのような本質からのずれによるものだと思われます。

スティーブ・ジョブズがiPhoneを開発したときに、ユーザは自分の欲しいものを知らないと言ったのは有名な話ですが、これも顕在化していない本質要求を指しているわけです。

例えば、顧客は「壁が汚れたので白く塗ってほしい」と言ったとします。この要求を聞いて、実際に白いペンキを塗って、「私がしてほしいのはそんなことではなかった」と言われる経験をされた方は少なくないのではないかと思います。顧客というのはそういうものだと考えている人も少なくないと思いますが、これは要求の本質をみていないわけです。

そこでなぜ、顧客は「壁が汚れたので白く塗ってほしい」と言ったかを考えてみます。すると、「壁の汚れを目立たなくする」ことだと思い至りました。ここに要求の本質があるわけで、そこでこの本質にそって具体的な要求を考えてみます。

・壁を汚れの目立ちにくい色で塗る
・定期的に掃除する

などがそうです。この中には、さらに壁を汚すということも考えられます。この中から、普遍性を考えて、本質要求を決めます。例えば、オフホワイトカラーを塗るというようなことです。

ストーリー3でもそのようになっていますが、顧客の声は必ずしも本質的な要求ではないことを意識しておくとよいでしょう。
また、本質要求をまとめる際には、次のステップで進めます。

STEP1:できるだけ多くの要求を集める
STEP2:要求を概念化し、本質を見極める
STEP3:概念化された要求を具体化する
STEP4:本質要求を決める


◆終わりに

今回はコンセプチュアルプロジェクトマネジメントにおいて要求とはどのようなもので、どのようにして要求を定義するかを説明しました。次号からは、コンセプトに整合するプロジェクトマネジメントの計画を策定として、要求を実現し、目標を達成するアプローチを決定し、そのアプローチを実現するプロジェクト計画を策定する方法を説明します。

(続く)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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