◆組織を動かす3つの方法
今回のPMスタイルは「組織を動かす」について考えてみたい。組織と言っているのは、企業全体から、事業部、部門、プロジェクトまで大小さまざまな組織。動かすと言っているのは大きくは、決定し、実行し、成果を出すことである。
組織を動かす方法にはいくつかの方法がある。
・権限(権力)
・仕組み
・対話(組織的コミュニケーション)
まず、誰もが考えるのは権限である。決めたとおりにやれという権限を持つことによって成果を出していく。
これに対して批判的な意見を持つ人は、決めても人は納得しないと動かないという。この意見は当たっている。が敢えて、納得しなくても動かすのが「権力」である。つまり、組織の中でルールとして、このことについてはこの人のいうことを聞けというのが権限だが、ルールだけでは動かない。権限に加えてパワーが必要で、それが権力である。
次に仕組み。決めたことを実行するために守るべきルールに落とす。そして、そのルールを守るように徹底的に管理することによって成果に結び付ける。これが仕組みだ。決め方そのものについても仕組みを作ることが多い。
三つめが対話。決めたことについてその実行の方法や、決め事自体について話し合いを行いながら、実行していく。
◆権力は時代錯誤か?
今は、権力で動かすのは時代錯誤だとか、仕組みで動かすのは柔軟性がなく今の時代には向かないといった風潮があり、対話とかコミュニケーションをベースにして学習しながら組織を動かすことに関心が高まっている。
この風潮時代に異議があるわけではないのだが、あまり、本質的な議論がされていないように思うので、今回、PMスタイルのテーマとして取り上げた次第である。
まず、最初にこの問いの立て方そのものがどうかということに触れておく。そもそも、上に示した3つの方法は対立的なものではない。というと、権力派と対話派は違うと思うかもしれないが、3つともすべて必要なのだ。これが結論。
◆X理論、Y理論、Z理論
みなさんはX理論とか、Y理論をご存じだろうか?ダグラス・マグレガーが人間に対する2つの対立的な考え方を命名したもので、
・権限行使による命令統制のX理論
・統合と自己統制のY理論
と呼ばれる。要するに、X理論は
人間は本来なまけたがる生き物で、責任をとりたがらず、放っておくと仕事をしなくなる
と考える。Y理論は
人間は本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をする
であると考える。ところが、一方の理論だけで人間の行動を完全に説明するのは難しく、W.G.オオウチによりセオリーZというのが提唱される。これは日本の経営手法に注目したとされ、責任、コンセンサスが経営手法に重要な要素として取り入れられている。
セオリーZはX理論とY理論を併せて発展させたものである。つまり、命令統制も自己統制も必要だとするのがセオリーZなのだが、日本人はX理論的なものを排除し、Y理論とセオリーZを重ね合わせようとしたと言われる。そしてこれが、決めない経営を生み出したとされる。
◆変化の大きさと速さを区別する
意思決定と実行の方法を語るときに、非常に気になるのは、変化と速さを混同した議論がされていることである。確かに、今のビジネスの特徴として、変化(の幅が)が大きい、変化(のスピードが)速く、併せて「変化の激しい」などと称するが、変化の大きさとスピードは本質的に別ものである。
変化が大きいことに対して必要なのは、柔軟に対応することである。つまり、実行力だといってもよい。しかし、変化が速いことに対して必要なのは早く対応を決めることである。つまり、意思決定力である。
このように考えてみると、権力と対話は相反するものではなく、ペアである。つまり、速さに対応するには権力が必要であり、大きさに対応するのは対話が適している。
問題は、権力と対話をどのように組み合わせていくかである。
◆2つのタイプの権力
ここで権力という言葉に対して、考えておくべきことがある。三谷哲夫さんが「独裁力」という本で、権力を求める人には権力自体をほしい人と、何かの目的のための権力がほしい人がいると指摘している。権力に対するネガティブなイメージがあるのは前者の人が多いからだが、ここで考えようとしているのは後者のタイプの権力である。
後者のタイプの権力には明確な目的があり、ビジョンがある。そして、ビジョンを実行するために権力を構築し使う。そのために行うべきことは、組織的コミュニケーションである。組織的コミュニケーションにより、決定した組織の方向性を浸透させ、同時に、ビジョン実現のための具体的な実行方法を考えさせ、実行させる。
これによって、意思決定も速くなり、実行において柔軟性が生まれる。ただし、微妙な問題として残るのは、意思決定者のビジョンを受け入れられるかどうかという問題である。
◆権力とはビジョン実現の手段
実はこの問題が権限と権力の違いの本質だと思う。前者のような権力者にはビジョンがない。ひたすら権力がほしく、人が自分の思うとおりに動いてくれることに快感を覚える。しかし、後者の権力者はビジョンに共感を得ようとする。その源泉は、ビジョンそのものかもしれないし、人間的魅力なのかもしれない。
つまり、権力の源泉は共感を与えるビジョンを掲げられることである。権力をうまく使うにはここを理解しておく必要がある。
【参考資料】
ダグラス・マグレガー「企業の人間的側面 ― 統合と自己統制による経営」、産能大学出版部; 新版(1970)
木谷哲夫「独裁力 ビジネスパーソンのための権力学入門」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2014)
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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