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第7回 第6の特徴〜状況に応じて仕事のやり方を変えたり,あるいは方向性を変える(13/08/16)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆仕事の本質

本質を見極めるという言葉がある。僕の尊敬するエンジニアの一人に、日産でGT−Rを開発した水野和敏さんという方がいる。彼が最近出した書籍

「非常識な本質──ヒト・モノ・カネ・時間がなくても最高の結果を創り出せる」
(フォレスト出版、2013)


の中で、こんなことを言っている。

ものごとの本質を見極めて仕事に取り組むことができると、「モノ・ヒト・カネ・時間」は半分ですむし、倍の結果を生むことができる

この本の中で、本質について説明するために、レースを事例に出している。ちなみに彼は、プリメイラなどの名車を開発し、エンジニアとして油の乗ってきた時期に、レースの監督を命じられる。もちろん、レースについては素人である。そこで彼は、レースの本質は何かと考える。レースというと、とにかく、大きいエンジンを積んだ、軽い車が必要だというのが常識だが、実際のサーキットを見ると、最高出力、最高速度で走っているところというのは全体の2〜3割に過ぎない。レースに勝とうと思えば、そのためにはエンジンの大きさが本質なのではなく、アクセルを戻して半分しか踏んでいない状態でいかにいかに速いクルマを作るかが本質だと気づく。そして、そのような戦略で勝ってしまう。

本質とは、仕事の目的があり、目的を実現するためにポイントになることである。第三の特徴で目的とコンセプトの話をしたが、この特徴と表裏一体なのが第6の特徴だといってもよいだろう。


◆なぜ、本質を見極められないのか

プロジェクトにおいて、目的を決めながら、本質を見極めていない状況が少なくない。このような状況が起こるのは、目的が不適切であったり、曖昧であったりするケースだ。

目的そのものが不適切なケースの典型は、目的をプロダクトを作ることだと考えてしまうケースである。もちろん、いかなる場合もそれが不適切だとは言わないが、製品そのものは手段であることが多いのは、特徴3でも述べたとおりだ。

例として、電子書籍開発プロジェクトを考えてみよう。電子書籍化をすることを目的にする。すると、考えるのは紙の書籍を代替することで、電子書籍と紙の書籍を比較して、あれもこれも本質であるということになる。

このケースは極めて多い。システムを作るのに、○○システムの開発を目的にする。すると、必要な機能は顧客が要求しているものとしかならない。すると、本質から考えるととんでもないオーバースペックになることが多い。

このように目的があいまいであったり、不適切であったりすると、本質が絞り込めないままにプロジェクトを進めてことになる。


◆目的を軽視する

もう一つは、本質となることに気づいているにも関わらず、それをプロジェクトに取れ入れないケースがある。レースの例でいえば、レーシングコースの特徴に気がついていながら、ひたすら、大きなエンジンを使おうとするようなものだ。

プロジェクトでいえば、このプロジェクトの目的を実現するには何がポイントになるかを考えているのだが、目標としてそのポイントを設定しないケースである。そんな馬鹿なと思う人もいると思うが、意外とこれがあるのだ。

たとえば、製品開発で目的は業界で支配的な立場に立つことだとしよう。そのためには、シェアをとらなくてはならないので、それを目標とする。ところが、このプロジェクトの本質はシェアをアップすることではない。シェアをアップする方法(仮説)を見つけて、それを実現することが本質であり、目標とすべきことだ。それは、性能かもしれないし、デザインかもしれないし、販売方法かもしれない。いずれにしてもそこに目的実現の本質があるわけだ。

実際にこのように本質を考えずに目標設定をしているケースは非常に多い。


◆経験が邪魔をする

なぜ、このような過ちを犯すのかと考えてみたときに、犯人として浮かび上がってくるのは経験である。目的を実現するための本質を考えようとするわけだが、どうしても経験に思いがいき、これまでと同じように考えてしまう。

センスのいいプロジェクトマネジャーは、ここが違う。経験は経験で尊重する。しかし、経験を概念化しているために、経験が通用する状況かどうかを適切に見極め、経験が通用しないと判断したら、経験に拘らず、本質の追及にこだわる。

本質自体も概念的なものであることが多い。そこで、概念的なレベルで本質を踏まえてどのようなアプローチをするかを決め、計画として具体化していく。これがセンスのよいプロジェクトマネジャーの行動である。

◆これまでの連載

第1回 センスとは何か

第2回 第1の特徴 ステークホルダの期待を把握するのがうまい

第3回 第2の特徴 自分の行動を他人の視点から振り返り、修正する

第4回 第3の特徴 目的を明確に決め、目的にあったプロジェクトのコンセプトを考える

第5回 第4の特徴〜ポジティブである

第6回 第5の特徴〜バランス感覚がよい

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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