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第82話:レジリエンスについて考える(2014/04/07)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆レジリエンスという考え方

日本でも震災以降、レジリエンスという概念が注目されるようになってきています。PMstyleでもそろそろ、取り組もうと思っているところで、そんなこともあって今回のPMスタイル考はレジリエンスについて考えてみたいと思います。

まず、言葉の定義ですが、この分野でもっとも多くの人に読まれている本といわれる

アンドリュー・ゾッリ+アン・マリー・ヒーリー「レジリエンス 復活力--あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か」、ダイヤモンド社(2013)

によると、レジリエンスとは

システム、企業、個人が極度の状況変化に直面したときに、基本的な目的と健全性を維持する力

と定義されています。


◆エンジニアからマネジャーへのトランジション

この定義は抽象的ではありますが、非常にわかりやすいと思います。もっとも身近なのは個人レベルのレジリエンスですので、ちょっと例を挙げてみましょう。

新年度からマネジャー(管理職)に昇進された方も少なくないと思います。あなたはエンジニアの仕事をすごく気に入っていて、一生懸命、スキルを磨く努力をしていました。ところが、マネジャーになって、これまでしたくないと思っていた管理業務をしなくてはなりません。この状況変化は多くの人にとってキャリアの上で非常に大きなもののようです。ここでレジリエンスの高い人と低い人は行動が変わってきます。

レジリエンスの低い人はエンジニアとしての仕事の遂行にこだわります。これまで通り、自分たちのチームで高い品質の製品を出そうとし、管理業務になれると、従来通り、エンジニアとしての仕事にかかわろうとします。そのためには残業も厭いません。

つまり、状況変化の前の状態に戻ろうとするわけです。


◆レジリエンスの高い人、低い人

冷静に考えてみればすぐにわかりますが、このような行動は何一つよいことはもたらしません。問題点を挙げてみると

・自分自身が無理をする
・エンジニアの仕事の成果に影響が出かねない
・メンバーが育たない
・組織としての目的が達成できなくなるリスクがある

といったことがあります。レジリエンスという言葉は復元、つまり、元に戻すと訳されますので誤解されがちですが、元に戻すことはレジリエンスではありません。アンドリュー・ゾッリの本の定義にあるように、

基本的な目的と健全性を維持する力

がレジリエンスです。レジリエンスの高い人は、マネジャーになったときにどのようにふるまうのでしょうか?基本的な目的と健全性を維持しようとするわけです。


◆変化の中で目的と健全性を維持する

つまり、自分がこの会社で働いている目的は何か、自分が健全であるためにはどうなればよいかを考えます。たとえば、自分がこの会社で働いているのはこの会社の製品を多くの人に使ってもらうことだとします。これまではそのために、エンジニアとして一生懸命新しい技術を研究し、少しでも魅力的な商品を開発することに注力してきました。

マネジャーとして健全性を持ちながら、目的を果たすにはどうすればよいかを考えてみます。すると、メンバーが自分の想いを実現してくれることだと思うでしょう。そこで、メンバーにそのような環境を提供し、自分の目的がかなえられるようにすることを考えます。これがこの状況におけるレジリエンスです。レジリエンスの高い人は、いわゆる状況適応力が高く、うまく変化に対応していくことができます。

では、どうすればレジリエンスを高めることができるのでしょうか?個人のレジリエンスについては欧米では古くから「レジリエンス・トレーニング」と呼ばれる分野が確立されており、日本でも最近その流れを踏んだ本が出版され始めています。

久世 浩司「世界のエリートがIQ・学歴よりも重視! 「レジリエンス」の鍛え方」、実業之日本社(2014)

レジリエンスは定義からもわかるように個人レベルのものだけではありません。アンドリュー・ゾッリの本ではレジリエンスの高いシステムの例としてサンゴ礁、スイスの通貨制度、スマートグリッドの電力網、アルカイダ、結核菌などが取り上げられますが、レジリエンスというのはすべてのシステムに当てはまる概念です。


◆レジリエンスを高める原則と仕組み

そして、アンドリュー・ゾッリはレジリエンスを高める原則として以下の2つを上げています。

(1)回復不能なダメージを被りかねない領域に押しやられないように抵抗力を身につける
(2)閾値を超えてしまったときに、システムが健全に適応できる領域を維持し、拡張する

この2つの原則を満たし、レジリエンスの高いシステムを実現するには

・信頼性の高いフィードバックループ
・ダイナミックな再構築
・固有の対抗メカニズム
・分離可能性
・多様性
・モジュール構造
・単純化
・高密度化

といった仕組みが必要だとしています。詳しい話は本を読んでいただくとして、上で説明しましたようにレジリエンスは元に戻すことではありません。その意味で、ポイントになるのは、「ダイナミックな再構築」です。ダイナミックな再構築をするためには、捨てるものは捨てる必要がありますが、そのために必要なのがモジュール構造です。


◆レジリエンスの高いシステムの例

たとえば、最近日本でも注目されているスマートグリッドと呼ばれる電力網の新しいコンセプトがあります。電力網は基本的にフェールさせないことが基本ですが、スマートグリッドは電力供給(目的)を優先して、停電を防ぐためにフェールさせることがあります。それを可能にしているのが電力網のモジュール化で、細かなグリッドのネットワークを構築することです。

このような仕組みを導入することにより、電力需要が高まってピンチな状況でも、電力供給という目的や電力網の健全性を維持できる素晴らしいコンセプトなのです。

さらにこのシステムに発電方法の多様化が実現できるとますます、レジリエンスの高いシステムになります。

もう一つ、上のマネジャーになるときの例をこれらの仕組みで説明してみましょう。
おそらく、キーになるのはモジュール構造と多様性です。

エンジニアの多くの人は自分の活動は設計したり、作ったりすることだと捉えていると思いますが、これらの仕事は実はもっと細分化することができます。

たとえば、設計だと、ユーザーのニーズを洞察する、ユーザーの声を聞く、ユーザーに喜ばれるアイデアを出すこととか、アイデアを実現する方法を考えることとかです。自分の仕事をこのようにモジュールとしてとらえておくと、マネジャーになったときに設計はしなくても、マネジャーの仕事の範囲内ですべきことがあります。たとえば、ユーザーのニーズを洞察するとか、アイデアを出すことです。

すると、そのようなモジュールを入れながら、マネジャーとしての仕事を再構築することができます。これによって、エンジニアのときより、より目的実現に貢献できる可能性があります。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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