◆空気を読んで行動する
日本人はよくものごとを決めないと言われる。だが、この説は怪しいところがある。
私生活であれ、仕事であれ、何かをするのは意思決定の連続であり、意思決定から逃げることはできない。なぜ、そう言われるのか?
池田信夫さんが、「空気の構造」という日本人論の中で、日本人を
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タコツボ的な自律性が強く、人々がかわりの「空気」を読んで行動するため、責任の所在があいまいで中枢機構が弱い。部下が上司の足を引っ張る「下剋上」の風潮が強いため、長期的な戦略が立てられない。
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池田 信夫「「空気」の構造: 日本人はなぜ決められないのか」、白水社 (2013)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4560082820/opc-22/ref=nosim
と評している。いい本だと思うので、ぜひ読んでみてほしい。
池田さんの本を読むと問題の本質は意思決定ではなく、責任にあることが分かる。責任の所在をあいまいになるような意思決定の方法をとっているといってもよい。
空気を読んで責任があいまいになるような意思決定をしている。このような意思決定をしていると当然ながら意思決定はぶれる。それが生産性の低さにつながっている。
最近では、このような意思決定がいじめなどの問題を生み出しているという指摘もある。
◆バランスという言葉に持つイメージ
このような実態があるので、日本人はバランスという言葉を聞くと、空気を読んで決めるということをイメージする人が多いかもしれない。
たとえば、ある製品開発プロジェクト(投資)を承認するかどうかで意見が割れているとする。このような場合に、みんなが票読みをして、おおよそ、どのあたりに落ち着きそうかを考えて、自分の態度を決める。いわゆる予定調和である。
このように決めておけば、表面的には意見の対立はなく和は保たれるし、失敗したときに、自分の責任が明確になることはない。
確かに、これもバランスの一種かもしれないが、センスのいいプロジェクトマネジャーが考えるバランスは違う。
そこに行く前に、もう一つインプットとして、51:49をどう考えるかに触れておきたい。日本人は51:49のような微妙な意思決定をする場合には、先送りする傾向がある。決めないことが一番納得性が高いからだ。
しかし、これは正しい態度ではない。先送りしても決めなくてはならないときがくる。たとえば、製品Aと製品Bのどちらを開発するか迷い、とりあえず共通的に使える部分の開発を行っているが、いずれは製品Aと製品Bのいずれかを選択しなければならない。そのときにまず、A、次にBとか、AとBの機能を併せたものと言った発想をし、売れない製品を作っている現実がある。
◆目的に対する貢献でバランスを取る
事業やプロジェクトにおける意思決定のバランスとは、目的に対する貢献である。バランスがいい意思決定は貢献度の大きな選択肢を選ぶ意思決定である。
なぜ目的が重要かと言うと、誰もを納得させることのできる唯一の拠り所が目的だからである。大きなところでは上で触れたプロジェクトそのものの実施の意思決定がある。この場合は目的は、事業の目的(戦略)になり、プロジェクトがどれだけ事業目的に貢献するかで評価する。
たとえば、AというプロジェクトとBというプロジェクトがあって一方しか投資できないとすれば、どちらが戦略に貢献できるかで決める。これがバランスである。
もう一つ、例を挙げておこう。ITのプロジェクトで顧客からの追加要求があった。このプロジェクトの目的は、収益確保と、顧客との関係強化だったとする。ここで、この顧客との関係の価値と収益確保のどちらが重要かと考えるとバランスは取れない。定量化して評価しても誰も納得しないからだ。なので、上のような空気を読む必要が生じる。
◆統合するという選択
こういう相反する選択をしなくてはならない場合のバランスとは、違う次元で考える必要がある。つまり、収益か、顧客満足ではなく、収益を上げ、顧客満足を高めるという方策を考える必要がある。
たとえば、顧客の追加要求の目的を明確にし、その目的を実現しつつ、工数を増やさない仕様というのを考える。そのためには、これまで設計や開発が終わったところは活かすとして、残りはゼロベースで機能を設計しなおし、機能ベースで顧客の目的に近づけていく方法を考えると言った方法が考えられる。これが統合だ。
このように選択を迫られたときに、その選択の枠の中で考えないというのが、センスのよいプロジェクトマネジャーの行なっていることである。意志決定においてセンスのよいプロジェクトマネジャーは例外なく、統合が上手である。
◆これまでの連載
第1回 センスとは何か
第2回 第1の特徴 ステークホルダの期待を把握するのがうまい
第3回 第2の特徴 自分の行動を他人の視点から振り返り、修正する
第4回 第3の特徴 目的を明確に決め、目的にあったプロジェクトのコンセプトを考える
第5回 第4の特徴〜ポジティブである
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詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/conceptual_skill.htm
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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