前回、考え抜くという話をした。では、考え抜くためには、どのような力が必要なのだろうか?今回のキーワードは弁証法である。
◆弁証法とは
弁証法は、古代ギリシアの哲学に登場してきたもので、他人との対話の技術、または事物の対立を意味していた。弁証法にもいろいろな流儀があるが、有名なのはヘーゲルの弁証法である。これは、テーゼ(正)、アンチテーゼ(反)、および、それらを本質的に統合したジンテーゼ(合)の3つで思考を深めていく思考方法である。
平たくいえば、誰かの意見(テーゼ)に対してもう一人がその反対意見(アンチテーゼ)を語り、それぞれの意見に基づく対話を通じて、二つの意見を統合したより深い意見(ジンテーゼ)にまとめ上げていくのが弁証法であるといってもよい。
弁証法はディベートやディスカッションとは本質的に異なるものであり、コミュニケーションの手段というよりは、思考方法である。実際に弁証法を真理の探究に使ったことで有名なのはソクラテスであり、ソクラテスの対話を通じた思考法は問答法とも呼ばれている。
◆弁証法を使って問題に立ち向かう
たとえば、前回の例を思い出してほしい。プロジェクトの方針は
「このプロジェクトでは、品質をもっとも重視する」
である。このプロジェクトであるメンバーの担当でスケジュール遅延が起こりそうである。このとき、プロジェクトマネジャーはメンバーと対話をする。メンバーは「品質を重視しなくてはならないので、スケジュールを遅らせ、品質を確保すべきだ」という。これに対して、プロジェクトマネジャーは「品質を重視しているからといってスケジュールを遅らせるべきではない」という。
ここから、プロジェクトマネジャーとメンバーの真摯な対話が始まる。「スケジュールを遅らせても品質を確保することが本当の品質重視なのか」、「スケジュールが守れて初めて品質重視だといえるのではないか」、「品質とは顧客が決めるものであり、顧客満足が大切ではないか」などといった意見を交わしていく中で、プロジェクトにおける品質とは何かがわかってきて、成果物の品質だけではなく、スケジュール、コスト、顧客満足などの総合的なバランスの中に本当の品質はあるという結論にたどりつく。
そこで、プロジェクトマネジャーとメンバーは、そのバランスを探し、顧客満足を達成できるバランスを探すことにした。いわゆる落し処である。弁証法は統合マネジメントそのものであるとも言える。
プロジェクトマネジャーが現場力を持つには、対話力、つまり、対話を通じて、物事の本質に迫り、対話の開始の時点ではそれぞれが持たなかったより昇華した意見を持てるようにする力が必要である。
◆学習を伴うチーム育成には「対話」が欠かせない
戦略ノートの97回〜106回にかけて、学習する組織について書いた。
第97回 学習する組織に変える
ピーターセンゲの組織学習の中核をなすのはダイアログ(対話)である。同じように、チーム育成として、チームが学習して、パフォーマンスを上げていく中核をなすもの対話である。つまり、対話によって、チームとして学習した答えを見つけていく。これこそが現場力を持つプロジェクトあり、プロジェクトマネジャーだといえよう。
◆無から有を生み出す!
日本でもこの10年くらい、ロジカルシンキングやディベートというのがマネジメントの中に盛んに取り入れられるようになってきた。これはこれで意味のあることだが、注意しなくてはならないのは、無から有は生まれないということである。つまり、いくらディベートしようと、いくらロジカルシンキングしようと、その際に誰かが答えを持っていなければ永久に答えにたどりつくことはない。出てくる答えは所詮、妥協の産物にすぎない。
だから対話(ダイアログ)なのだ。対話を通じて、協調して答えを作り出すことこそ、厳しいプロジェクトを乗り越えていける力に他ならない。
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株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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